KADOKAWA Technology Review
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グリーン鉄鋼、商業化へ前進 ボストン・メタルが1トンの製造に成功
Boston Metal
This startup just hit a big milestone for green steel production

グリーン鉄鋼、商業化へ前進 ボストン・メタルが1トンの製造に成功

CO2を排出しない電気分解による「グリーン鉄鋼」の製造に取り組むMIT発のスタートアップが、産業規模リアクターで実証に成功した。2027年の実用化を目指す。 by Casey Crownhart2025.03.19

この記事の3つのポイント
  1. ボストン・メタルが温室効果ガスを排出せずに鋼鉄を製造する技術を実証
  2. 1トン以上の金属を製造できる大型リアクターの稼働に成功
  3. 電気を利用した溶融酸化物電解法により二酸化炭素の排出を抑制
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

グリーン鉄鋼のスタートアップ企業であるボストン・メタル(Boston Metal)は、温室効果ガスを大量に排出することなく鋼鉄を製造するために必要なものがすべて揃っていることを実証した。ボストン・メタルはこれまでで最大規模の鋼鉄製造用リアクターの稼働に成功し、1トン以上の金属を製造したという。MITテクノロジーレビューの独占リポートだ。

この最新のマイルストーンは、ボストン・メタルが自社技術の商業化に向けてさらに一歩前進したことを意味する。同社は電気を用いて鋼鉄を製造するが、使用する電力源によっては、地球上で最も汚染された材料の一つである鋼鉄の生産をクリーン化できる。世界では毎年約20億トンの鋼鉄が生産され、その過程で30億トン以上の二酸化炭素が排出されている。

鉄鋼業界に大きな影響を与える規模に到達するには、まだ数多くの課題を克服しなければならないが、今回の稼働は同社がプロセスをスケールアップできることを示すものだ。

ボストン・メタルは1月に産業規模の鋼鉄製造用リアクターを稼働させ、数週間にわたり運転を継続した後、2月17日におよそ1トンの金属材料を取り出した(溶融金属の映像はここで見ることができる。本当にすばらしい)。

この鋼鉄製造用リアクターの開発は以前から進められていた。私は2022年に、マサチューセッツ州ウォーバンにある同社のほぼ完成した施設を訪れる機会があった。それ以来、同社は鋼鉄製造用に改造する前に、他の金属を製造してリアクターの試験を実施してきた。

ボストン・メタルの製鉄法は、従来の製鉄所とは大きく異なる。通常の製鋼プロセスでは、高炉を使用し、石炭由来の燃料であるコークスを燃焼させて鉄鉱石を鉄(鋼鉄の主要成分)に変える反応を促進する。コークスに含まれる炭素は、鉄鉱石から取り出された酸素と結合し、二酸化炭素として放出される。

一方、ボストン・メタルは電気を利用した「溶融酸化物電解(MOE:Molten Oxide Electrolysis)」というプロセスを採用している。鉄鉱石をリアクターに投入し、他の材料と混ぜ合わせた後、電気を流して混合物を約1600°Cまで加熱し、鉄を生成するための反応を促進する。こうして得られた鉄は、その後鋼鉄へと加工することができる。

気候変動の観点で重要なのは、このプロセスでは二酸化炭素(悪名高い温室効果ガス)ではなく酸素が排出されることだ。電源として風力や太陽光、原子力などの再生可能エネルギーを使用すれば、この手法によって鋼鉄生産による気候への影響を実質的に排除できる。

MOEはマサチューセッツ工科大学(MIT)で開発され、ボストン・メタルはこの技術を商業化するために2013年に設立された。それ以来、同社はコーヒーカップほどの大きさのリアクターを用いた実験室規模から、一度に何トンもの金属を生産できる大規模なものへと技術を進化させてきた。この規模の拡大は、年間数十億トンの鋼鉄を生産する業界にとって極めて重要な要素である。

「私たちの周りには膨大な量の鋼鉄があります」とボストン・メタルの事業開発担当上級副社長、アダム・ラウワーディンクは語る。「とてつもない規模です」。

factory view of Boston Metal and MOE Green Steel
BOSTON METAL

商業的に成立するほどの大量の鋼鉄を製造することは、これまで技術的に極めて困難だった。

ボストン・メタルのアプローチの重要な要素の一つが、陽極(アノード)である。これは基本的に丸みを帯びた金属棒で、リアクターに差し込まれている。ここから電気を送り込み、必要な化学反応を促進するのだ。理論上、このアノードは消耗しないはずだが、条件が最適でない場合、時間の経過とともに劣化する可能性がある。

ラウワーディンク本部長によると、同社は過去数年間にわたり、不活性陽極の劣化を防ぐ研究で大きな進歩を遂げてきたという。最新の開発フェーズはさらに複雑だ。同社は現在、同じリアクター内に複数のアノードを設置しているからである。

実験室規模のリアクターではアノードは1つだけで、非常に小さい。しかし、より大きなリアクターではより大きなアノードが必要となり、ある時点でアノードの数を増やす必要が出てくる。最新の稼働結果は、ボストン・メタルのアプローチがスケールアップ可能であることを引き続き証明しているとラウワーディンク本部長は述べる。リアクターの規模を拡大し、アノードの数を増やし、さらに複数のリアクターを1つの工場に統合することで、必要な量の金属材料を生産する計画だ。

同社は、複数のアノードを搭載した鋼鉄製造用リアクターの初回稼働を完了した今、この拡大したスケールでどのような反応が起こるのかを引き続き探求する計画である。今後の試験運転は、同社の製品の製造コストをより正確に把握するのにも役立つだろう。

次のステップは、ウォーバンの施設には収まらない、さらに大規模なシステムを構築することだとラウワーディンク本部長は語る。現在のリアクターは約1カ月で1~2トンの鉄を生産できるが、実際の産業規模の設備では、その量の金属をわずか1日で製造することになる。この実証プラントは2026年後半に試験運転を開始し、2027年に本格稼働する予定だという。同社は最終的に、自社技術を鉄鋼メーカーにライセンス供与することを目指している。

鉄鋼やその他の重工業では、その規模は圧倒的なものになりうる。ボストン・メタルは10年以上にわたり製鉄技術の開発に取り組んでおり、この巨大な産業への参入に向けて前進する様子を見守るのは非常に興味深い。

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私は2022年にマサチューセッツ州にあるボストン・メタルの施設を訪問している。同社のテクノロジーの詳細については、この記事で読んでほしい(内容は現在でもほぼ通用すると思う)。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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