米国中の送電網をつなぐ
「執念」の起業家、
15年間の失敗と学び
起業家マイケル・スケリーの夢は、米国の分断された送電網を統合することだ。15年間、幾多の挫折を経験しながらも諦めず、新会社で再起を図っている。時代はようやく彼に追いついたのだろうか。 by James Temple2024.10.04
- この記事の3つのポイント
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- マイケル・スケリーは長年、米国の送電網を相互接続する送電線の建設を提案
- 新会社では米国の2大送電網をつなぐ送電線プロジェクトを推進中
- 送電網の相互接続への理解は高まっているが、プロジェクトの成功は不透明だ
マイケル・スケリーは、「ノー」という答えを受け入れる術を学んでいない。
ヒューストンを拠点とするこのエネルギー起業家は、過去15年間の大部分にわたって、グレートプレーンズ(米国とカナダの一部に広がる広大な草原地域)、中西部、南西部を通る長距離送電線を開発し、アルバカーキ、シカゴ、メンフィスなどの都市に風力発電によるクリーンな電力を供給するために取り組んできた。しかし、これまでのところ、その成果はほとんど上がっていない。
スケリーは、そのような送電線を建設し、国内の送電網を相互に接続することで、石炭や天然ガスを燃料とする発電所から、気候変動の原因となる汚染の削減に必要な再生可能エネルギーへの移行を加速できると長い間主張してきた。しかし、2つのプロジェクトを中止し、さらに3つのプロジェクトを売却した後、2019年、当時経営していたクリーン・ライン・エナジー・パートナーズ(Clean Line Energy Partners)を閉鎖した。
スケリーは、送電網を接続する送電線の必要性についての認識は、単に時期尚早であって、間違いではなく、市場と政策立案者はその見解に同調するようになってきていると主張する。実際、米国エネルギー省(DOE)は、スケリーが現在経営する会社が提案した送電線プロジェクトに対して数億ドルの助成金を認可したばかりだ。
ノース・プレーンズ・コネクター(North Plains Connector)は、モンタナ州南東部からノースダコタ州中心部までの約680キロメートルに延びる、米国最大の2つの送電網を結ぶ初めての主要接続線となる。これにより、送電系統運用事業者は、国内の大部分で水力、太陽光、風力、その他資源によって発電された電力を利用できるようになる。そして、異常気象の際に地域の電力システムにおける電力供給を維持するとともに、クリーンな資源によって発電される電力の全体的な割合を高めることができる。
スケリーは、このプロジェクトのために、すでに地域周辺の電力会社9社と、送電ルート沿いの土地所有者の90%以上から支持を得ているという。
ますます多くの地域エネルギー企業が、電力需要の高まり、暴風雨や火災が電力システムに及ぼす脅威の増大、再生可能エネルギーへの依存度の高まりにより、国内のほつれてばらばらになっている送電網をつなぎ合わせて補強するための送電線を増やす必要性に拍車がかかっていることを認識するようになっていると、スケリーは話す。
「送電網への投資を増やす必要性は、全国的に本当に理解されています」とスケリーは言う。彼は2021年に自身が創業したヒューストンの送電開発会社グリッド・ユナイテッド(Grid United)で現在最高経営責任者(CEO)を務めている。「空中にはもっと電線が必要です」。
とはいえ、長い送電線を建設する提案は、電線が通るコミュニティーでしばしば論争を巻き起こす。送電網の接続への理解の高まりが、スケリーCEOのプロジェクトを成功に導くのに十分かどうか、あるいは米国が現在切実に必要としている送電線の数に近づけるのに十分かどうかはまだ分からない。
送電網の接続
送電線は、クリーンエネルギーへの移行において正しく評価されていない。だがそれは要であり、炭素排出量の削減においては、間違いなく太陽光パネルと同じくらい不可欠であり、人々の安全を守るうえでは、防波堤と同じくらい重要なものだ。
長く太く、高所に張り巡らされた電線は、電力システムの高速道路と説明されることが多い。送電線は、大規模風力発電所、水力発電所、太陽光発電施設、その他の発電所から都市の端までつながっており、変電所が電圧を下げてから、電気は街路により近い配電線に沿って家庭や企業に供給される。
