「培養肉」は救世主になれるか ? 苦戦続く代替食品の厳しい現実
肉の代替食品は家畜からの温暖化ガス排出量を削減し、地球温暖化対策の後押しになる可能性がある。多くの企業が植物由来の製品や培養肉の生産に取り組むが、重要なのはそれが消費者に受け入れられるかどうかだ。 by Casey Crownhart2025.01.09
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
感謝祭で私は、マッシュポテトやグリーンビーン・キャセロールとともに、ボリューム満点のハムや七面鳥を堪能した。
私たちの食卓では肉が主役となることが多いが、動物性食品への愛着は気候にとって問題となっている。計測方法にもよるが、畜産業が世界の温室効果ガス排出量で占める割合は10%から20%とされている。
動物の飼育や屠殺を必要とする食品を模倣したり、代替したりしようとする食品は増え続けている。これらには、植物由来の製品や、新たに認可された培養肉(研究室育ちの肉)などがある。私が以前の記事で取り上げたように、メニューに加えられるようになることを期待して、研究室で微生物を培養する企業も増えている。
だが、編集部の同僚に代替食品について話すと、いつもこう言われる。重要なのは、それが受け入れられるかどうかだ。
食糧は、解決が最も難しい気候問題のひとつかもしれない。技術的には、気候に最も悪影響を与えるような、温暖化ガス排出量の最も多い食糧(牛肉など)を食べる必要などない。しかし、何を食べるかは個人の自由であり、多くの場合、文化や社会生活と密接に関わっている。バーベキューでは多くの人はハンバーガーを食べたいし、ディナーで美味しいステーキも食べたい。
食糧システムの気候への影響という課題は、ますます厄介なものになっている。豊かな国々では肉を多く食べる傾向があり、世界中で人口が増加し、生活水準が向上するにつれ、家畜が生産する温暖化ガスの排出量も増加するだろう。
このような傾向に対抗する取り組みである代替食品は、私たちが慣れ親しみ、好んでいるものに似た食品を、気候への有害な影響を減らして提供することを目指している。ビヨンド・ミート(Beyond Meat)やインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)などの企業が提供する植物由来の代替食品は近年爆発的に増加しており、スーパーマーケットやバーガーキングなどの大手ファストフード・ブランドのメニューにも登場している。
問題は、多くの代替製品が最近苦戦していることだ。グッド・フード・インスティテュート(Good Food Institute)の報告書によると、2021年から2023年の間に、米国における代替肉の販売量は26%減少しており、植物由来の代替肉を購入する世帯は減少している。消費者は、代替食品は依然として味と価格の面で合格レベルに達していないと指摘している。この2つは、人々が何を食べるかを決定する上で重要な要素である。
そのため、企業はより良い製品の開発を競っている。私は培養肉について、多くの時間を費やして取材してきた。これらの製品は、動物細胞を実験室で培養し、チキンナゲットのような形に加工して作られる。2023年には、2社が米国で培養チキンの販売許可を取得し、両社とも高級レストランで限定販売している。
しかし、これらの製品は、私たちが慣れ親しんできた肉とはまだ全く異なるものである。私が研究室で培養された細胞を含むハンバーガーを試食したところ、植物由来のハンバーガーに似ており、自分が慣れ親しんでいるものよりも食感が柔らかかった。ミシュランの星付きレストランで提供されているアップサイド・フーズ(Upside Foods)のチキンも、同様の食感の違いがあった。そして、これらの製品は、もし販売されているとしても、ごく小規模でしかなく、価格も高い。
これらの新製品について報道する中で、何度も繰り返し出てくる重要な問題のひとつが、それらをどう呼ぶかということだ。業界では「培養(cultivated)」という表現を強く好み、「研究室で育てられた(lab-grown)」という表現は好まれない。おそらく、研究室の平たい容器(バット)で育てられたものを食べていると人々に思い出させない方が良いのだろう。これらの製品を製造する企業がしばしば指摘するように、私たちは通常、動物由来の製品に対してこのような表現は使用しない。「屠殺された子牛」という表現は決してメニューには載らない。「仔牛肉」とだけ表示されているのだ。
