KADOKAWA Technology Review
×
人気ボードゲーム「カタン」 新版で考えるエネルギー問題
Catan Studio
This classic game is taking on climate change

人気ボードゲーム「カタン」 新版で考えるエネルギー問題

架空の島「カタン」を開拓するボードゲーム・シリーズの新作「カタン:ニュー・エナジーズ(Catan: New Energies)」は、今日の気候テクノロジーに注目している。説教臭くもなく、楽しみ、考えさせられるゲームになっている。 by Casey Crownhart2024.06.07

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

人が集まったときにやりたいことが2つある。ボードゲームで遊ぶこと、それに気候変動について話すことだ。

私はその2つが大好きなので、この夏に発売されるボードゲーム「カタン:ニュー・エナジーズ(Catan: New Energies)」のことを知ってうれしくなった。以前は「カタンの開拓者たち(Settlers of Catan)」という名前で知られていたクラシックゲーム「カタン(Catan)」シリーズの新作である。このバージョンは、プレイヤーに化石燃料または再生可能エネルギーのどちらかを燃料とする発電所を建設させる。

エネルギーに焦点を置くカタンのこのバージョンは、他のボードゲームと比べてどうだろうか? 私たちの気候テクノロジーに対する見方に関して、何を伝えているのだろうか?

カタンは1995年に初めて発売され、現在では世界的に人気のあるボードゲームの1つになっている。これまでにオリジナルのゲームと関連商品が、世界中で4500万本以上売れた。

カタンのスーパースター的な地位を知っている私は、昨年末、このゲームの制作スタジオが新バージョンの発売を計画していることを知り、興味をそそられた。そしてすぐに、このゲームの共同クリエーターであるベンジャミン・テューバーに連絡を取って、詳しい話を聞いた。

「エネルギーがカタンにやってくる、というのが全体的なアイデアです」とテューバーは話してくれた。「そこで問題となるのは、どのエネルギーがカタンにやってくるのか、ということです」。発電所は、プレイヤーが自分の社会をより早く発展させ、ゲームに勝つために必要なポイントをより多く集めるのに役立つ。プレイヤーは、小さな茶色のトークンで表される化石燃料発電所を建設できる。化石燃料発電所は資源をあまり消費しないが、汚染を生み出す。また、プレイヤーは緑色のトークンで表される再生可能エネルギー発電所も建てられる。その場合、よりコストがかかるが、ゲームでは化石燃料発電所のような悪影響は起こらない。

気候担当記者として、私はこのゲームの設定のいくつかの要素が真実であるように感じる。例えば、汚染レベルが高まるほど災害の可能性も高くなるが、偶然の要素も大きくかかわっている。

現実とまったく一致していない面も1つあった。化石燃料と再生可能エネルギーのコストの差である。太陽光発電や風力発電のようなテクノロジーのコストは、過去10年で急落した。現在、新たな再生可能エネルギー・プロジェクトの建設コストは、一般的に言って、米国で既存の石炭火力発電所を稼働させるコストよりも安くなっている。

私は、ゲームの中で時間とともに再生可能エネルギーのコストを下げることをクリエーターたちが考えていたかどうか質問した。するとテューバーは、クリエーター・チームは実際にそのようなアイデアを取り入れて初期バージョンを作ったものの、全体が複雑になりすぎてしまったと答えた。プレイ可能な程度に物事をシンプルに保つことは、ゲーム・デザインの重要な要素だとテューバーは言う。

また、テューバーは、説教臭くならないことも強く重視したようだ。このゲームはまるで、プレイヤーが気候変動について不愉快な気持ちにならないように、わざわざ配慮しているように感じられる。実際、このゲームに関するNPR(米国の非営利のラジオ・ネットワーク)の報道が指摘したように、「気候変動」というフレーズは、宣伝用資料、パッケージ、またはルールのどれにもほとんど出てこない。このゲームの世界では、あらゆる問題を単に「汚染」という言葉で表現している。

2023年に発売された「デイブレーク(Daybreak)」のような他のいくつかの気候ゲームとは異なり、カタン:ニュー・エナジーズはプレイヤーが協力して気候変動と闘うことを目的としていない。設定は他のバージョンのカタンと同じで、勝利ポイントが最初に10点に達したプレイヤーが勝利する。理論的には、化石燃料に大きく頼ったプレイヤーが勝者となる可能性がある。