米国には、西部送電網(Western Interconnection)、東部送電網(Eastern Interconnection)、テキサス送電系統(Texas Interconnected System)という3つの主要な送電網が存在する。カリフォルニア州独立系統運用機関(California Independent System Operator)、北米大陸中央地域独立系統運用機関(Midcontinent Independent System Operator)、ニューヨーク独立系統運用機関(New York Independent System Operator)といった地域送電事業者は、主要な送電網に多かれ少なかれ接続されている小規模な地域送電網を監督している。
米国内の主要な送電網間で電力を融通する能力を大幅に増強できる送電線は、炭素排出量の削減と電力システムの安定性向上の面で特に有益である。なぜなら、送電線によって、独立系統運用機関がはるかに大きな電力源を利用できるからだ。したがって、米国内の一部で太陽光発電の発電量が減少しても、他の場所での風力や水力による発電の電力を利用できる。地域や季節をまたいで再生可能エネルギーの変動を均衡させることができれば、化石燃料発電所の安定した出力に頼る必要性が減少する。
「通常、どこかに風力や水力、その他の資源が余っています」。ビル・ゲイツの支援を受けてクリーン・エネルギーと気候問題に重点を置く団体ブレークスルー・エナジー(Breakthrough Energy)で、米国政策ロビー活動グループの責任者を務めるジェームズ・ヒューエットは話す。「しかし、現在、資源が余っている場所から必要としている場所へ移動させる能力が足かせとなっています」。
(ブレークスルー・エナジーの投資部門であるブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ=Breakthrough Energy Venturesは、ノース・プレーンズ・コネクター・プロジェクトやグリッド・ユナイテッドへの投資は実施していない)。
また、局地的な山火事、洪水、ハリケーン、熱波によって、ある地域の送電線や発電所が機能しなくなったとしても、事業者は隣接する系統を利用して照明やエアコンの稼働を維持できるという意義もある。近年、熱波やハリケーンが過ぎ去った後の様子を目の当たりにしてきたように、こうした緊急事態が発生した場合、生死に関わる問題となる可能性がある。
国の送電網をつなぎ合わせることで、再生可能エネルギーが確実に供給できる電力の割合を増やし、電力部門の炭素排出量を大幅に削減し、送電系統のコストを下げられることが研究で明らかになっている。ローレンス・バークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Lab)が実施した最近の調査では、米国の主要送電網およびその送電網に接続された州や地域を相互接続する送電線が、送電プロジェクトの中で最も大きな経済的価値をもたらし、1ギガワットの追加容量ごとに年間1億ドル以上のコスト削減をもたらす可能性があると判明した(この調査では、送電線が効率的にフル稼働していることのほか、単純化した仮定を前提としている)。
専門家によると、送電網の相互接続は、効率性の向上に加え、送電事業者がいつでもより安価な電力源を見つけることを可能にし、地域が近隣から提供される冗長性に頼ることによって、より少ない発電所でやりくりできるようになるため、長期的にはそれだけで元が取れる可能性があるという。
しかし、現状では東部送電網と西部送電網を結ぶ送電線は貧弱で、「2つのオリンピック・プールをつなぐ細いストロー」に過ぎない。ワシントンD.C.のコンサルティング企業グリッド・ストラテジーズ(Grid Strategies)のロブ・グラムリッチ社長はこう説明する。
「ウィン・ウィン・ウィン」
これに対し、グリッド・ユナイテッドのノース・プレーンズ・コネクターは太いパイプとなる。
32億ドル、3ギガワットのこのプロジェクトは、これら送電 …
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