KADOKAWA Technology Review
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次世代原子炉のカイロス、商用化へ前進 グーグルと大型契約も
Kairos Power
This startup is getting closer to bringing next-generation nuclear to the grid

次世代原子炉のカイロス、商用化へ前進 グーグルと大型契約も

溶融塩を冷却に用いる次世代原子炉を開発する米スタートアップのカイロス・パワーは最近、新たな試験施設建設の認可を得たことや、グーグルと大きな契約を結んだことを発表した。着実な歩みを進めている。 by Casey Crownhart2024.12.02

この記事の3つのポイント
  1. カイロス・パワーは次世代原子炉の開発を着実に進めている
  2. 同社は商用炉の建設に向けて複数の実証炉を計画している
  3. 原子炉の冷却に使用する溶融塩の製造施設も建設に着手した
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

1年の中でこの時期は誰もが忙しい。それは先進原子力産業においても同様である。

2カ月ほど前にMITテクノロジーレビューは、「注目すべき気候テック企業15社」のリストを発表した。その後、このリストに選定された企業であるカイロス・パワー(Kairos Power)は、次世代原子炉の建設に向けた自社の進捗状況について3つの大きな発表をした。

これらのニュースの1つひとつが、同社のプロセスの興味深い側面を表している。では、その発表内容と、それが原子力テクノロジーの未来にとって何を意味するのかを掘り下げて見ていこう。

まず、カイロス・パワーについて簡単に復習しておこう。今日の原子力発電所では原子炉を冷却するために加圧水を使用することが圧倒的に多い。これに対してカイロスは、溶融塩を使用している。溶融塩を使用する原子炉は、今日一般的に建設されている原子炉よりも小規模で、従来の原子力発電よりも安全でより効率的な発電を実現するのに役立つという考えだ。

戦略に関して言えば、カイロスは商業規模の発電所という最終的な目標に向かって小さく一歩一歩前進している。今年に入って、同社初の実証用原子炉である「ヘルメス(Hermes)」の建設が始まった。この施設では約35メガワットの少量の熱を発生させ、このテクノロジーを実証する予定だ。

カイロスは11月20日に、自社システムの次の実証炉となる「ヘルメス 2(Hermes 2)」の建設許可を取得したことを発表した。このプラントはヘルメスの隣接区域に建てられる予定で、熱を電力に変換するインフラを含むことになる。これにより、ヘルメス2は米国内で認可を得た最初の発電用次世代原子炉となる。

カイロスは何年間も米国原子力規制委員会(NRC)と協働してきたので、このニュースは大きな驚きではなかったが、「NRCから許可やライセンスを取得する日は、いつもとは違う特別な日となります」とカイロスのマイク・ローファー最高経営責任者(CEO)はインタビューで語った。

同社はヘルメスとヘルメス2の建設に同時に取り組む計画を策定中だとローファーCEOは付け加えた。MITテクノロジーレビューが10月の記事で報じたとおり、ヘルメスが2027年に始動する予定は今でも変わらないのかを尋ねたところ、同CEOはそれは「攻めのスケジュール」だと答えた。

実証炉の建設が進む一方で、カイロスは商業取引を進めている。同社は10月、2035年までに最大500メガワットを発電する発電所を建設することでグーグルと契約を結んだと発表した。この契約に基づき、カイロスは発電所を開発、建設、運用し、グーグルに電力を販売することになる。

500メガワットの電力を供給するためにカイロスは、複数の原子炉を建設する必要がある。最初の原子炉は2030年までに稼働し、その後追加されていく予定だ。ローファーCEOによれば、小型の原子炉を建設するメリットのひとつは、実行しながら学び、コストを下げ、建設をより効率的にするための改良を加えられることだという。

