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「12日間の新製品まつり」に透けるオープンAIの焦り
Ground Picture / Shutterstock
OpenAI's "12 days of shipmas" tell us a lot about the AI arms race

「12日間の新製品まつり」に透けるオープンAIの焦り

オープンAIは、12日間連続で新製品を発表するオンライン・イベントを開催中だ。華やかな演出の裏には、急速に変化するAI業界の競争環境と、収益拡大を迫られる同社の切実な事情が透けて見える。 by Mat Honan2024.12.10

この記事の3つのポイント
  1. オープンAIは12日間の新製品発表イベントを開催中だ
  2. 同社はこの2年間、他社に先駆けて次々と新製品をリリースしてきた
  3. オープンAIは巨額の損失を出しており収益拡大が急務である
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

オープンAI(OpenAI)は先週、「オープンAIの12日間」または「シップマス(shipmas)の12日間」と呼ぶイベントをスタートした。サム・アルトマンCEOは12月4日、Xに「『オープンAIの12日間』を開催します」と投稿し、「平日は毎日、新製品の発表やデモをライブ配信します。大きな発表もあれば、ちょっとしたサプライズも用意しています」と告知した。

12月の12営業日にわたって毎朝、新製品に関するライブ配信をするという(日本版注:shipmasは製品を出荷するという意味のshipとクリスマスを掛け合わせた造語。「12日間」はクリスマスの歌に掛けている)。メディアを意識したスケジュールで、インパクトのある「お祭り」だ。だが同時に、AI業界の競争がいかに熾烈になっているか、またオープンAIがどれほど収益拡大に躍起になっているかを物語るものでもある。

AGI(汎用人工知能)をクリスマス・ツリーの中に隠しているかどうか、あるいはサム・アルトマンが「真実の愛」を運んでくる人なのかどうかはともかく、オープンAIが製品をリリースする能力は確かなものだ。新製品を次々と市場に投入し、ユーザーの手に届けるという面で、オープンAIは他を圧倒している。チャットGPT(ChatGPT)がリリースされたのがちょうど2年前のほぼ同時期であったことを考えると、この2年間の動きは実に驚異的だ。チャットGPTは確かに世界を変えるリリースだったが、それでも同社の多くの成果の1つに過ぎない。2022年以降、オープンAIはダリー(DALL-E )2、ダリー3、GPT-4チャットGPTプラスリアルタイムAPIGPT-4o高度な音声モード、新モデル「o1」のプレビュー版、そしてWeb検索エンジンをリリースしている。しかも、これらもほんの一部なのだ。

12日間のイベントが始まった初日、オープンAIは正式に「o1」を公開し、月額200ドルの新サービス「チャットGPTプロ」を発表した。翌朝には、モデルの新しいカスタマイズ手法についても発表があった。

一連の発表から感じるのは、オープンAIは製品のネーミングに苦手意識を持っているかもしれないということだが、それより注目すべき点は、同社が新製品をリリースする環境が、2年前とは大きく異なっているということだ。DALL-E 2がリリースされた当時、オープンAIはまるで市場で唯一無二の存在かのようだった。その数カ月後にチャットGPTが登場し、独走状態は続いた。そしてこれらがグーグルをパニック状態に陥れ、「コード・レッド」を発令させる引き金となった。業界全体が激しい競争へと突入したのだ。

現在、オープンAI、グーグル(ちょうど1年前にジェミニ=Geminiモデルを一般公開した)、アンソロピック(Anthropic、元オープンAIのメンバーが創業)、メタ(Meta)、そして部分的にはオープンAIのパートナーであるマイクロソフトとの間で全面的な競争が繰り広げられている。

具体的には、およそ1カ月前、アンソロピックはチャットボット「クロード(Claude)」において、コンピューター画面を操作できる驚くべきデモを公開した。今回の「シップマス」の初日には、マイクロソフトがAIビジョンを利用してWeb閲覧中にユーザーをサポートする「コパイロット・ビジョン(Copilot Vision)」を発表した。また、「シップマス」の目玉となるオープンAIの新しい動画生成ツール「ソラ(Sora)」のリリースに先駆けて、グーグルは独自の生成AI動画製品「ベオ(Veo)」を発表している(ただし、まだ一般公開には至っていない)。

それからもう1つ、「シップマス」に先立ってオープンAIが発表したニュースがある。防衛請負業者であるアンドゥリル(Anduril)との新たなパートナーシップだ。読者の中には、オープンAIがかつて自社技術を兵器開発や軍事用途に使用しないと誓った会社であったことを覚えている人もいるかもしれない。だが、本誌のジェームス・オドネル記者が指摘するように、「オープンAIの軍事利用禁止ポリシーは1年足らずで崩壊した」のだ。

それ自体注目すべき事実だが、同時にオープンAIがどれほど資金を必要としているかを明確に示す動きだとも言える。たとえば、今回発表された月額200ドルのチャットGPTプロのように、ユーザーからの継続的な収益は必要なキャッシュフローをもたらす。だが、莫大な防衛予算はその比ではない。さらに、同社はサービスに広告を導入することも検討していると、サラ・フライアーCFOがフィナンシャル・タイムズのインタビューで語っている。これも、先週月曜日の話だ。

よく言われるように、オープンAIは莫大な資金を燃やし続けている。同社は今後数年間で数十億ドル規模の損失を計上する見込みで、大幅な収益増加が必要だ。そのためには常に競合他社の一歩先を行く必要があり、他社製品よりも優れた新しく魅力的な製品を市場に投入する必要がある。つまり、製品をリリースし、収益化し、再びリリースし、収益化し続ける必要がある。グーグル、アンソロピック、メタをはじめ、他の企業が新しい製品やサービスを次々に投入してくるからだ。

競争は激化している。「シップマスの12日間」は楽しいイベントに見えるかもしれないが、社内には12月23日のサンタの工房のような緊張感があるのではないだろうか。プレッシャーがかかっている。納期が迫っているのだ。

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マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
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