KADOKAWA Technology Review
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Smartphone-Controlled Cells Could Pump Insulin for Diabetics

スマホ制御のデザイナー細胞で、糖尿病患者の血糖値を一定に保つ

中国の研究者が、糖尿病のネズミの血糖値を一定に保つため、細胞の活動を光で制御する光遺伝学とスマホアプリを組み合わせた実験に成功した。他の病気の治療にも応用できる可能性がある。 by Emily Mullin2017.04.28

A researcher uses a smartphone to control light levels in mice with implanted LED discs.
マウスに埋め込んだLED盤の光の強さを研究者がスマホで制御しているところ

華東師範大学(上海)の叶海峰(イー・ハイフェン)教授を中心とする中国の研究チームが、スマホと光遺伝学の手法で細胞を正確に制御し、糖尿病のマウスにインスリンを注入している。この手法は、人間の糖尿病患者の血糖値を常時監視し、インスリン(食物に含まれる糖を身体が使えるエネルギーに変換するのに不可欠なホルモン)を自動的に生成するのに使える。

叶教授を中心とする研究チームは、植物で発見された光に敏感な遺伝子を使い、人間の細胞を遺伝子操作して、無線で電源供給される赤色のLED 照明の点灯を合図にインスリンが生成されるようにした。その後研究チームは、光源とデザイナー細胞を柔らかい円盤状の基板に埋め込み、マウスの背中に移植した。

特製のアンドロイド・ベースのスマホアポリがLED照明を点灯させ、光の強さを調節する。研究チームは毎日約4時間、糖尿病のマウスを光にさらし、血流中の標準的なインスリン生成量を15日間安定させることに成功した。

光遺伝学は最近注目の分野で、体内の生物学的活性を調整するために光に敏感なタンパク質を使う。パーキンソン病や統合失調症など、さまざまな病気の治療法として見込まれている手法だ。他にも、網膜色素変性症(失明に至る退行性の眼疾患)患者の視力回復を目指す、初の光遺伝学の臨床試験が進行中だ。

研究チームはインスリン供給の手法をサイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌で発表し、システムは照明や暖房、電子機器が互いに通信し、そのすべてをスマホやコンピューターのアプリで遠隔操作できる「スマート・ホーム」のコンセプトから着想を得たという。研究チームによれば、遠隔操作された細胞は「個別化、デジタル化、グローバル化された適確医療の新時代への道を開く可能性がある」という。

論文の上席著者である叶教授によれば、糖尿病患者を1日24時間監視し続け、スマホでデータを共有できる「完全に自動化された血糖値の監視と糖尿病治療システム」の実現が目標だという。

1型糖尿病の患者は、インスリン(糖またはグルコースをエネルギーに変換するのに必要なホルモン)を膵臓が十分に生成できない。現在、1型糖尿病患者は毎日数回インスリンを注射するか、皮膚下に入れたプラスチックチューブを通じてホルモンを注入するインスリンポンプを装着する必要がある。米国糖尿病学会によれば、 米国内で約125万人の子どもと大人が1型糖尿病を患っている。

光遺伝学はまだ初期段階だ。使われるべき光の周波数と、細胞を刺激するのに適切な強度で照明を発光させる方法のふたつが主な課題だ。

叶教授の論文の査読者で、関連する記事を執筆したワイオミング大学のマーク・ゴメスルキー教授(分子生物学)は、人間の患者の場合、皮膚下に円盤を埋め込む代わりに、LED照明のブレスレットを使って同じような効果が得られる可能性がある、という。ただし、遺伝子操作された細胞を注入する必要はあり、人間の患者の場合、どの程度の頻度で注入する必要があるかはわからない。

ゴメルスキー教授によれば、中国のチームの手法は、特に米国食品医薬局(FDA)が昨年、全自動インスリンポンプを初めて認可したため、1型糖尿病の治療方法としては最適な手法ではないかもしれない、という。しかしゴメルスキー教授は、遺伝的にコード化された医薬品を生成するように、遺伝子操作された細胞を遠隔操作する手法は、他の病気の治療に使える可能性があるという。

スマホ制御の治療で起きそうなもうひとつの問題は、セキュリテだ。叶教授は、アプリがハッキングに対してぜい弱である可能性を認めているが、暗号鍵を使うことでソフトウェア開発者が問題を簡単に解決できるだろう、という。

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クレジット Image courtesy of J. Shao et al., Science Translational Medicine (2017)
エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
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