猛暑の夏、帰宅後の「エアコン一斉オン」がなぜ問題になるのか?
多くの人々が同じような時間帯に自宅に戻ってきて、エアコンの電源を入れる。その結果、夏の夕方は1年の間でも最も電力需要が高い時間帯となっている。そして、この時間帯の電力需要の高まりは、送電網に大きな負担をかけている。 by Casey Crownhart2024.08.22
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
うだるような夏の日の夕方、私は家に帰ると、まず急いで窓用エアコンに向かい、スイッチを入れ、設定温度を下げて強風にしてフル稼働させる。
市、郡、さらには州全体の人々がおそらく同じことをしているだろう。そして私のように、テレビを付け、フライヤーの電源を入れて夕食の準備を始めるかもしれない。このような単純な日常的行為は、特別なこととして意識するようなことではないかもしれないが、送電網には確実にその影響が現れる。
電力需要が最も高くなる時間帯は、夏の夕方であることが普通だ。そして、その電力の大部分は、安全で快適な生活を維持するための冷房機器が消費している。夏の夕方に電力需要が急増することは、電力会社や送電事業者にとって非常に大きな課題だ。最近の記事で取り上げたように、電力需要のピーク時に使うために、他の時間帯にエネルギーを蓄えることができる新しい冷却テクノロジーを市場に投入しようとしている企業もある。
発電や送電を浄化しながら、照明とエアコンを使い続けられるように計画する上で、なぜ1日の最大電力需要が重要なデータとなるのか、その理由を掘り下げてみよう。
国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、米国の一部地域のようにエアコンが一般に普及している地域では、暑い日の住宅のピーク電力需要の70%以上を冷房が占めることもある。電力会社が猛暑日にエアコンを弱めるよう利用者に求めることがあるのも不思議ではない。
こうした電力需要の高まりは、大きな負担となり得る。カリフォルニア州の発電と送電を監督するカリフォルニア州独立系統運用機関(CAISO:California Independent System Operator)のデータを見てみよう。例えば、8月5日の月曜日。この日の電力需要の最小値を記録したのは午前4時ごろで、その値は2万5000メガワットほどだった。一方でピークを記録した時刻は夕方6時頃で、需要は4万2000メガワットだった。早朝と夕方のピークの間に大きな差を作る要因はいろいろあるが、その大部分を占めるのがエアコンだ。
私が使っている窓用エアコンのような冷房機器は、電力を大量に消費する。そのため、一年のうち送電網に最も負荷がかかる時間帯が夏の夕方になることが多い。一方、冬季の電力需要は通常、あまり変動がない。朝と夕方にそれぞれ、暖房システムによる小さなピークが見られるくらいだ(米国各地の電力需要のピークが、それぞれどのように異なっているのかということについては、米国エネルギー情報局のこちらの記事で詳しく見ることができる)。
気候の観点から見ると、夏の夕方は、電力需要がピークを迎えるタイミングとしては都合が悪い。太陽光発電設備がその日の発電を終える時間帯に当たってしまうからだ。これは、再生可能エネルギー電源の長年の課題の一つである、「使えるかもしれないが、使いたいときに使えるとは限らない」という問題の一例である。
多くの場合、送電事業者は需要を満たす方法をあまり持ち合わせてはいない。照明を灯し続けるために化石燃料の発電所に頼ることになっても、使えるものを使うしかないのだ。いわゆるピーク発電所(尖頭負荷発電所)は通常、ピーク時の電力需要を満たすために稼働させるものであり、他の発電所よりも運転コストが高く付き、効率が悪い。
数カ月前に取り上げたように、バッテリーが救世主となりつつある。CAISOの4月16日のデータによると、現地時間午後7時過ぎから、エネルギー貯蔵システムが送電網上で最大の電力源となった。しかし、バッテリーによる電力供給は、ピーク時の電力需要を満たすにはまだまだ不十分だ。夏の間に送電網にかかる負荷が高まるにつれて、天然ガス発電所の稼働率も上がっており、4月よりも8月の方がはるかに高くなっている。カリフォルニア州の夏の夕方は、化石燃料が人々の日常生活に電力を供給しているのだ。
このようなピーク時の高い電力需要を満たすには、送電網により多くのエネルギー貯蔵装置をつなぎ、地熱、水力、原子力などの排出量が少ない発電所をもっと導入する必要がある。しかし、バッテリーのように機能する冷却システムへの関心も高まっている。
それを実現するテクノロジーも増えている。その目的は、需要が少ない時間帯や再生可能エネルギーを利用しやすい時間帯に、システムを充電することだ。そうすれば、送電網に負担をかけることなく、電力需要のピーク時でも冷却機能を利用できる。どのように機能するのか、また開発と実用化がどの程度進んでいるのかといったことについては、こちらの記事をご覧いただきたい。
地球温暖化が進み、さらに多くの人々がエアコンを使い始めると、送電網が限界を超えてしまうかもしれない。 たとえ発電量が不足していなくても、猛暑と高負荷は送電設備への脅威となる可能性がある。
エアコンの設定温度を上げるよう人々に求めることは、猛暑日の短期的な解決策となるかもしれないが、エネルギーの使用方法や使用時間をより柔軟に変えられるようにするテクノロジーは、夏の夜が今後ますます暑くなっても、安全かつ快適に過ごすための鍵となるだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
エアコンは、気候変動対策に対する悪役のような存在だ。昨年の記事で書いたように、エアコンは温暖化する世界に人間が適応するのを助ける一方で、エネルギー需要の急増を招き、温暖化を助長するからだ。
バッテリーはピーク時の電力需要を満たす鍵になるかもしれない。5月の記事で取り上げたように、バッテリーはその役割を果たし始めている。
中国で水素自転車が登場、なぜいま水素なのか?
