CCSブーム到来、大量回収したCO2はどこに埋める?
大気から回収した二酸化炭素の貯留に助成金が投入されることで、米国では二酸化炭素貯留ブームが到来しつつある。地下数千メートルの油田が、回収した二酸化炭素を貯留する場所として有望視されている。 by Casey Crownhart2024.06.30
- この記事の3つのポイント
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- CCSでは二酸化炭素の回収と貯留の両方が重要である
- 二酸化炭素は油田や海底下などに貯留できる可能性がある
- 二酸化炭素を製品に貯留する試みもあるが規模は小さい
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
コンビにおいては、片方のメンバーが見過ごされがちだ。ピーナッツバターとジャムのサンドイッチ(PB&J)ではいつも、ジャムよりもピーナッツバターの方が輝きを放っている(少なくとも私の目にはそう映る)。二酸化炭素の回収・貯留(CCS)テクノロジーにおいては、貯留部分が正当に評価されない傾向にある。
名前から察しがつくように、CCSには主に2つの段階が存在する。まず、化石燃料を用いる発電所などの施設から排出される温室効果ガスから、二酸化炭素を取り除く。そして、取り除いた二酸化炭素を閉じ込めたり、貯留したりする。
最初の二酸化炭素を集めることは重要に思えるだろう。加えて、CCSシステムが温室効果ガスをどの程度の割合、取り除けるのかということは大きな注目が集まりがちだ。だが貯留がなければ、このプロジェクトはまるで役に立たない。回収と長期的な貯留の組み合わせこそが、気候への影響削減に効果を発揮するのだ。
最近では貯留への注目が高まってきており、本誌のジェームズ・テンプル編集者が最新記事で取り上げたように、二酸化炭素貯留のちょっとしたブームが到来しようとしている。集中投下される連邦助成金が、米国のCCSビジネスにとってどんな意味を持つのか、新たなプロジェクトへの支援が気候目標の達成に寄与するのか、あるいはさらに達成を遠ざけることになるのかは、私たちのやり方次第である——。これらがジェームズ編集者の記事のポイントだ。
記事を受けて、私は見過ごされがちなCCSの2つ目の要素である貯留について考えることにした。今回は、炭素汚染の回収と貯留ができる可能性がある場所、またそれがなぜ重要なのかを紹介しよう。
貯留における中心的な必要条件は、二酸化炭素が誤って漏れ出し、大気を暖めてしまわないようにすることだ。
この条件にかなう可能性のある意外な場所のひとつが、油田だ。化石燃料を抽出するための油井を建てる代わりに、企業は新たなタイプの油井建設を検討している。液相と気相が存在しない超臨界状態にまで加圧した二酸化炭素を地中深くに送り込むというものだ。深い位置に多孔質岩があり、上部には漏出を防ぐ硬岩が存在するなどの適切な条件が揃えば、二酸化炭素の大半はその場に残留する。
二酸化炭素を地中に送り込むというのは実際のところ新しいアイデアではないが、これまでは全く異なる目的で主に石油およびガス産業で利用されてきた。その目的は、より多くの原油を地中から汲み上げることだ。原油増進回収法と呼ばれるプロセスにおいて二酸化炭素を油井に注入することで、抽出が難しい原油を解放するのである。この過程で、注入された二酸化炭素の大半は地中に残留する。
だが米国では、インフレ抑制法の新たな税額控除が要因のひとつとなり、二酸化炭素を地中に送り込むこと自体を目的とすることへの関心が高まっている。企業は二酸化炭素を回収して地下層に永久的に貯留することで、1トンあたり85ドルの利益を得られる。この条件は二酸化炭素の発生源や閉じ込め方次第で変わってくる。
ジェームズ編集者は記事の中で、カリフォルニア州で提案されたあるプロジェクトを調査した。同州最大手の一角を担う石油・ガス生産業者が、連邦規制当局から許可草案を確保したのだ。このプロジェクトは地表から約1800メートルの深さに二酸化炭素を注入するというもので、同社の提出書類によると今後数十年で数千万トンの二酸化炭素を貯留しうるという。
だが、関心が高まっているのは陸上ベースのプロジェクトだけではない。テキサス州の政府関係者は先日、メキシコ湾の海底深くに二酸化炭素を貯留できる可能性を見込んで、企業にいくつかのリースを認可した。
コンクリートなど私たちが利用している製品や材料に二酸化炭素を貯留したいと考えている企業もある。コンクリートは反応性セメントに水と砂などの材料を混ぜて作られる。二酸化炭素を作りたてのコンクリートミックスに注入すると、その一部は反応に巻き込まれ、内部に閉じ込められる。私は昨年の記事で、2つの企業がどうやってこのアイデアを試験的に実行したかを取り上げた。
ダイヤモンドからサングラスに至るまで、私たちが日々利用している製品は回収した二酸化炭素で作ることが可能だ。こうした製品が長期にわたって存在しつづけ、分解しないと仮定するなら(この仮定がどの程度正当かについては、製品次第の部分が大きい)、これを一種の長期貯留と考える向きもあるかもしれない。だが、おそらくこの手の市場は気候変動という壮大な枠組みの中で影響を与えるほどの規模ではないだろう。
最終的には、温室効果ガスの排出量を減らすのは当然だが、気候目標を達成するにはやはり二酸化炭素の封じ込めが必要なのだ。
MITテクノロジーレビューの関連記事
二酸化炭素の回収・貯留(CCS)の潜在的な恩恵や危険性を含め、到来しつつあるCCSブームについて予想されることについての詳細をまとめた記事の全文はこちらから。
アイスランドにある施設では、大気から吸い出した二酸化炭素を鉱物を用いて地中深くに貯留している。2022年の記事の写真をご覧いただきたい。
バッテリー交換ステーションが果たす新たな役割
4月に地震に見舞われた台湾では、送電網に一時的な障害が発生した。この状況を救った意外なヒーローは、電気スクーター用のバッテリー交換ステーションだった。一群のステーションはこの問題への対応として、復旧まで電力網からの電力の引き込みを停止した。
ゴゴロ(Gogoro)が電力網支援のためにバッテリーステーションをどのような形でバーチャル発電所として利用しているのか、本誌のヤン・ズェイ記者による最新記事をチェックしてほしい。理解が追いついていない方は、バーチャル発電所とは何か、その仕組みを解説したこちらの記事をお読みいただきたい。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。