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息づくキャラクターたち、
生成AI・LLMが切り拓く
「ゲームの新時代」
George Wylesol
人工知能(AI) Insider Online限定
How generative AI could reinvent what it means to play

息づくキャラクターたち、
生成AI・LLMが切り拓く
「ゲームの新時代」

生成AI技術が、ゲームのキャラクターたちに生命を吹き込もうとしている。台本のないキャラクターたちが生き生きと暮らす新しい世界は、かつてない没入感をプレイヤーにもたらす可能性がある。 by Niall Firth2024.07.04

この記事の3つのポイント
  1. 生成AIにより没入度の高いゲーム内キャラクターが実現可能に
  2. LLMを用いたAI NPCがゲームに革命をもたらす可能性
  3. ゲームの定義が変わり全く新しい体験が生まれる可能性も
summarized by Claude 3

まず、告白しておくことがある。私がビデオゲームに夢中になったのは、ほんの1年ほど前のことだ(あなたが言いたいことは分かっている)。「子どものため」のクリスマスプレゼントとして買った「XboxシリーズS」の蓋を開けた私は、いとも簡単に深夜のゲームセッションの世界へと引き込まれた。私はすぐにオープンワールド・ゲームに魅了された。オープンワールド・ゲームは広大な疑似世界を自由に探索し、どんなチャレンジを受けるかプレイヤー自身が選べるタイプのゲームだ。開拓時代の米国西部が舞台のオープンワールド・ゲーム「レッド・デッド・リデンプション2(Red Dead Redemption 2:RDR2)」には度肝を抜かれた。私は馬に乗って活気のない町を駆け抜け、酒場で酔っ払い、ボードビル劇場に立ち寄り、賞金稼ぎを撃退した。時には人里離れた丘の上にキャンプを設営し、コーヒーを淹れて眼下に広がる霧がかった谷をただ眺めた。

世界が生きていると感じさせるために、オープンワールド・ゲームにはコンピューターで制御された大量のキャラクターたちが住んでいる。こうして命を吹き込まれた人々は、「NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)」と呼ばれ、ゲーム内のバー、街の通り、宇宙港といった場所を埋め尽くしている。彼らNPCが、こうしたバーチャル世界を生き生きと充実したものにしているのである。必ずというわけではないが、多くの場合プレイヤーは彼らに話しかけることができる。

RDR2のようなオープンワールド・ゲームでは、プレイヤーは同じ疑似体験の世界内で、自分で選んだ多様なやり取りができる。

だがしばらくすると、繰り返される通りすがりの他人とのおしゃべり(あるいは脅し)が、否が応でも真実を突きつけてくる。楽しいことに変わりはないが、これはゲームに過ぎないのだと。正直に言えば、駅馬車の略奪、バーでの大乱闘、雨が降る森の中で鹿を追い回すといった遊びに、私は大量の時間を費やした。だが、ちょっと突付いてみれば幻想は薄れ始める。それは当然のことだ。ビデオゲームは入念に作り込まれたオブジェクトであり、数十億ドル規模の産業の一部であり、消費されるように設計されている。ゲームで遊んで、駅馬車を何台か略奪して、クリアしたら次に向かうのだ。

だが、いつまでもそうではないかもしれない。他の業界を一変させつつあるのと同じく、生成AIは、オープンエンドで、クリエイティブで、予想のつかない全く新しいゲーム内インタラクションへの扉を開こうとしている。ゲームは必ずしも終わりを迎える必要はないのかもしれない。

「チャットGPT(ChatGPT)」をはじめとする生成AIモデルを導入しているスタートアップ企業は、こうした生成AIモデルを利用して、スクリプトに依存せずプレイヤーと自由に会話できるキャラクターを作っている。また、完全な内面世界を持っているように見え、プレイヤーであるあなたが見ていない時にも活動し続けられるNPCを作ろうとしている企業もある。いずれ生成AIは、極限のディテールを備え、毎回新しい仕掛けや変化をもたらすゲーム体験を生み出す可能性を秘めている。

この分野はまだ誕生したばかりだが、非常に熱い盛り上がりを見せている。2022年、ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が、ゲームのスタートアップ企業のみを対象とした6億ドルのファンド「ゲームスファンド(Games Fund)」を立ち上げた。このファンドの対象となった企業の多くが、ゲームに人工知能(AI)を活用する計画を持っている。さらにA16Zとしても知られるアンドリーセン・ホロウィッツは現在、独自のAIで稼働するNPC(以降、AI NPCと呼ぶ)開発を目指す2つのスタジオに投資をしている。2024年4月には2回目の6億ドル投資ラウンド実施が発表された。

こうした体験に関する初期の実験的なデモは既に登場し始めており、RDR2のような完成品のゲーム内に登場する日もそう遠くないかもしれない。だが業界の中には、この進歩が今後のオープンワールド・ゲームを極めて没入度の高いものにするだけでなく、ゲームの世界あるいは体験の可能性そのものを変えるかもしれないと考えている者もいる。究極的には、プレイ(遊び)の意味を変える可能性があるのだ。

「ビデオゲームの次には何が来るのでしょうか?私の言いたいことがお分かりでしょうか?」ニューヨーク大学ゲームセンター所長で、ゲームデザイナーのフランク・ランツはそう話す。「もしかすると私たちは今、新しい種類のゲームの誕生を目の当たりにしているのかもしれません」。

こいつらは黙っていない

長年に渡って、ビデオゲームの開発手法に大きな変化はなかった。グラフィックは信じられないほどリアルになった。ゲームの規模は大きくなった。だがキャラクターや自分を取り巻く世界とのやり取りの方法に関しては、数十年前からの慣習の多くが今も使われている。