建設許可とグーグルとの契約は、ほぼ間違いなくカイロスの最近の発表の中では最大のものだが、筆者はよりニッチなマイルストーンの方にも魅力を感じている。10月上旬、同社はニューメキシコ州アルバカーキで塩製造施設の建設に着手した自社原子炉の冷却に使用する溶融塩を製造する施設だ。

「塩は、私たち独自の特殊なニーズがある重要な分野のひとつです」とローファーCEOは言う。さらに、サプライチェーンの中で専門性の高い分野をコントロールすることは、同社が電力を安定的かつ低コストで供給するための鍵となるとも述べる。

カイロスの溶融塩は「フリーベ(Flibe)」と呼ばれ、フッ化リチウムとフッ化ベリリウムの特殊な混合物だ。ローファーCEOから学んだ興味深い情報のひとつは、リチウム-7はリチウム-6よりも中性子の吸収が少なく、原子炉をより効率的に運転できるため、混合物にはリチウム-7を豊富に含ませる必要があるということだ。アルバカーキの新施設では、リチウム-7を濃縮した高純度のフリーベが大量に生産される予定である。

マイルストーンが少なく、それぞれの達成に時間のかかる原子力産業における進歩は、往々にしてスピードの遅いものに感じられる。そのため、カイロスが安全で安価な原子力発電という目標を実現するために、多くの小さなステップを次々と実践しているのを目にするのは非常に興味深い。

「私たちは多くの大きな成果を上げてきました。まだまだ先は長いです」とローファーCEOは語る。「これは簡単にできることではありません。私たちは正しいアプローチ、正しい方法で進んでいると信じていますが、それには多くの労力と努力が必要なのです」。

MITテクノロジーレビューの関連記事

カイロスとそのテクノロジーの詳細については、10月に掲載した「気候テック企業15」の紹介記事をご覧いただきたい。

溶融塩の詳細を知りたいのなら、カイロスがこのテクノロジーを実証するために作ったテストシステムについて、今年の1月にまとめた記事をチェックしてほしい。


トランプ次期政権が与える気候テックへの影響

ドナルド・トランプは、米国に輸入されるさまざまな製品に関税をかけると宣言した。この計画は、バッテリーや電気自動車のコストを押し上げるとともに、気候変動問題の進展を遅らせ、経済を停滞させる可能性がある。テクノロジーへの潜在的な影響については、本誌のジェームス・テンプル編集者による最新記事をご覧いただきたい。

気候変動関連の最近の話題

  • 国連の気候変動に関する会議が先日、終了した。その結果、富裕国は2035年までに少なくとも年間3000億ドルの気候変動資金を発展途上国に提供し、気候変動への対処を支援することになった。(カーボン・ブリーフ
    →これは、多くの人が到達を望んでいた1兆ドルの大台にははるかに及ばない。(MITテクノロジーレビュー
  • 電力会社は送電網の間違った送電設備に多くの資金を費やしているかもしれない。より多くのクリーン・エネルギーを稼働させるために不可欠な州間プロジェクトではなく、小規模な地方プロジェクトに資金が流れているのだ。(インサイド・クライメート・ニュース
  • 持続可能な航空燃料は、近い将来に航空産業を浄化するための数少ない実行可能な選択肢のひとつである。しかし、これらの燃料とはいったい何なのだろうか。また、気候変動にどのように役立つのだろうか。それは驚くほど複雑であり、細部が重要である。(カナリー・メディア
  • 自動車メーカー各社はトランプ次期大統領に対し、米国で電気自動車(EV)を普及させるための規則を維持するよう求めている。企業はすでにEV移行に数十億ドルを投資している。(ニューヨーク・タイムズ
  • 米国人の食肉消費には溝が広がっている。肉の消費を避ける世帯数はわずかに増えたものの、それ以外の世帯では肉の購入量が増加している。(ヴォックス
  • トランプ次期大統領は洋上風力発電の停止を宣言しているが、プロジェクトによっては、4年の任期では大きな影響を及ぼせないほど時間がかかるものもある。(グリスト
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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