数学で進化するAI、グーグルの新モデルが示す知性の未来
グーグル・ディープマインドのAlモデルが高校生の国際数学オリンピックの難問を解いたというニュースは、AIによる推論において画期的な出来事と言える。今後、数学者が新たな種類の問題を解いたり考案したりするのに役立つようになるかもしれない。 by Melissa Heikkilä2024.08.10
- この記事の3つのポイント
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- AI企業各社が新たなAIモデルやツールを発表
- グーグル・ディープマインドのAIは数学オリンピックで好成績
- AIが数学的推論能力を獲得することで科学的発見が加速する可能性
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
人工知能(AI)にとってまた重要な1週間となった。メタは強力な新しい「ラマ(Llama)」モデルを更新し、無料で配布する。オープンAI(OpenAI)は、AIを利用したチャット可能なオンライン検索ツールである「サーチGPT(SearchGPT)」を試験的に提供すると発表した。
しかし、私が本当に目を引かれたニュース記事は、本来は注目されるべきなのにそれほど注目されなかった記事だ。その記事からは、今後これまで以上に強力なAIと科学的発見がもたたされる可能性が見て取れる。
グーグル・ディープマインド(Google Deepmind)は7月25日、複雑な数学の問題を解くことができるAIシステムを構築したと発表した。「アルファプルーフ(AlphaProof)と「アルファジオメトリー(AlphaGeometry)2」の2つのシステムは今年、高校生向けの権威あるコンテストである国際数学オリンピックで出題された問題に共に取り組み、6問中4問を見事に解いたのだ。そのパフォーマンスは、銀メダル獲得にも匹敵するものだった。この種の問題でAIシステムがこれほど高い正答率を達成したのはこれが初めてだ。 本誌のリアノン・ウィリアムズ記者がこのニュースを伝えている。
数学! あなたの目がうつろになっているのがもう目に浮かんでいる。我慢してお付き合いただきたい。これは単に数学に関する発表ではない。 実際にはこのニュースは、現時点で構築可能なAIの種類に関して、興奮するような新展開があったことを示している。 チャットできるAI検索エンジンは「AIに本当の知性があるという錯覚」を強めるかもしれないが、ディープマインドが開発したようなシステムはAIの実際の知性を向上させる可能性がある。そのため、より数学に強いシステムを構築することは、オープンAIのような多くのAI研究機関の目標となっている。
その理由は、数学はAIによる推論のベンチマークとなるからだ。高校生を対象としたこれらの演習問題の解答を完了するために、AIシステムは抽象的な問題を理解して解決するためのプランニングなど、非常に複雑なことをする必要があった。これらのシステムには汎化能力もあり、それにより数学のさまざまな分野における幅広い問題を解決できたのだ。
「このことからわかるのは、アルファ碁(AlphaGo)などで非常に大きな成功を納めた強化学習と大規模言語モデルを組み合わせることで、テキストの分野で極めて優秀なものを作れるという事実です」。グーグル・ディープマインドの主席研究科学者で、深層強化学習の先駆者であるデビッド・シルバーは記者会見で語った。今回のケースでは、その能力は数学的な証明を表すコンピューター言語、リーン(Lean)のプログラムを構築するために使用された。国際数学オリンピックは「何が可能か」試す場所であり、さらなるブレークスルーへの道を開くものだとシルバー科学者は語っている。
これと同じやり方は、強化学習アルゴリズム向けの明確かつ検証済みの報酬信号と、数学のように正確性を明確に測定できる方法があれば、どんな状況にも適用可能だと、シルバー科学者は語った。たとえば、適用可能な領域の一つにコーディングがある。
ここで、必須となる現実性チェックをしてみよう。 アルファプルーフとアルファジオメトリー2 は、依然として高校レベルの難問しか解くことができない。それは、トップクラスの数学者なら解くことができる超難問からは程遠いものだ。グーグル・ディープマインドは、現時点で、人類が作り出した数学的知識体系に対して、同社のツールは何も貢献していないと強調した。しかし、それは重要なことではない。
「当社は、何でも証明できるシステムを提供することを目指しています」と、シルバー科学者は語った。たとえば、多くの難題に対する証明を提供したりコンピューターソフトウェアや科学実験のテストを検証したりできて、電卓と同じくらい信頼性の高いAIシステムについて考えてみよう。または、試験の結果に対するフィードバックを提供したり、ニュース記事の事実確認をしたりできるであろう、より優れたAIチューターを構築できるシステムについて考えてみよう。
しかし、私が最も興奮したのは、ケンブリッジ大学で数学とAIを専門とする研究者、ケイティ・コリンズ研究員(このプロジェクトには関与していない)がリアノン記者に語った内容に対してだ。 コリンズ研究員は、これらのツールが新しい数学の問題を生み出して評価し、数学の分野に新たに参入する動機を人々に与え、より多くの驚きを喚起すると語る。それは間違いなく、私たちがこの世界でより必要とすることだ。
AIモデルの訓練データに自分の作品が含まれているか確認できるツール
生成AIブームが始まってから、コンテンツ制作者たちは、自分たちの作品が同意なしにAIモデルにスクレイピングされていると主張してきた。とはいえ、特定のテキストが実際に訓練用データセットに使われたかどうかを把握することは、これまで困難であった。そのことを確認するために、「著作権トラップ」と呼ばれる新たな手段が登場した。これは、作成したコンテンツにマークをつけておき、AIモデルの訓練に使用されたかどうか後に検出できるようにする隠しテキストだ。
著作権トラップは、AIにまつわる最大の争いの1つに関わってくる。多くの出版社や作家は、自分たちの知的財産が許可なくAIの訓練用データセットにスクレイピングされたとして、テック企業を相手取り訴訟を起こしている真っ最中だ。このトラップは、コンテンツ制作者に有利になるように僅かにバランスを変えるのに役立つ可能性があるという考えだ。 記事の詳細はこちら。
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- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。