「若者の血液」あります
究極の若返り法を臨床試験中
若者の血の輸血でアンチエイジングはできるのか? 論争に便乗する形で、スタートアップ企業アンブロシアが臨床試験と称する輸血サービスを8000ドルで提供開始した。 by Ryan Cross2016.08.02
アンチエイジング療法の最先端は、現代医学とは思えない。スタートアップ企業アンブロシア(本社カリフォルニア州モントレー)は、35歳以上の希望者に若者の血液を注射する臨床試験中だ。ただし、料金は8000ドルである。
若者から老人への輸血というアイデアは、2014年、ハーバード幹細胞研究所のエイミー・ウェイガース研究員が、若いマウスの血液が年老いたマウスの筋肉や心臓、脳の機能を向上させることを発見したことがきっかけだ。科学者は、皮膚を縫合してマウス2匹の循環系を融合させた。1860年代に始まった手術(「並体結合」という)は、ウェイガース研究員の発見以降、再注目されている。
ペイパルの共同創業者でフェイスブックの出資者、ピーター・ティールは最近Inc.誌に並体結合は「非常に興味深い」と語り、自分の好奇心は将来性のあるビジネス・ベンチャーよりも自分の健康に傾いているといった。シールが老化との闘いに興味を示したのは今回が初めてではない。
アンブロシアの計画では、患者600人に16歳から25歳の若者の血液を週に1度、計4回輸血する。アンブロシアの創始者でスタンフォード・メディカル・スクール出身のジェス・カルマジンは、本誌による電子メールの問い合わせに、インタビューの依頼が殺到しており今日は話すことができない、と答えた。
アンブロシアの臨床試験が実質的な定額課金サービスであることは、一部の研究者の批判をまねいている。米国で急増している未実証の幹細胞クリニックは、決してデータが公開されることがない臨床試験について、患者に料金を要求している。アンブロシアの臨床試験では、100以上の血液バイオマーカーを一覧表に記載し、輸血前と輸血1カ月後に測定する予定だが、ノバルティスのエイジング研究所取締役のデイビッド・グラス所長は、アンブロシアの臨床試験にはプラシーボ対照群がないため、臨床試験で効果の有無は測定できないだろうという。
一方、アルカへストが実施している臨床試験では、若者の血液をアルツハイマー病の疑いがある患者に輸血している。臨床試験の結果は年末までに出る見込みだ。
2014年、ウェイガース研究員は2つの研究をサイエンス誌で発表し、GDF11の役割について概要を説明した。GDF11は、血液中のタンパク質の成長因子で、ウェイガース研究員によると、並体結合による若返りに関与しているという。ある研究では、GDF11によって年老いたマウスの筋力が向上し、別の研究では老齢脳を回復させる効果が実証された。
ウェイガース研究員の研究は、GDF11レベルは年をとるにつれて低下し、GDF11を回復させることで劇的な効果が得られることを示している。
しかし、いくつかの研究では、アンチエイジングのプロセスでのGDF11の役割に疑問を投げかけられている。ノバルティスの科学者は、ウェイガース研究員の研究と矛盾するデータを発表し、GDF11は実際のところ年齢とともに増加し、骨格筋の再生には逆効果であることを示した。ウェイガース研究員は同じような追跡調査で応酬し、GDF11のレベルと密接に関連しているGDF8というタンパク質は、両方とも年とともに減少するという以前の結果を再確認した。
しかし、決定的な証拠は出ていない。グラクソ・スミスクラインとファイブ・プライム・セラピューティクスの科学者による研究では、GDF11は老化した筋細胞の活性化には関与していないと判明した。6月には、GDF11を治療的に与えてもデュシェンヌ型筋ジストロフィーを患うマウスの筋機能は改善しないことが判明した。
ウェイガース研究員は、GDF11とよく似た性質のあるGDF8タンパク質の役割を区別する必要がある、と主張している。一件落着とはいかないが、最初に思われていたように、GDF11だけが強力なアンチエイジングのタンパク質ではなかったとしても、ウェイガース研究員の研究には、若者の血液には、若返りを促進する何かがあることは示している。
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クレジット | Photograph by Alex Wong | Getty |
- ライアン クロス [Ryan Cross]米国版 ゲスト寄稿者
- パデュー大学で神経科学と遺伝学を学び、ボストン大学の科学ジャーナリズムプログラムを卒業したジャーナリスト。コーヒーを飲むことと遺伝子編集の話も大好きですが、最新の科学トレンドや発見を解きほぐし、分かりやすく調合するのも得意です。