EVバッテリー火災を封じ込め、遮熱材に米政府が6億ドル
米エネルギー省は、EVバッテリーの安全性を高める遮熱材の製造企業、アスペン・エアロゲルに巨額の融資を実施する。同社は電池セル間に配置する遮熱材を開発、新工場の建設で年間200万台分の供給体制を目指す。 by Casey Crownhart2024.12.23
- この記事の3つのポイント
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- 米エネルギー省が電池用遮熱材メーカーに6億ドル超の融資を実施
- アスペン・エアロゲルはEV用電池向けにエアロゲル熱バリアを製造している
- 同社はジョージア州に新工場を建設中で2027年稼働開始予定である
火災の発生を抑制する電池(バッテリー)用の材料を製造する企業が、米国エネルギー省(DOE)から6億7060万ドルの融資を獲得した。
アスペン・エアロゲル(Aspen Aerogels)は、電気自動車(EV)の電池内部に層状に敷くことで、電池パック内で熱や火が広がるのを防止または遅らせる遮熱材を製造している。同社はこの材料を生産する新工場をジョージア州に建設中で、エネルギー省融資プログラム局(LPO)はこの工場の建設支援を目的として巨額の融資を決めた。
道路を走行するEVが増えるにつれ、バッテリー火災という比較的稀だが危険な問題に対する懸念が高まっている。火災発生率はガソリン車のほうがEVより高いものの、バッテリー火災は消火が難しく、再発火の危険性も高いため、ドライバーや救急隊員にとって危険な状況を引き起こす可能性がある。アスペン・エアロゲルの熱バリアは、電池の安全性向上に寄与する可能性がある。
「電池の安全性向上は、私たち全員が共有する重要な目標です。彼らがその目標に貢献していることを、しっかり確実なものにすることだと大切だと考えています」。融資プログラム局のジガー・シャー局長はこう話す。
ゼネラルモーターズ、トヨタ、アウディなどの自動車メーカーは、すでにアスペン・エアロゲルの材料を購入している。新工場が計画通りに稼働し、フル稼働となれば、年間200万台以上のEVに材料の供給が実現するという。
リチウムイオン電池が損傷したりショートしたりすると、「熱暴走」と呼ばれるプロセスが発生する。これは発熱と化学反応のフィードバック・ループを引き起こし、火災や爆発につながる可能性がある。EVの電池パックは、接続された多数の小さな電池セルで構成されているため、1つのセルで発生した問題がパック内の他のセルに広がる危険性がある。
アスペン・エアロゲルが製造する熱バリアは、セルとセルの間に挿入でき、問題の広がりを抑制できる障壁となる。自動車メーカーがこの材料をどう使うかにもよるが、エアロゲル遮熱材は少なくとも熱暴走の進行を遅らせ、ドライバーが車から脱出するのに十分な時間を提供できる。また、自動車メーカーはこの材料を使って、不良セルやセル群を隔離できるような電池を設計できる。それによって、「車全体が燃えるような火災を防ぎ、より限定的な火災に抑えられます」と同社の最高経営責任者(CEO)であるドン・ヤングは話す。
エアロゲルは、その大部分が微細な空気のポケットでできているため、高温や低温を維持する非常に優れた遮熱性を持っている。アスペン・エアロゲルは2000年代初頭、宇宙服やその他の用途でのエアロゲルの使用を模索するため、米国航空宇宙局(NASA)から研究助成金を獲得した。それ以来、石油精製所や液化天然ガスターミナルなどの施設向けに材料を販売してきたとヤングCEOは説明する。
同社は2021年、エアロゲルを電池材料として使い始めた。きっかけはゼネラルモーターズとの提携だったという。当時、ゼネラルモーターズはシボレー・ボルトの電池発火問題を抱えていた。
エアロゲルはバッテリー火災の深刻度を軽減できるものの、熱暴走を完全に防ぐことはできない。「今のところ、熱暴走を確実に防止する商業技術は存在しないと認識しています」。リチウムイオン電池の安全装置に関する研究を最近発表した、韓国の総合化学メーカー LG化学(LG Chem)の研究者であるソン・インテクはメールでこう述べた。リチウムイオン電池は可燃性物質を含み、多くのエネルギーを蓄えることができる。
自動車メーカーや電池メーカーはすでに、熱暴走のリスクを低減するため、電池の状態を検知・制御して火災を未然に防ぐ電池管理システムをはじめ、いくつかの対策を講じている。エアロゲルを使用したものを含む遮熱材は、熱暴走が発生した場合の被害を抑えるための重要な手段として普及しつつある。
これらの材料の潜在的欠点は、電池のサイズを大きくしてしまうため、エネルギー密度(電池が単位体積・重量あたりに蓄えることができるエネルギー量)を低下させることである。エネルギー密度が高いほどEVの航続距離は長くなり、航続距離はEVの重要なセールスポイントとなる。エアロゲルの利点は、ほとんどが空気でできているためごく軽量であり、他の材料ほどエネルギー密度を低下させないことだ。
アスペン・エアロゲルの熱バリアは通常、厚さ1~4ミリメートルで、セル間に重ねて配置できる。ヤングCEOによると、EVに組み込むためのコストは自動車メーカーや車種によって異なるが、300〜1000ドルほどだという。
市場は急速に成長している。アスペン・エアロゲルが電池材料の販売を開始した2021年の売上高は約700万ドルだった。2023年の売上高は1億1000万ドルに達し、2024年はその倍以上になる勢いだとヤングCEOは話す。
アスペン・エアロゲルは現在、ロードアイランド州にある工場でEV用電池の材料を製造しており、石油・ガス産業など他の業界向けの材料も製造している。「ロードアイランドの工場はもう限界です」(ヤングCEO)といい、エネルギー省からの融資はジョージア州のEV用電池材料の製造に特化した新工場の建設に充てられる。計画では、2027年初頭までに稼動を開始する予定だという。
「今回の融資は、ジョージア州における同社の最初の商業施設を本格的に稼働させるためのものです」とエネルギー省のシャー局長は話す。同社は、融資が最終決定されるまでに一定の財務的・技術的要件を満たす必要がある。
ヤングCEOは、「この融資は、プロジェクトの完成に非常に重要です」と話している。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。