KADOKAWA Technology Review
×
10/9「生成AIと法規制のこの1年」開催!申込み受付中
インフルの季節がやってきた——今年は鳥インフルにも警戒を
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Envato
Flu season is coming—and so is the risk of an all-new bird flu

インフルの季節がやってきた——今年は鳥インフルにも警戒を

例年の季節性インフルエンザに加え、米国では鳥インフルエンザのH5N1型が畜牛にも感染拡大。専門家は新型インフルエンザ発生のリスクを警告する。ワクチン接種や生乳回避など、個人でできる対策と、監視体制の重要性とは? by Jessica Hamzelou2024.09.25

この記事の3つのポイント
  1. 季節性インフルエンザと鳥インフルエンザの同時感染で新型ウイルス発生の恐れ
  2. CDCは農場労働者へのインフルエンザワクチン接種を推奨するも効果は限定的
  3. ウイルス学者は鳥インフルエンザのさらなる拡大とパンデミック発生を懸念
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

9月も間もなく終わりを迎える。子どもたちは学校に戻り、北半球に住む私たちは夏の終わりがもたらす喜びを体験している。気温が下がり、木の葉が落ち、そして、必然的にインフルエンザの季節が始まるのだ。

私の末っ子が早朝に身体を寄せてきて、私の顔に向かってくしゃみをし、鼻水を私のパジャマで拭き取ったとき、私はそのことを思い出した。私は翌朝、娘のインフルエンザ・ワクチンを予約した。

米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)が生後6カ月以上のすべての人にインフルエンザ・ワクチンを推奨している。今年は、畜牛の間で「鳥インフルエンザ」H5N1型が蔓延していることを受け、CDCは特に酪農従事者に対してワクチン接種を勧めている。7月末には、CDCは家畜と接する人々にインフルエンザ・ワクチンを無料で接種する1000万ドルの計画を発表した。

その目的は、季節性インフルエンザからこのような労働者を守ることだけではない。より壊滅的な結果をもたらす可能性のある新型インフルエンザの出現から私たちを守るためでもある。新型インフルエンザは、新たなパンデミックを引き起こす可能性がある。まだ発生していないが、残念ながら、その可能性はますます高まっている。

まず、インフルエンザウイルスは常に遺伝子構造において微妙な変化を経験していることを認識しておきたい。これによりウイルスは急速に進化する。これが、インフルエンザ・ワクチンを毎年、流行する可能性の高いウイルスの型に応じて更新しなければならない理由だ。

複数のインフルエンザウイルスが1匹の動物に感染すると、より劇的な遺伝子変化が起こる可能性がある。インフルエンザウイルスのゲノムは8つのセグメントで構成されている。2つの異なるウイルスが同じ細胞に存在すると、それらのウイルス間でセグメントが入れ替わる可能性があるのだ。

このような入れ替わりによって、まったく新しいウイルスが生まれるかもしれない。その結果がどうなるかを正確に予測することは不可能だが、以前のウイルスより感染力が高まったり、深刻な症状を引き起こしたりする可能性は常に存在する。

恐ろしいのは、季節性インフルエンザに感染した農場労働者が、牛から鳥インフルエンザに感染することだ。 そのような人々は、知らず知らずのうちに致死力が高い新型インフルエンザの温床となり、周囲の人々に感染させる可能性もある。 「パンデミックはまさにこのような形で始まります」と、英国サリー州ウォキングのピルブライト研究所(Pirbright Institute)のウイルス学者、トーマス・ピーコック博士は言う。

2009年の豚インフルエンザのパンデミックの原因となったウイルスは、このような経緯で発生したと考えられている。そのゲノムは、主に豚に感染すると思われるものや、鳥由来のものなど、さまざまなインフルエンザウイルスの遺伝子が組み合わさった結果であることを示唆していた。ヒトインフルエンザと鳥インフルエンザの両方の遺伝子を持つウイルスは、1918年、1957年、1968年のパンデミックの原因でもあったと考えられている。

CDCは、農場で働く人々にこれらの季節性インフルエンザのワクチン接種をすることで、歴史が繰り返されるリスクを低減できるのではないかと期待している。しかし残念ながら、完璧な解決策ではない。まず、誰もがワクチン接種を受けるわけではない。米国の農業労働者の約45%は、正式な滞在許可を持たない移民であり、ワクチン接種率が低い傾向にある集団だ

