山火事の早期発見にAI活用、コスト負担と効果検証に課題
気候変動の影響で山火事は大規模化しており、早期発見が一層重要となっている。人工衛星やカメラとAIなどのテクノロジーを活用して山火事の早期発見を可能にする取り組みがいくつか進められている。 by Casey Crownhart2024.09.30
- この記事の3つのポイント
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- 折れた電柱や花火などが原因で発生する山火事は気候変動により大規模化
- AI衛星やカメラなどのテクノロジーで早期発見を目指す取り組みが進む
- 山火事の早期発見システムの効果検証とコスト負担の在り方が課題
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
2024年2月、米国テキサス州の小さな町スティネットの近くで、折れた電柱が送電線を破損した。その後、数週間のうちに、この送電線によって発火したとされる火は約4000平方キロメートルを超えて燃え広がり、同州史上最大の山火事へと発展した。
風に流された花火から落雷まで、あらゆるものが山火事を引き起こす可能性がある。多くの生態系にとって、ある程度の火災が起こるのは自然なことだ。しかし一方で、気候変動がもたらすより高温で乾燥した状況は、火災の季節の長期化を加速し、より広大な面積の土地の森林を燃やすこれまでよりも大規模な火災を生み出している。
そのため、山火事をより早期に発見する必要性がこれまでより一層重要になってきており、一部の団体はそれに役立つテクノロジーに目を向けている。本誌のジェームズ・テンプル編集者がつい最近、人工知能(AI)を搭載した山火事発見衛星コンステレーションに資金を提供するグーグルの新たな取り組みについて記事を書いた。詳細はテンプル編集者の記事全文を読んでいただくとして、ここでは、このプロジェクトが火災検知技術の分野にどのように適合するのかということ、および今後待ち受けている課題のいくつかについて掘り下げてみよう。
火災では初動対応が重要だ。現在のところ多くの火災は、たまたま発見した一般の人が緊急サービス機関に通報することで当局が把握することになる。テクノロジーは、火災が巨大な炎に成長するずっと前のより早い段階で検知することによって、当局の助けとなる可能性がある。
そのような取り組みの1つが、「ファイアサット(FireSat)」だ。ファイアサットは、グーグルの非営利部門と研究部門、非営利組織の環境防衛基金(Environmental Defense Fund)、衛星企業のミュオン・スペース(Muon Space)などの共同事業体である「アース・ファイア・アライアンス(Earth Fire Alliance)」のプロジェクトである。52基の衛星で構成されることが計画されているこのシステムは、5メートル四方の範囲の小規模な火災を発見可能になっており、画像は20分ごとに更新される。
山火事の検知に役立つ衛星はこれが初めてではないだろう。しかし、既存の取り組みの多くは、高解像度の画像を提供するか、頻繁に画像を更新するかのどちらかだ。この新しいプロジェクトのように、両方を実現するものはない。
ドイツを拠点とするスタートアップ企業オロラテック(OroraTech)もまた、山火事の検知に特化した新しい衛星の打ち上げに取り組んでいる。この小型衛星(靴箱ほどの大きさ)は地球近くの軌道を周回し、センサーを使って熱を検知する。オロラテックの長期目標は、100基の衛星を宇宙に打ち上げ、30分ごとに画像を提供することである。
宇宙ではなく地球上で、当局が火災を特定、確認、監視するのに役立つ可能性があるカメラ・ステーションを展開している企業もある。パノAI(Pano AI)はハイテクなカメラ・ステーションを使って、火災をより早期に発見しようとしている。山の頂上など見晴らしの効く場所にカメラを設置し、周囲360度全体が見渡せるようにそれを回転させる。パノAIによれば、このテクノロジーによって半径約16キロメートル以内の山火事を発見できるという。カメラはアルゴリズムと組み合わせられており、火災の可能性が検出されると自動的に人間の分析者にアラートを送る。
山火事の検知に役立つツールが増えるのは素晴らしいことだ。しかし、このような取り組みについて話を聞くたびに、この分野にはいくつかの大きな課題があることに気づく。
まず、どんな種類の予防手段も、必要性がしばしば過小評価される可能性があることだ。一度も起こらない問題は、解決が必要な問題よりも、はるかに緊急性が低いと感じられるためである。
数カ所のカメラ・ステーションを展開しているパノAIは、同社のテクノロジーが一般人の報告よりも早く火災を検知した例を指摘する。テッククランチ(TechCrunch)の報道によると、オレゴン州で起きたあるケースでは、最初の緊急通報が入る14分前にパノAIのシステムが警告を発したという。
火災を早期に発見できるのは良いことだというのは、直感的には理解できる。そしてモデル化すれば、もし火災が早期に発見されていなかったら何が起こった可能性があるか、示せるだろう。しかし、起こらなかったことの影響を判断するのは非常に難しい。これらのシステムが火災の被害を防ぐのにどれほど効果的なのかはっきり言えるようになるには、長期にわたってそのようなシステムが配備され、研究者が大規模で体系的な研究をする必要があるだろう。
コストの見通しも、私にとってはなかなか理解できない問題だ。人命を危険にさらすことは言うまでもなく、温室効果ガスを排出することにもなる山火事の予防は、公益にかなう。しかし、誰がそのコストを負担することになるのだろう?
パノAIのステーションは1カ所あたり年間5万ドルほどのコストがかかる。同社の顧客の中には電力会社もいる。電力会社は、自社設備が絶対に火災を起こさないようすることと、インフラに損害を与える可能性のある火災を警戒することに強い関心を持つ。
今年テキサス州で起こった火災の火元となったとされる設備を持つ電力会社のエクセル(Xcel)は、その責任をめぐって提訴されている。電力会社は、火災の後で莫大なコストに直面する可能性がある。昨年ハワイで発生し、死者も出した火災は、数十億ドルの損害をもたらした。ハワイ電力工業(Hawaiian Electric)は、その火災における責任に対しておよそ20億ドルを支払うことで最近合意した。
アース・ファイア・アライアンスが提案する衛星システムには、全部で4億ドル以上のコストがかかる。同団体は、最初の4回の打ち上げを含むプログラムの第1フェーズに必要な資金の約3分の2を確保している。だが、AIを搭載した山火事検知衛星コンステレーションを実現するためには、さらに多くの資金を調達する必要があるだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
AIを搭載した衛星コンステレーションが山火事のより迅速な発見にどのように役立つかということについては、ここで読める。
気球を使って風の流れに乗せ、火災を追跡することを目指している企業もある。アーバン・スカイ(Urban Sky)は今年、コロラド州で気球を展開している。
衛星画像は、火災が引き起こす被害と温室効果ガス排出量を集計するのにも使える。私は今年これまでに、昨年のカナダの山火事について記事を書いた。この火事は、2023年にほとんどの国で燃やされた化石燃料よりも多くの温暖化ガスの排出を生み出した。
気候変動関連の最近の話題
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→ 2022年12月に私が作成した年表をご覧いただきたい。郵便公社がEVに全面的に取り組むために要した数年にわたる冒険の物語だ。(MITテクノロジーレビュー) - マイクロソフトは、気候イノベーションのためのAIのリーダーを自称している。同時にこの巨大テック企業は、石油・ガス会社にそのテクノロジーを販売している。元本誌記者のカーレン・ハオによるこの興味深い調査をご覧いただきたい。(アトランティック)
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。