人生を変える「おもちゃ」と遊び
子どもの頃にお気に入りだったボール、フリスビー、ジャックスといった玩具があなたの人生を変えるかもしれない。 by Bill Gourgey2024.07.03
『テクノロジーレビュー(MIT Technology Reviewの前身)』の1984年11月号に掲載された記事では、ヒューストン自然科学博物館で天文学のキュレーターを務めるキャロリン・サムナーズが、玩具、ゲーム、遊園地の乗り物がいかに若者たちの科学や数学に対する考え方を変え得るかを綴っている。「スリンキーは長きにわたって、教師が縦波(音に似ている)と横波(光に似ている)を実演して見せる手段として使われてきました」とサムナーズは書いている。ヨーヨーはローラーコースター上の力を観察するための測定機(「ヨーヨーメーター」)になり得る。ビー玉は質量と速度の概念を教える。シンプルなボールでさえ、重力の法則に関する洞察を与えてくれる。
サムナーズは物理学に焦点を絞っていたが、彼女はそれよりも大きなことを伝えていた。この数十年で、幼少期の遊びが未来の私たち自身を形成するというエビデンスが明らかになっている。幼少期の遊びは、私たちが発達させていく能力、選ぶ職業、自己肯定感、さらには人間関係をも形作るのである。
だからと言って、子どもたちを天文学者や大工にするために望遠鏡や小さな工具箱のような「教育的」玩具を押し付けるべきだというわけではない。サムナーズが解説したように、「楽しい」玩具であっても物理学の基本原理を知る機会を得られるのだ。
子どもの発達に関する専門家で、『The Brain That Loves to Play(遊ぶことが大好きな脳)』(未邦訳)の著者であるジャクリーン・ハーディングによると、「遊びに時間をかけることで、実行機能、意思決定、回復力(レジリエンス)などに良い影響を与えられ、それがあなたを将来的にはるかに安全で安定した場所へと運んでくれる推進力になります」。
サムナーズの注目の大半は、ハードスキル、つまり玩具やゲームによって培われる科学的知識に向いていた。だが、創造性、問題解決能力、チームワーク、共感力なども存在する。ハーディングによると、そういった遊びの構造化の度合いが低い、つまりルールや目標が少ないほど、そうしたソフトスキルが発現するという。
「創造的思考を生み出してくれるのは、目的などが決まっていない、つまり遊び方に正しいも間違いもない天然の材料、たとえば粘土や絵の具、水、泥を使った玩具や遊び方です」(ハーディング)。
遊びとは本質的に、自発的で、自然発生的で、目的のないものだ。そこにはリスクを取ること、限界を試してみること、実験することも含まれる。最高の遊びからは喜びに満ちた発見が生まれ、その過程でイノベーションや個人の成長という積み木が形になっていく。だがサムナーズがこの記事を書いてからの数十年で、遊びを取り巻く状況は大きく変わった。米国小児科学会の委員会が最近発表した幼児期に関する研究は、デジタルゲームやバーチャルな遊びは、物理的なゲームや屋外での遊びと同様の発育的恩恵をもたらさない可能性を示している。
「脳はデジタルメディアから得られる報酬が大好きです」とハーディングは言う。だが画面上での遊びでは、「自主性は獲得できません」。身体的なインタラクションの欠如もハーディングは懸念している。「人間同士の面と向かってのインタラクション、体が近づくこと、目と目を合わせること、そして遊びにおける相互関与の質こそが、本当の違いを生むのです」。
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ビル・ゴージーはワシントンDCを拠点に活動する科学ライター。
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- ビル・ゴージー [Bill Gourgey]米国版 寄稿者
- ワシントンD.C.を拠点に活動するサイエンス・ライター。