ディープマインド創業者
ハサビスらにノーベル化学賞
タンパク質予測AIで革新
2024年のノーベル化学賞が、グーグル・ディープマインドのミス・ハサビスCEOとジョン・M・ジャンパー上級研究科学者、ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授に決まった。ジェフリー・ヒントン教授らの物理学賞受賞に続き、化学賞でもAI関連の業績が評価された。 by Melissa Heikkilä2024.10.10
人工知能(AI)にとって、早くも二度目のノーベル賞受賞だ。スウェーデン王立科学アカデミーは、2024年のノーベル化学賞の半分を、AIを用いたタンパク質構造の予測に取り組んだ、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の共同創業者兼CEOであるデミス・ハサビスと、同社の上級研究科学者であるジョン・M・ジャンパー(John M. Jumper)に授与すると発表した。残りの半分は、コンピューターによるタンパク質の設計に取り組んだ、ワシントン大学の生化学教授であるデビッド・ベイカーに与えられる。受賞者は1100万スウェーデン・クローナ(約1億5700万円)の賞金を分け合う。
これらの研究の潜在的影響は計り知れない。タンパク質は生命の根幹をなすものだが、その働きを理解するには構造を解明する必要がある。非常に難しい課題で、かつてはタンパク質の種類ごとに数カ月から数年かかっていた。今年の受賞者らが開発したような計算ツールによってタンパク質構造の予測時間が短縮され、科学者たちはタンパク質の働きをより深く理解し、新たな研究領域や医薬品開発の道を開くことができる。より効率的なワクチンの開発、がん治療法の研究の加速、あるいは全く新しい材料の創出につながる可能性がある技術だ。
ハサビスCEOとジャンパー上級研究科学者は、2020年にアルファフォールド(AlphaFold)を開発し、科学者たちが数十年にわたって取り組んできた問題、すなわちアミノ酸配列からタンパク質の三次元構造を予測するという課題を解決した。このAIツールは以来、科学的に知られるすべてのタンパク質の形状を予測するのに用いられている。最新モデルである「AlphaFold 3」は、DNA、RNA、それに創薬に不可欠なリガンドのような分子の構造を予測できる。ディープマインドはまた、その成果となるソースコードとデータベースを科学者向けに無料で公開している。
「何十億もの人々の生活を改善するAIの比類ない可能性に魅了され、私はAIの進歩にキャリアを捧げてきました」とハサビスCEOは述べた。「AlphaFoldはすでに200万人以上の研究者によって、酵素設計から医薬品発見まで重要な研究を進めるのに使用されています。AlphaFoldが、科学的発見を加速するAIの驚異的な可能性を示す、最初の証明となることを願っています」。
ベイカー教授は、「ロゼッタ(Rosetta)」と呼ばれる一連のプログラムなど、タンパク質の設計と構造予測のための複数のAIツールを開発している。2022年には「プロテインMPMM(ProteinMPNN)」というオープンソースのAIツールを作成した。研究者が未知のタンパク質を発見し、全く新しいタンパク質を設計するのに役立つ可能性があるツールだ。特定のタンパク質構造を念頭に置いている研究者が、その形状に折りたたまれるアミノ酸配列を見つけるのにも役立つ。
最近では、9月下旬にベイカー教授の研究室が、生きた細胞内で疾患に関連するタンパク質を正確に標的化し、除去することを可能にするカスタム分子を開発したと発表した。
「生物が進化の過程で直面した問題を解決するために、タンパク質は生物の進化の過程につれて進化してきたのです。しかし現在の私たちは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のような新しい問題に直面しています。進化の過程で進化してきたタンパク質が古い問題を解決するのと同じように、新しい問題を解決するための優れたタンパク質を設計できれば、本当に強力なものになるでしょう」。ベイカー教授は2022年のMITテクノロジーレビューの記事でこう語っている。
デミス・ハサビス氏らのノーベル化学賞受賞を記念して、過去に掲載したMITテクノロジーレビューの関連記事を期間限定で無料公開します。ぜひご覧ください。
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- メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。