中国テック事情:ゴゴロがバッテリー交換所を1万基も展開する理由
台湾で1万基以上の電動スクーター向けバッテリー交換ステーションを展開するゴゴロのCEOは、バッテリーのネットワークをバーチャル発電所として活用するアイデアを語った。 by Zeyi Yang2024.06.14
- この記事の3つのポイント
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- ゴゴロのバッテリー交換ステーションは台湾地震時に送電網の安定化に貢献
- スマートエネルギー会社として創業、ポータブルバッテリーの活用を目指す
- 信号機のバックアップ電源など、さまざまな用途への応用が期待されている
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
台湾の都市を訪れたことがある人なら、緑と白の「ゴゴロ(Gogoro)」のバッテリー交換ステーションを目にしたことがあるだろう。台湾全土に1万2500基のステーションを持つゴゴロは、電動スクーターのユーザーが空になったバッテリーと、フル充電されたバッテリーをすぐに交換できる、広範なネットワークを構築している。ゴゴロは台湾以外にも、中国やインドなど複数の国や地域で展開している。
先日、台湾のゴゴロのバッテリー交換ネットワークが、今年4月に発生したマグニチュード7.4の地震後に、緊急停電にどのように対応したかについての記事を掲載した。私は、いかにして地震の3秒後に500カ所以上のゴゴロのバッテリー交換拠点が送電網から電力を受けることを停止し、電力の安定化に貢献したかを理解すべく、ゴゴロの共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるホレイス・ルークに話を聞いた。
ゴゴロのバッテリー・ステーションは、いわゆるバーチャル発電所(VPP)のように機能したのだ。VPPは、再生可能エネルギーを送電網に組み込む方法として世界中で採用されつつあるアイデアだ。このシステムは、蓄電池や屋上の小型太陽光パネルなどの分散型電源からエネルギーを取り込み、電力需要がピークに達したときに、それら電源を連係させて電力供給を増やす。その結果、従来の石炭や天然ガスを使った発電所への依存を減らすことができる。
また、バッテリー交換とバーチャル発電所といった技術の間には、実は自然な相乗効果がある。バッテリー交換ステーションは、充電のタイミングを送電網のニーズに合わせて調整できるだけでなく、ゴゴロのステーションに設置されている未使用のバッテリーは、緊急時には予備のエネルギーとなり、送電網にエネルギーを供給することもできるのだ。このシステムの仕組みについてもっと知りたい方は、こちらで記事全文をお読みいたきたい。
この記事のためにゴゴロのルークCEOに話を聞いたとき、私は「バッテリーをVPPネットワークに使うというアイデアは、会社の歴史のどの時点で思いついたのですか?」と尋ねた。
驚いたことにルークCEOは、「最初からです」と答えた。
ルークCEOの説明によると、ゴゴロは電動スクーターの会社としてではなく、「スマートエネルギー」の会社として創業したという。
「当社は、スマートエネルギーが、ポータビリティとコネクティビティによってさまざまなシナリオで使用可能になるという仮説からスタートしました」とルークCEOは話す。「日常生活におけるエネルギー使用量の27〜28%を輸送部門が占めています」。ゴゴロが最初に二輪車用バッテリーを設計したのにはそうした理由からだ。二輪車は、台湾をはじめアジア全域で人気のある交通手段である。
台湾で電動スクーターとバッテリー交換方式の普及に成功したことで、同社はこのモジュール式ポータブル・バッテリーの他の用途を模索できるようになった。現在は140万本以上のバッテリーが流通している。
「ガスボンベのようなスマートで持ち運び可能な、コネクテッド・エネルギーを想像してください」とルークCEOは話す。大きさにもよるが、ガスボンベは野外での調理や中庭の暖房に使うことができる。リチウムバッテリーも同じようにモジュール化され、持ち運びができるようになれば、さまざまな用途で使えるようになる。
停電から送電網を守るVPPプログラムでの使用もその一例だが、それ以外にもゴゴロは新北市で現地政府と協力して、信号機用のエネルギー・バックアップ・ステーションを作り、将来停電が起きたときに信号機の稼働を維持できるようにしている。さらにバッテリーは、病院をはじめとする重要な施設のバックアップ用蓄電池としても利用できる。停電が発生した場合、蓄電池はディーゼル発電機よりもはるかに早く電気を供給できるので、影響を最小限に抑えられる。
バッテリーがよりパワフルで効率的になった最近の進歩なしには、不可能だったことだ。そして、バッテリー・テクノロジーが歩んできた長い道のりや、将来的により多くのエネルギーのユースケースに対応できる可能性といったやり取りから、ルークCEOがバッテリーに夢中になっていることは明らかだった。
「小さい頃、初めて懐中電灯を買ってもらったときのことを今でも覚えています。あのボタンで、小さな電球をつけたり消したりできました。当時はそれが電池(バッテリー)のすごいところでした」とルークCEOは振り返る。「単三電池が電卓やウォークマンの電源になるなんて、誰も思っていませんでした。アルカリ電池を発明した人も、そんなことは考えもしなかったでしょう。私たちはこれからもその創造性をポータブル・エネルギーに応用していきます。そんな思いが私たちの日々の原動力になっているのです」。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。