中国では、電池ではなく水素を自転車の動力源にしようとする企業が増えている。しかし、自転車の航続距離に関する苦情が利用者から寄せられるなど、評価は分かれている。詳しくは本誌のヤン・ズェイ記者の最新記事を読んでほしい。
水素への関心が高まっている理由の1つとして、リチウムイオン電池の安全性に対する懸念が挙げられる。ニューヨーク市は電池交換ステーションを市内に設置することで、電動自転車の安全性を高めようとしている。このプログラムについては、5月に掲載したこちらの記事をご覧いただきたい。
気候変動関連の最近の話題
- 再生可能エネルギー大手のAESコーポレーションは、今までに類を見ない、太陽光発電パネルの設置をサポートするロボット「マキシモ(Maximo)」を発表した。マキシモは人間の2倍の速さ、半分のコストで太陽光発電パネルを設置できると同社はアピールしている。(ニューヨーク・タイムズ)
- 欧州連合では2024年上半期、太陽光発電と風力発電による発電量が化石燃料による発電量を上回った。許認可制度の改革とロシアによるウクライナ侵攻が、再生可能エネルギーの普及を後押ししている。(カナリー・メディア)
- 日陰に入ると、体感温度がぐっと低くなる。都市は、日陰を作るために樹木ではないものにも目を向ける必要がある。(アトランティック)
- 米国の各州がどのように電力を調達しているか、そしてそれが過去20年間でどのように変化したかを詳しく示したこのインタラクティブなチャートは、一見の価値がある。サウスカロライナ州やアイオワ州などについてはいくつか驚かされる事実があった。(ニューヨーク・タイムズ)
- ドイツの電気自動車(EV)販売台数は、37%減と低迷を続けている。この低迷は、ドイツがEV購入者に向けた補助金の支給を昨年打ち切ったことに起因している。(ブルームバーグ )
- 山火事の煙は健康に悪影響を及ぼす可能性がある。大気環境が悪い日は屋内にとどまり、マスクを着用し、特に屋外での運動を避けることで身を守るべきだ。(ワイアード)
→ サイエンス・フライデーの最新エピソードでは、昨年のマウイ島火災の生存者の健康状態を追跡調査する新しい研究について、一週間のその他の科学ニュースとともに取り上げた。(サイエンス・フライデー) - 米国議会で審議されている新法案により、再生可能エネルギーのプロジェクトと一部の化石燃料プロジェクトの建設が容易になるかもしれない。石油・天然ガスに関すして譲歩している部分はあるが、このような許認可改革に賛同する声がエネルギー専門家の間で高まっているのはなぜか。(ヒートマップ)
- カマラ・ハリスは、ティム・ウォルツを副大統領候補に指名した。ミネソタ州知事のウォルツは、2040年までに再生可能エネルギー100%を達成することを電力会社に求める法律など、気候変動対策に取り組んだ経験がある。(グリスト)
- 人気の記事ランキング
-
- Google DeepMind has a new way to look inside an AI’s “mind” AIの「頭の中」で何が起きているのか? ディープマインドが新ツール
- Google DeepMind has a new way to look inside an AI’s “mind” AIの「頭の中」で何が起きているのか? ディープマインドが新ツール
- How this grassroots effort could make AI voices more diverse 世界中の「声」を AIに、180言語を集める草の根プロジェクト
- Who’s to blame for climate change? It’s surprisingly complicated. CO2排出「責任論」、単一指標では語れない複雑な現実
- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。