KADOKAWA Technology Review
×
主張:米国の電力危機解決の最短ルート、送電網の効率化にあり
Getty
気候変動/エネルギー 無料会員限定
The cheapest way to supercharge America’s power grid

主張:米国の電力危機解決の最短ルート、送電網の効率化にあり

米国の電力需要が急増する中、送電線新設の許認可問題が深刻な障壁となっている。送電線のダイナミック・レーティングや高性能導体などの先進技術を導入することで、新規建設費用のわずか1%で送電容量を50%以上増加させ、年間数十億ドルのコスト削減を実現できる。 by Rob Gramlich2025.03.18

この記事の3つのポイント
  1. 米国の電力消費量は急速に増加しており送電網の拡張が必要だ
  2. 新規送電線の設置には多大なコストと時間がかかる問題がある
  3. 先進的送電技術(ATT)の導入で送電網の容量と効率を向上できる
summarized by Claude 3

データセンター建設ブームや製造業の回復、電気自動車(EV)の普及もあって、米国の電力消費量はここ数十年で急速に増加している。

この増加に対応するには、これまで以上に速いペースで風力発電所や太陽光発電所などの発電所を建設し、新たな発電源を送電網に接続するために送電線を拡張する必要がある。

だが、大きな問題が残っている。それは、新たな送電線設置の許可を取得し、全米に送電線を敷設するにはコストも時間もかかることだ。この難題は、より多くの発電源を送電網に接続する上で最大級の障害となっており、新規発電所への投資は減り、既存発電所は送電網への接続を待つ「相互接続待ち」で何年も待たされている。

幸いなことに、まったく新しい設備を必要とせずに既存施設の容量拡大を可能にする近道がいくつかある。「先進的送電技術(ATT:Advanced Transmission Technologies)」と呼ばれるハードウェアとソフトウェアのツール一式のことだ。ATTを使うと送電網の容量と効率の両方を向上させることができる。

ATTは、送電網の更新にかかる時間を大幅に短縮し、厄介な許認可問題を回避し、米国の消費者にとって年間数十億ドルもの節約になる可能性を秘めている。また、送電網への接続を待っている合計約2600ギガワット分の発電・蓄電設備の大部分をすぐに送電網に接続するのにも役立つだろう。

ATTを活用して米国における電力供給と電力消費のあり方を一新するこのチャンスは、議員たちがめったに出くわすことのない道に落ちている20ドル札のようなものだ。ATTの開発と利用を促進することは、ワシントンD.C.の政治家だけでなく、全米の電力市場規制当局にとって最優先事項であるべきだ。

トランプ新政権もその対象となる。トランプ新政権は、電力供給の拡大と消費者のコストを低く抑えることが最優先事項だと明言している。

ワシントンはこの1カ月、大統領の権限の限界に挑戦し、公務員を解雇し、連邦政府の基本業務を混乱させようとするトランプ政権の取り組みに振り回されてきた。しかし、ホワイトハウスと議会が新たなエネルギー政策の制定に乗り出すなら、この革新的な送電網テクノロジーの導入を加速するための超党派の法案を成立させるという20ドル札を拾い上げるのが賢明だろう。

ATTは一般的に4つのカテゴリーに分類される。すなわち、現地の天気予報と送電線上または送電線付近の測定値を組み合わせて、条件が許す限り送電線の容量を安全に増加させる「送電線のダイナミック・レーティング(DLR、動的線路定格 )」、炭素繊維、複合材 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  2. This artificial leaf makes hydrocarbons out of carbon dioxide 人工光合成が次段階へ、新型人工葉が炭化水素合成に成功
  3. Everyone in AI is talking about Manus. We put it to the test. ディープシークの衝撃再び? 話題の中国製AIエージェントを試してみた
  4. AGI is suddenly a dinner table topic 膨らんではしぼむ「AGI」論、いまや夕食時の話題に
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る