仮にすべての農場労働者にワクチンを接種したとしても、全員がインフルエンザ感染を完全に予防できるわけではない。2019年から2020年にかけて米国で使用されたインフルエンザ・ワクチンは39%の効果があったが、2004年から2005年のインフルエンザシーズンに使用されたワクチンは10%の効果しかなかった

「インフルエンザ・ワクチンを接種すること自体は悪くない考えですが、根本的なリスクを軽減するまでには至らないでしょう」と、ピーコック博士は言う。

私が前回、鳥インフルエンザについての記事を書いたのは2023年2月だった。当時、ウイルスは鳥類の個体数を激減させていたが、哺乳類に飛び火する兆候は見られず、人間にリスクをもたらす可能性も低いように見えた。「鳥インフルエンザのパンデミックについて、パニックになる必要はまだない」というのが、当時の結論だった。今では状況は異なっている。現在の鳥インフルエンザの拡大を追跡しているウイルス学者や科学者たちに取材した結果、私はまたパンデミックが起こる可能性について、より懸念を深めていることを認めざるを得ない。

農場で働いていない人々への主なアドバイスは、ウイルスが潜んでいる可能性がある生乳と動物の死骸を避けることだ。このウイルスの拡散を監視し、抑制するにあたっては、私たちはその大部分を政府機関に頼っている。そして、これまでに取られた限定的な対策は、あまり信頼できるものではない。

「すでに扉は開かれています」とピーコック博士は言う。「このウイルスはすでに蔓延しているのです」。

MITテクノロジーレビューの関連記事

ウイルスが蔓延し続けているため、米国のどのくらいの数の家畜群が鳥インフルエンザ(H5N1)に感染しているのかはわからない。このウイルスは農場に永遠に留まり続ける可能性があると、ウイルス学者たちは先日、語った。

インフルエンザ・ワクチンを製造するには時間がかかり、卵に頼ることになる。しかし、科学者たちは、mRNAインフルエンザ・ワクチンがより迅速で安価で効果的な代替策を提供できるのではないかと期待している。

一部のインフルエンザ・ワクチンはすでに卵を使わずに製造されている。その一つは、昆虫細胞で合成されたウイルスを利用している。卵を使わないワクチンは、卵を使ったワクチンよりも効果が高い可能性さえあると、カサンドラ・ウィリアードが今年の記事で書いた

ニワトリは特にH5N1型に弱い。アブダラ・ツァンニが昨年の記事で書いたように、一部の科学者は、ウイルスに対する抵抗力をつけるために動物の遺伝子を編集する方法を模索している。


医学・生物工学関連の注目ニュース

  • マイクロプラスチックはいたるところにある。鼻から脳内に入り込む可能性もある。(米国医師会雑誌(JAMA)ネットワーク・オープン
  • 顔面移植手術を受けた患者の大部分は少なくとも10年間は生存していることが研究で明らかになった。11カ国で実施された最初の50件の顔面移植手術のうち、85%は5年間、74%は10年間生存していた。(JAMAサージェリー
  • 胎盤を捨てないで! 胎盤には健康と病気のヒントが詰まっている。出産後に廃棄するのではなく、むしろ慎重に研究すべきであると科学者たちは言う。(トレンズ・イン・モレキュラー・メディシン
  • 6月、レナカパビル(lenacapavir)という薬が、女性および思春期の少女のHIV感染を100%予防することが示された。この薬はアフリカの女性を対象に試験が実施されたが、彼女らの大半は依然として入手できないままとなっている。(スタット
  • 子宮内膜症とは何か、その仕組み、治療法については、まだ解明に取り組んでいる段階である。子宮内膜症の女性は、脳の灰白質に違いがあるようで、これは骨盤痛だけでは説明できない。(ヒューマン・リプロダクション
人気の記事ランキング
  1. Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
  2. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
  3. Google says it’s made a quantum computing breakthrough that reduces errors グーグルが量子エラー訂正でブレークスルー、実用化へ前進
  4. Why a ruling against the Internet Archive threatens the future of America’s libraries 主張:インターネットアーカイブ敗訴、図書館の未来を守れ
  5. Why virologists are getting increasingly nervous about bird flu 米国で感染拡大、もはや鳥だけの問題ではない「鳥インフル」問題
ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る