木材の変化を予測、「自己成形」する木造建築を生み出す建築家
建築家たちは長年、建築物に使った木材がねじれたり、曲がったりするのを最小限に抑えようとしてきた。シュトゥットガルト大学のメンゲス教授はコンピューターで木材の変化を予測し、建物の構造設計に活用することで、より持続可能で手頃な価格の建築を実現しようとしている。 by John Wiegand2024.07.01
人類は長い間、木をより予測しやすいものとして扱えるようにしようと努めてきた。製材所は、均一性を保つために、選ばれた木から木材を製造している。そして木は規格サイズに切断され、ねじれ、陥没、ひび割れを防ぐために窯で乾燥させられる。職人たちは何世代にもわたって、蟻継ぎ、ブレッドボードエンド、ポケットフローリングといった高度な手法を駆使して、完成品に木材の歪みが生じないようにしてきた。
しかし、木は本質的に精密なものではない。木目は反転し、渦を巻く。外傷や病気は傷や節となって現れる。
建築家でドイツのシュトゥットガルト大学の教授でもあるアキム・メンゲスは、こうした天然の性質を短所として捉えるのではなく、木材の最大の長所だと考えている。コンピュテーショナルデザイン・建築研究所(Institute for Computational Design and Construction)のメンゲス教授のチームは、コンピュテーショナルデザインを使って木材を使った新しい建築方法を模索している。これは、アルゴリズムとデータに基づき、木材が構造物内でどのような挙動を示すかを、実際に建築されるずっと前の段階でシミュレーションして予測するものだ。メンゲス教授は、この取り組みによって必要となる木材の量を減らすことで、建築家がより持続可能で手頃な価格の木造建築を作れるようになると考えている。
メンゲス教授の最近の取り組みでは、2023年のシカゴ建築ビエンナーレ(Chicago Architecture Biennial)で初公開された「ハイグロシェル(HygroShell)」のような「自己成形」型木造建築に重点が置かれている。ハイグロシェルは、クロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)と呼ばれる一般的な建築資材を用いたプレハブパネルで組み立てられた。5日間に渡って変形していったこの構造物は、木製の鱗のような屋根板が織り合わされた一続きの層へと展開し、拡大するなかで骨組みを覆うように引き伸ばされていった。ハイグロシェルは概念実証として設計されたもので、最終的に高さ約10メートルながら厚さわずか2.5センチメートルほどの、繊細なアーチ状の張り出し屋根へと姿を変えた。タイムラプス映像に収められたこの構造物が変化していく様子は、鳥が羽根を伸ばす姿に似ている。
ハイグロシェルという名前は、吸湿性を意味する英語に由来する。吸湿性とは、湿度の変化によって水分の吸収または喪失を引き起こす木の特性のことだ。木は乾燥すると収縮し、捻れたり曲がったりする性質を持っている。製材業者はこれまで、こうした木の動きを最小限に抑えるよう努めてきた。しかし、メンゲス教授のチームはコンピュテーショナルデザインを用いることで木材の変化を予測し、それを求めている構造へと導いて組み立てることができる。
その結果生まれたのが、予測可能で再現性のある製造プロセスだ。曲面は従来の建設手法で得られるものよりも鋭くなり、必要な素材の量は少なくなる。CLT(マスティンバーとも呼ばれる)で作られた既存の曲面構造はカスタム利用に限定され、割増価格になっているとメンゲス教授は語る。対照的に、自己成形ははるかに低いコストで曲面のあるマスティンバー構造の産業規模での生産を実現できる可能性がある。
ハイグロシェルの組み立てに際し、メンゲス教授のチームは水分含有量や木目の向きなどのデー …
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