Alexander Ryota Keeley キーリー アレクサンダー竜太 (34)
企業のESG活動を製品単位で見える化するツールを開発。豊富な国際経験で学術研究と社会をつなぐイノベーター。
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス/企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動を指すESGの概念は、企業の社会的責任や持続可能性の考えを基礎としつつ、特に投資の領域で体系化され広く普及してきた。
九州大学で准教授を務めるキーリー アレクサンダー竜太(Alexander Ryota Keeley)は、サステナブル投資やESG指標を専門とする気鋭の環境経済学者である。2022年には大学発のスタートアップとして「aiESG」を共同創業。取締役兼チーフリサーチャーを務め、起業家としての顔も持つ。
aiESGは、企業や自治体などのESG活動をAI分析によって定量的に評価するツールを提供している。同種のサービスは企業などの組織全体を評価対象とするものが主流だが、aiESGのツールは製品・サービス単位でも評価できる点が特徴だ。また、原材料調達から製造、輸送、販売に至るまでのサプライチェーン全体を評価対象とするほか、CO2排出などの気候分野の項目だけでなく人権や労働環境など、これまでのツールでは定量的な評価が難しかった分野を含む3290に及ぶ指標で評価する点も、aiESGの強みである。
ESG投資やSDGsへの関心が高まる一方、近年は、環境に配慮したように見せかけて実効性のない取り組みを企業がアピールする「グリーンウォッシュ」への批判も多い。そうした中、キーリーは「報われるべき活動が適切に評価されるよう支援したい」と考え、企業の長期的な価値向上とイノベーション促進に寄与している。実際、aiESGのツールは、NECのTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)レポートや農林中央金庫の「Climate & Nature」レポートなどで活用されるなど、企業に受け入れられつつある。
キーリーの活動の背景にあるのが、豊富な国際経験だ。京都大学大学院の博士課程では環境経済学を研究し、インターンとしてIEA(国際エネルギー機関)や UNDP(国連開発計画)で分析・評価の実務を経験。その後、世界銀行でコンサルタントとして活動する傍ら、ウプサラ大学、ハーバード大学等との国際共同研究をリードし、20本以上の論文がトップジャーナルに掲載された。これらのうち4本はIPCCの報告書に引用されるなど、学術研究においても確かな実績を持つ。
研究成果の社会還元にも熱心で、京都大学在学中には地元の福岡県糸島市で小水力発電を導入する会社を創業。地域に根ざした再生可能エネルギー事業の実践は、キーリーの社会貢献への強い意志を表している。
キーリーは、「経済が持続的な発展を続けていくためには、イノベーションの連続的な創出が必要」と語る。学術研究と社会実装を結ぶ架け橋の役割を担い、研究の蓄積を効果的に社会に還元することで、持続可能な社会の構築を牽引していく。
(中條将典)
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