AI研究で存在感を増す中国企業、米国進出の理由
日本ではなじみのないテンセントは、8億8900万人が利用する「WeChat」を運営する中国の大手テック企業だ。豊富な資金とビッグデータを武器に、人工知能の分野での存在感を急速に高めている。 by Will Knight2017.05.08
中国のテック企業大手・テンセントが、シアトルにAI研究所を開設する。多くの産業の未来を握る技術をモノにしようという決意の表れだ。
テンセントは中国における著名なテック企業だ。運営するモバイルチャットアプリWeChatのアクティブユーザー数は8億8900万人を超え、圧倒的な成功を収めているほか、さまざまなソーシャルツール、電子商取引事業、ゲームなどを展開している。
中国南部にある製造業の中心地、深センに本社を構えるテンセントは、人工知能の開発と商用化における中心的存在になる可能性を秘めている。テンセントには優秀な研究者を引きつけるだけの資金、リーチ、データが豊富にあるからだ。
テンセントは実際に人工知能(AI)研究者の獲得にも乗り出している。音声認識や深層学習分野で著名な専門家ユー・ドンを新たに雇用し、AI研究所の副所長としてシアトル研究所の指揮を取ると発表した。かつてマイクロソフトで主席研究員を務めたユーは深層学習による音声認識の精度向上について研究しており、ここ数年間でめざましい成果を上げてきた。
テンセントがAI事業の拡大に乗り出したのはつい昨年のことだ。昨年12月、バルセロナで開かれた世界有数のAIカンファレンスでテンセントのAI研究所で働く研究者を取材した。テンセントはこのカンファレンスで熱心に自社の認知度を高め、人材を獲得しようとしていたのだ。テンセントによると、現在、各拠点で50人以上のAI研究者が活動しているとのことだ。
もちろん、AIに力を入れているのはテンセントだけではない。中国企業は近年、AI技術の向上にとても熱心に取り組んでいる。Web検索最大手のバイドゥはすでにAIに巨額の投資をしており、シリコンバレーで研究所を運営している。アリババが優れた研究論文を発表する一方で、多数の中国のスタートアップ企業がAIと機械学習の最先端の分野でのビジネスの成功を収めつつある。中国国内の学術研究も進んでいるものの、欧米のほうがいまだに一歩先を進んでいる。だからテンセントやバイドゥのような企業は米国に拠点を構えるのだ。
今後はAIが、運輸から医療、教育まであらゆる分野の産業に大変革をもたらすと予想されている。中国が第13次五カ年計画(中国の経済運営や事業計画を決定するもの)で、今後発展させるべき最重要分野の1つとして人工知能を挙げているのも至極当然のことだ。最近、国家発展改革委員会(NDRC)が承認した研究ネットワーク「国立深層学習研究所」で示されたように、数10万ドルもの資金が投じられることになる。
(関連記事:“米国政府も警戒する人工知能で進む中国企業のイノベーション,” “顔で決済,” “The Insanely Popular News App You’ve Never Heard Of,” “ポーカーで磨かれる中国のAI技術,” “China’s Five-Year Plan to Transform Its Robotics Industry,” “China’s First ‘Deep Learning Lab’ Intensifies Challenge to the U.S. in Artificial Intelligence Race”)
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- ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。