スペースX、次は24時間以内のロケット再発射に挑戦
スペースXが次に目指すのは、24時間以内のロケット再発射だ。ペイロード(積載物)の重量や衛星を投入する軌道にもよるが、ロケット本体は打ち上げコストの3割を占めるるため、再利用型ロケットにより、商用ロケット市場に大きな変化が起きる可能性がある。 by Jamie Condliffe2017.04.03
スペースXは再利用型ロケットで歴史に名を残し、商用宇宙旅行の未来まで描き直そうとしている。
3月30日午後、イーロン・マスクが設立した宇宙飛行企業スペースXが偉業を成し遂げた。スペースXは史上初めて、再利用型ロケットブースターを宇宙まで打ち上げることに成功したのだ。成功は打ち上げだけではない。衛星を静止軌道に乗せ、宇宙から地上にロケットを帰還させ、積載物(ペイロード)を覆っていたフェアリング(ロケット先端部分)まで回収して再使用しようとしている。
今回の偉業は、スペースXが15年間の月日をかけて取り組んだ成果であり、商用の宇宙飛行を事業化する強い意志のたまものだ。スペースXは、ロケットを低コストで運用し、事業化する構想を実現するため、再利用型ロケットをビジネスモデルの必須要素として、ずっと温め続けてきた。なお、MIT Technology Reviewは、2016年版ブレークスルー・テクノロジー10のひとつに再使用型ロケットを選定済みだ。
再利用型ロケットは、非常に合理的なアイデアだ。ニューヨーク・タイムズ紙の記事にあるとおり、スペースXが実行した典型的なロケットの打ち上げ費用は約6200万ドル。費用には、打ち上げごとに、地球に落下して粉々になって帰還するロケットの購入代金も含まれる。スペースX幹部は、再利用型ロケットを使えば打ち上げ費用を30%も削減できると述べた。
しかし現在まで、軌道ロケットの再利用に成功した企業はなく、30日のロケット打ち上げの様子は、多くの関係者がハラハラした思いで見守っていた。軌道に乗った衛星の依頼主であるSES(ルクセンブルクに本社がある衛星運用企業)が、ロケットの信頼性に関わる懸念を払拭するため、どれほど割引を受けたかは不明だ。それでもSESがホッとため息をつけたのは、イーロン・マスクの気持ちが高ぶったときだけだ。打ち上げ成功を受けてマスクは「今日は偉大な日です(略)はっきりいって、とても驚きましたよ」と熱く語った。
アース・テクニカの記事にあるとおり、スペースXの現在計画しているのは、打ち上げを実現させたイーロン・マスク式の野望をどんどん進めることだ。計画では、ロケットを打ち上げ、帰還させ、24時間以内に再度打ち上げるサイクルを2018年までに実現する。スペースXは、ロケットを改装作業なしで10回連続で打ち上げ、ロケット1基を最大100回使い回して打ち上げようとしている。
この計画の実現に、どれほどの労力がかかるのかは不明だ。そもそもスペースXは、30日に初めて打ち上げられたロケットについて、次回の再打ち上げまでの作業日数を明らかにしていない。しかし、スペースXが試験発射を重ねれば、ロケットを頑丈にするのに必要な見直し点を細かく調整できるだろう。いずれにしても、相当な数の困難を経験してきたスペースXにとって、今回の最初の試験発射が無事に終わった以上、設計の見直し作業に手こずることはないだろう。
スペースXがロケットを24時間以内に再打ち上げできれば、マスクは宇宙事業の覇権を手に入れたのも同然だ。30日の打ち上げを受けて、マスクは記者会見で次のように述べた。
ロケットの再利用については、非常に難しいとか、実現不可能だとか考えられてきました。今や、打ち上げの費用で他社と差をつけるには、他社でも我が社と同じことをしなければなりません。我が社がロケット販売に携わって何度でも打ち上げられる製品を売り出す一方で、我が社以外では1度しか打ち上げられないロケットを売り出したとしたら、そういった企業は他社と差をつけられるような状況にあるなんて、もういえませんよ。
マスクの風変わりなアイデアを、シリコンバレーのエリートだけが口に出来る大袈裟な表現だと一蹴したくなることはよくある。だが今回に限っては、マスクの楽観的な考えを疑うのは難しいようだ。マスクは世界に向かって再利用型ロケットの実現を約束し、その約束を守った。もしかしたら火星に人類を送り込むマスクの構想も、それほど現実離れしてはいないのかもしれない。
(関連記事:New York Times, Ars Technica, “Reusable Rockets,” “スペースXの打ち上げ再開に暗雲 イーロン・マスクの火星行き計画に影響も,” “火星移住:イーロン・マスクが「すごいけいかく」を発表”)
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- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。