最近、バクテリアを培養し、それを乾燥させて動物向け飼料や人間向けの食品として販売しようとしている企業についての記事を執筆する中で、この言葉とマーケティングの問題について改めて考えさせられた。乾燥させた微生物粉末が自分の食生活に取り入れられるという可能性に、私は少し気持ちが悪いと感じた。しかし、ワインを飲んだり、チーズを食べたりすることは問題ない。これら2つの製品には、微生物と発酵プロセスが欠かせない。
ランザ・テック(LanzaTech)は、微生物粉末を感謝祭の食卓に簡単に追加できるようなマーケティングプランを考案するだろう。しかし結局のところ、どんなにうまくマーケティングされたとしても、私たちの食糧システムが抱える気候変動問題を解決するのに、代替食品がどの程度役に立つのかはわからない。
気候変動への対応においてはよくあることだが、私たちには行動の変化だけでなく、牛のゲップ抑制剤や新しい肥料といった技術的ソリューション、そして私たちの食糧システムを正しい方向に導く政策も必要となるだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
バイオテクノロジーのスタートアップ企業が、薄い空気から食料を作り出すことを目指している。この分野のいくつかの主要企業については、こちらの記事をお読みいただきたい。
培養肉製品は、研究室で育てられた動物細胞から作られる。昨年、私は、気候変動に対するこれらの製品の持つ意味について、判明していることを取り上げた。
私たちは、人工肉製品に過剰な期待をし過ぎている。同僚のジェームズ・テンプルが、代替食品に不安を感じなくなり、愛するようになった経緯を紹介しよう。
今年注目すべき気候関連テック企業であるルミン8(Rumin8)とピボット・バイオ(Pivot Bio)は、いずれも農業からの温暖化ガス排出量削減に取り組んでいる。
気候変動関連の最近の話題
- 中国は、半導体などのテクノロジーに不可欠ないくつかの希少鉱物の米国への輸出を禁止すると発表した。この動きは、米国がサプライチェーンを中国から移行させる取り組みを受けたものだ。(ニューヨーク・タイムズ紙)
- ドナルド・トランプは、中国製品への関税を引き上げることを公約しているが、世界中の他の国々ではすでにそのような政策が実施されている。(レストオブワールド)
- オーストラリアは2030年の排出量目標を達成できる見通しだ。同国の排出量は、10年後までに2005年の水準を42%以上、下回ると予測されている。(ブルームバーグ)
- 国際的なプラスチック条約の策定に向けた協議は決裂した。一部の国はプラスチック生産の削減に賛成したが、産油国をはじめとする他の国々は反対した。(ワシントン・ポスト)
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→ これは、ジョージア州の中断している工場建設を後押しすることを目的としたリビアン(Rivian)への66億ドルの融資に続くものだ。(AP通信)
→バイデン政権は、ドナルド・トランプが1月に就任する前に融資を確定させ、撤回されないようにと急いでいる。(E&Eニュース) - カリフォルニア州はエタノールの使用を増やす可能性がある。同州はこれによりガソリン価格が下がると主張している。しかし専門家は、トウモロコシから作られたエタノールの使用拡大は、気候変動対策や環境にとってマイナスの影響をもたらす可能性があると警告している。(インサイド・クライメート・ニュース)
- ノルウェー政府は海底採掘計画を中断している。2025年前半に許可証の交付を開始する計画があった。中断中も準備は継続されるだろう。(ロイター通信)
→これらの深海の「多金属団塊(マンガン団塊)」と呼ばれるジャガイモ大の塊は、バッテリー材料の採掘の未来となる可能性がある。(MITテクノロジーレビュー) - 10年前、太平洋の海面温度が劇的な海洋熱波で急上昇した。現在、科学者たちは、気温上昇が海洋にどのような影響を与えるかを理解するために、その出来事の手がかりを探している。(ニューヨーク・タイムズ紙)
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。