スマホで健康管理
究極は「自撮り型医療」
心臓専門医でゲノム医療の専門家でもあるエリック・トポル教授は自身の取り組みを「自撮り型医療」と呼ぶ。 by Nanette Byrnes2016.07.25
スクリプス研究所の心臓病専門医であり、ゲノム学が専門のエリック・トポル教授は、患者ひとりひとりを個別に理解するためにDNA分析とデジタルテクノロジーを活用しようと、第一線で主張している。自身の患者に対してテクノロジーを応用するだけでなく、イルミナやギリアド・サイエンシズの企業アドバイザーも務めている。自身の見識をTwitterでも配信しており、この分野に興味がある人にとっては必読だ。トポル教授は著書『医療の創造的破壊(The Creative Destruction of Medicine)』で、コストをかけずに個人のゲノム配列を解析できるようになったこと、無線テクノロジーによる健康アプリなどのおかげで、医療ケアは以前よりカスタマイズしやすくなり、効率的になったと論じている。以下は、トポル教授(カリフォルニア州ラホヤ在住)とMIT Technology Reviewビジネスレポートのナネット・バーンズ編集長(マサチューセッツ州ボストン)との電話インタビューの内容である。
携帯電話などの機器による健康データの追跡は、より個人的な医療を実現する1つの方法と主張していますね。
継続的に血圧や心拍数、血糖値などを測定する機器はたくさんあります。私は診察中にスマホで身体の高解像度超音波検査をしています。800ドルから1000ドルかかる超音波検査を患者に受けに行かせる必要はないのです。診察中に、結果について患者と話し合えますしね。スマホがあれば、子供の耳の検査もできますし、医者に行かずとも目の検査だってできます。パーキンソン病特有の震えや音声、足取りなども測れますし、薬を服用すべきか、どれくらい服用すべきか、わかるのです。私たちは自分の健康を「自撮り」できるわけです。多くの人が健康管理ウェアラブル機器のフィットビット(Fitbit)や歩数計で自分の健康状態を判断(自己測定)していますが、かなり的外れなことです。
おっしゃるとおり、まったく異なったテクノロジーの利用が遺伝医学関連では同時多発的に起きていますね。
ゲノム解読のコストは著しく下がっています。しかし、ゲノム解析を元に開発された新薬は珍しい病状が対象で、とてつもなく高価なのが現在の問題です。もし自分の病気がゲノム編集で治癒できるなら、いくらかかるのか気になります。遺伝子編集による治療費は、既存の高価な治療(リスクや副作用もある)の代りとして、いくら分の価値があるでしょうか。
トポル教授が主唱者である適確医療(Precision Medicine)について心配はありますか?
最も残念なのはセキュリティの問題です。私たちの医療データが売り飛ばされ、ハッキングされ、侵入されているのです。昨年1億人のアメリカ人の医療記録がハッキングされたのに対して、正常にオンラインでアクセスされたのは約500万人分の記録です。脆弱性があるのです。
誰も自分の医療データを所有していませんが、当然所有すべきです。自分のデバイスでデータを生み出し続けているのに、データには帰る場所がないのです。医療界からの激しい抵抗があるでしょうが、医者は、患者のデータであることを受け入れるべきでしょう。
患者や一般のユーザーは膨大なデータを理解できるでしょうか?
それが次の問題です。データを扱い、データを人工知能や深層学習で処理するのです。まだあるべき状態にたどり着いていません。有効なアルゴリズムでデータをリアルタイムで処理し、個人にフィードバックされれば、ボトルネックはなくなり、先に進めるでしょう。このことに取り組んでいる企業もあります。理想は、(センサーや画像から得られた)全データをとらえ、機械学習で分析し、予測できれば、個人に合わせた医療的助言ができます。
こうした問題を解決するのにどのくらいかかるでしょうか?
私は昔から非現実的で、物事がすぐに変わることを望んでいるのですが、これは時間がかかるでしょう。
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- ナネット バーンズ [Nanette Byrnes]米国版 ビジネス担当上級編集者
- ビジネス担当上級編集者として、テクノロジーが産業に与えるインパクトや私たちの働き方に関する記事作りを目指しています。イノベーションがどう育まれ、投資されるか、人々がテクノロジーとどう関わるか、社会的にどんな影響を与えるのか、といった領域にも関心があります。取材と記事の執筆に加えて、有能な部下やフリーライターが書いた記事や、気付きを得られて深く、重要なテーマを扱うデータ重視のコンテンツも編集します。MIT Technology Reviewへの参画し、エマージングテクノロジーの世界に飛び込む以前は、記者編集者としてビジネスウィーク誌やロイター通信、スマートマネーに所属して、役員会議室のもめ事から金融市場の崩壊まで取材していました。よい取材ネタは大歓迎です。nanette.byrnes@technologyreview.comまで知らせてください。