「主流のゲームにおいては、未だに1980年代からのお決まりの手法のバリエーションに目が向いているという状況です」。ニューヨーク大学のコンピューター科学教授で、ゲーム内テストを実施するスタートアップ企業、モドル・ドットAI(Modl.ai)の経営者でもあるジュリアン・トゲリウスはそう話す。長い年月をかけて有効性が実証されてきた定番のひとつに、ダイアログツリー(会話ツリー)と呼ばれる手法がある。このダイアログツリーには、NPCが取りうる反応の全てが書き込まれている。ダイアログツリーのどの枝を選んだかによって、返ってくる反応が決まる。たとえば、RDR2で通りすがりのNPCに無礼なことを言えば、そのキャラクターはこちらに食ってかかってくるだろう。銃撃戦に発展するのを避けたければすぐに謝る必要がある(銃撃戦になるのをあなたが望んでいなければ、の話だが)。

「エルデンリング(Elden Ring)」や「スターフィールド(Starfield)」といった、とりわけ高価で注目が集まるいわゆるAAAゲーム(通常のゲームタイトルと比べて特に多額の開発費や販売推進費用がかけられているゲーム)は、力業で深く広大なダイアログツリーを構築することで、没入感を深めている。最大手のゲームスタジオは数百人のゲーム開発者を採用し、彼らが長年かけて1本のゲーム開発に取り組む。ゲーム開発ではすべての会話に対して構想と計画が練られ、ゲーム内エンジンが特定の台詞をいつ展開すればいいか理解できるようにソフトウェアが作られる。RDR2の会話はおよそ50万行に上り、約700人の俳優が音声収録を担当したと報じられている。

「尋常ではない量のライティングやデザインをすることで、その世界の中でできることが限られるという現実を回避しているのです」とトゲリウス教授は話す。

生成AIは既に、新作ゲーム製作からそうした退屈な重労働の一部を取り払うのに役立っている。A16Zのジェネラル・パートナーで、Games Fundのマネージャーの1人であるジョナサン・ライによると、大半のゲームスタジオは「ミッドジャーニー(Midjourney)」のような画像生成ツールを活用して作業の改善や効率化を図っているという。A16Zが2023年に実施した調査によると、ゲームスタジオの87%が既に何らかの形でワークフローにAIを組み込んでおり、99%が今後組み込んでいく予定だという。ゲームがクラッシュする可能性のある場面のバグ探しに、人間のテスターではなくAIエージェントを活用しているスタジオは多い。数カ月ほど前にはゲーム業界大手エレクトロニック・アーツ(EA)の最高経営責任者(CEO)が、同社のゲーム開発工程の50%以上に生成AIが利用される可能性があると発言している。

ゲーム開発最大手のひとつで、「アサシンクリード(Assassin’s Creed)」シリーズをはじめとするAAAオープンワールド・ゲームで知られるユービーアイソフト(Ubisoft)は、「ゴーストライター(Ghostwriter)」と呼ばれる大規模言語モデル(LLM)ベースのAIツールを採用している。開発者はNPCの基本的なダイアログをライティングする際、退屈な重労働の一部にこのツールを活用しているのだ。Ghostwriterが背景から聞こえてくる群衆のおしゃべりのオプションを大量に生成し、人間のライターがその選択肢のいずれかを採用したり手を加えたりする仕組みになっている。人間のライターが、物語の構想にフォーカスしたライティングにより多くの時間を割けるようにするのが狙いだ。

 

それでも結局のところ、すべては台本通りに展開される。1本のゲームをある程度の時間プレイすれば、ゲーム内にあるものは全て見た、あらゆるやり取りを体験したという状況がやってくる。新しいゲームを買うべき頃合いというわけだ。

だが、インワールドAI(Inworld AI)のようなスタートアップ企業にとって、この状況はチャンスだ。カリフォルニア州に拠点を置く同社は、ダイナミックで筋書きの決められていない言動でプレイヤーに反応し、決して同じことを繰り返さないゲーム内NPCを生み出すためのツール開発に取り組んでいる。現時点で5億ドルの評価を受けているインワールドAIは、グーグルの元CEOエリック・シュミットや有力投資家らの支援により、最も潤沢な資金援助を受けているAIゲームのスタートアップ企業だ。

ロールプレイングゲーム(RPG)は様々な現実を独自の方法で体験させてくれると、インワールドAIのCEOで創業者のカイラン・ギブスは言う。だが、そこには常に何かが足りなかった。「基本的に、ゲーム内のキャラクターは死んでいるのです」とギブスCEOは言う。

「メディア全体で考えてみると、映画やテレビや本であれば、キャラクター(登場人物)こそがその世界に対する私たちの共感の原動力です」とギブスCEOは語る。「現状で最先端のストーリーテリングと言ってもいいゲームにおいて、生きたキャラクターの不在は非常に大きな問題だと私たちは感じていました」。

ゲーマーたちは、大規模言語モデルがこの溝を埋められる可能性を持っていることにいち早く気がついた。昨年、あるゲーマーが人気のRPG「スカイリム(Skyrim)」用にチャットGPTのモッド(mod、既存のゲームに改変を加える方法のひとつ)を考案した。このモッドがあれば、プレイヤーは大規模言語モデル搭載のフリーチャットを使ってゲームに登場する無数のキャラクターたちと交流できるようになる。オープンAI(OpenAI)の音声認識ソフトウェア「ウィスパーAI(Whisper AI)」が組み込まれたモッドも存在する。このモッドを使えば、プレイヤーは自分の声でキャラクターに話しかけ、ダイアログツリーに縛られることなく自由に会話できるようになる。

こうしたモッドによりゲーマーは今後の可能性の一端を垣間見ることができたが、最終的には若干の失望を味わうことになった。会話はオープンエンドだが、キャラク …

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