ダイアウルフを復活させた?
脱絶滅企業が作り出した
「白いオオカミ」の正体
1万3000年前に絶滅したダイアウルフをよみがえらせた——。「脱絶滅」を掲げる米国のスタートアップ企業コロッサル・バイオサイエンシズが、大胆な主張を発表した。遺伝子工学技術で20カ所の改変を施したという白いオオカミは、科学界からは批判を浴びている。謎めいた保護区で飼育されるこの動物たちの正体とは? by Antonio Regalado2025.04.15
- この記事の3つのポイント
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- 1万3000年前に絶滅したダイアウルフを復活させたとスタートアップ企業が発表
- 遺伝子編集とクローン技術により白いオオカミ3匹を誕生させたが科学界から批判も
- 生態学的意義は不明確で、一般公開予定はないものの商業的な意図があると見られる
米国北部のどこかで、8平方キロメートルの保護区の上空をドローンが飛行している。その区域は動物園の基準に準じた高さ2.7メートルのフェンスで囲まれ、壮大な空想や神話上の生き物に情熱を持つ人々を含む、好奇心旺盛な訪問者の立ち入りを禁じている。
なぜそこまで厳重な警備が必要なのか? その保護区内では、ひときわ目を引く真っ白なオオカミ3匹が歩き回っているからだ。スタートアップ企業のコロッサル・バイオサイエンシズ(Colossal Biosciences)によれば、これらのオオカミは1万3000年前に絶滅した種の血を引き、生物工学によって「復活」したものだという。
テキサス州に拠点を置く同社は、かねてよりケナガマンモスの復元計画で話題を呼んでいた。だが今回は、それを上回る大胆な主張をしている。「ダイアウルフ」という動物を、実際に絶滅から復活させたと発表したのだ。
フェンスで厳重に囲い、場所を非公開にしているもう一つの理由は、科学界からの批判を避けるためかもしれない。すでに一部の批評家たちは、同社が「巨大な幻想」を大衆に売り込み、「純然たる誇大宣伝」に関与しているとして、「詐欺的」だと非難している。
ダイアウルフは、大型で強力なアゴを持つイヌ科動物である。その頭蓋骨は、カリフォルニア州の天然アスファルトの池「ラ・ブレア・タールピット」から400体以上が発掘されている。最終的にダイアウルフは、ハイイロオオカミのような、より小型の近縁種に取って代わられた。
コロッサル・バイオサイエンシズの説明によれば、この動物を再現するにあたって、同社はダイアウルフの骨からDNA情報を抽出し、その一部を遺伝子編集技術を用いてハイイロオオカミの細胞に導入したという。続いて、クローン作製技術を用いてその細胞から3匹の実在する個体を作り出した。
そのうち2匹は10月に誕生したオスの「ロムルス」と「レムス」、もう1匹はメスの「カリーシ」である。この名前は、架空のダイアウルフが登場するドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にちなんでいる。
コロッサル・バイオサイエンシズによると、動物たちはそれぞれ、14種類の遺伝子にわたって合計20カ所の遺伝的改変が施されている。これらは、体を大きくし、顔の形を変え、雪のように白い外見を与えるための設計である。
複数の科学者は、この新しい動物が絶滅種の復活であるという同社の主張を否定している。なぜなら、ダイアウルフとハイイロオオカミは実際には異なる種であり、両者の間には数百万年に及ぶ進化の隔たりと、DNA配列における数百万文字分の差異が存在するからだ。
「そのような動物をダイアウルフと呼ぶことはできませんし、ダイアウルフが絶滅から蘇ったというのは正確ではありません。それは改変されたハイイロオオカミです」。イヌ科動物の進化を専門とする英国イースト・アングリア大学のアンダース・バーグストローム講師はこう解説する。「20カ所の改変ではまったく不十分です。それでも、見た目が変わったハイイロオオカミにはなるかもしれません」。
古代DNAの専門家で、現在カリフォルニア大学サンタクルーズ校から3年間の研究休暇を取得中のベス・シャピロ教授は、コロッサル・バイオサイエンシズの最高科学責任者(CSO)を務めている。彼女は、他の科学者たちがこの主張に憤慨するだろうことをインタビューで認めている。
「ここで生じるのは、それを『ダイアウルフ』と呼ぶべきか、それとも別の何かと呼ぶべきかという、哲学的な議論なのです」(シャピロ教授)。この動物を「ダイアウルフ」と呼ぶように率直に求めると、彼女は一瞬ためらったが、結局はその名で呼んだ。
「あれは、ダイアウルフです」とシャピロ教授は口にした。「こんなことを言ったら、分類学者の友人たちが皆『もう彼女とは付き合えない』と言い出しそうですが、これはハイイロオオカミではありません。見た目もまったく異なっています」。
それが本当にダイアウルフかどうかは別として、この新しいオオカミは、科学が動物のゲノムをいかに巧みに制御できるようになってきているかを示している。そしてその技術は、種の保全にも貢献し得ることを示している。コロッサル・バイオサイエンシズは、このプロジェクトの一環として、世界で最も絶滅の危機に瀕しているオオカミの一種であるアメリカアカオオカミのクローンも複数作製したと述べている。
とはいえ、それは熱狂的な注目を浴びる「絶滅種の復活」という話ほど劇的なものではない。「本当の目的は、絶滅を防ぐために活用できる技術を開発することにあります。そのために古代DNAが必要かと言われれば、おそらくそうではないでしょう」とシャピロ教授は話す。「けれど、それが注目されることで、生物工学を保全に活用できるという発想に、人々が心を動かされるようになるかもしれません。おそらく、そうなるでしょう」。
秘密のプロジェクト
コロッサル・バイオサイエンシズは、ソフトウェア起業家のベン・ラムによって2021年に創業され、現在彼が最高経営責任者(CEO)を務めている。同社の創業は、彼がハーバード大学の遺伝学者ジョージ・チャーチ教授を訪れ、ケナガマンモスを再現するという、突飛ながらも理論的にはおおむね成立する計画を知ったことに端を発している。その構想は、マンモスの群れをシベリアのような寒冷地に放ち、生態系のバランスを回復させ、永久凍土に閉じ込められた温室効果ガスの放出を抑えようとするものだった。
ラムCEOはこの計画に対して、予想を超える4億ドル以上の資金を投資家から調達することに成功した。このスタートアップ企業に100億ドルの企業価値がついたことにより、少な …
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