「このゲームは、『ばか野郎、勝つための唯一の方法は自然エネルギー発電所を建設することだと話しただろ』と言われているように感じるものではありません」。テューバーはこう話してくれた。

ただ、プレイヤーはポイント獲得につながる道を自分で選べる一方で、もう1つ、別の結果として起こり得ることがある。あまりに多くのプレイヤーが町や都市、化石燃料発電所を建設して過剰な汚染を生み出す場合、ゲームは大災害の中で早期終了してしまう。その場合、環境の浄化に最も貢献したプレイヤーが勝利する。残念賞のようなものだ。

私はこのゲームの初期バージョンを手に入れて試してみた。初めてプレイしたとき、私たちはあまりに速く汚染させてしまい、ゲームはすぐに終わってしまった。結局、勝利したのは私だった。再生可能エネルギー発電所のみの建設を選択したからだ。多少、鼻高々だということは認めよう。

しかし、さらにプレーするうちに、競争と協力のバランスが見えてきた。あるゲームでは、私があと数ターンで汚染による大災害を起こすところまできた。私たちは事態を好転させるため、より多くの再生可能エネルギー発電所を建設すると共に、プレイ時間を引き伸ばして、より速く自分の社会を建設した友人の1人が勝利に必要なポイントをかき集められるようにした。

「カタン:ニュー・エナジーズ」をプレイし終わった後の私たちのゲーム盤。私の飼っているネコが非公式審判役を務めた。
Casey Crownhart

ボードゲームや、気候変動を扱う他のあらゆるメディアは、目の前の危機に真剣に取り組むことと、十分に楽しんで関われることの間で、際どいバランスを取らなければならない。カタン:ニュー・エナジーズはそれを実践しているが、私が思うに、正確さにこだわるよりもプレイしやすさを優先することでいくらか妥協しているようだ。

このゲームを気候変動に関する教材として使うのはお勧めしない。ただ、カタンのファンなら間違いなくプレイする価値がある。私も、定期的にプレイするゲームの1つに加えるだろう。カタン:ニュー・エナジーズはここで先行予約注文できる。発売日は6月14日だ。もし、私の考察が不十分だと感じたなら、今後のカタン:ニュー・エナジーズや他の気候関連ボードゲームに関する記事にご期待いただきたい。


気候変動関連の最近の話題

  • 直接空気回収(DAC)は、より安価で、より優秀になりつつあるのかもしれない。クライムワークス(Climeworks)によれば、同社のテクノロジーの第3世代は、より少ないエネルギーで大気中からより多くの二酸化炭素を吸い上げることができる。(ヒートマップ
  • マサチューセッツ州のある町で、基本的に共同冷暖房システムとなる新しいパイロット・プロジェクトが実施される。地域エネルギー・プロジェクトは、都市や人口密度の高いコミュニティにおいて、エネルギーをより遠くまで運ぶのに役立つ可能性がある。(AP通信
  • サブライム・システムズ(Sublime Systems)は、電気化学的なプロセスを利用して、温室効果ガスを大量に排出することなくセメントを製造している。同社はつい最近、ボストンのビジネスパークで初めて商業プロジェクトを導入した。(カナリー・メディア
    → カナリー・メディアの記事によると、同社のある開発者はMITテクノロジーレビューの記事でサブライム・システムズのことを知ったそうだ!  このスタートアップを詳細に解説した記事をぜひ読んでほしい。(MITテクノロジーレビュー
  • 再生可能エネルギーが送電網へ殺到したことで、ある特別な時間帯に電気料金が超低価格になったり、さらには無料にさえなったりした。専門家たちは、その状況が再生可能エネルギーのさらなる普及を遅らせる可能性があると警告している。(ブルームバーグ
  • 気候変動によって一部が加速している自然災害は、特定のタイミングと慎重なコントロールを必要とする不妊治療のような医療処置を混乱させている。The 19th
  • アップルのリサイクルロボット「デイジー(Daisy)」の内幕をのぞいてみよう。この装置は1年間に100万台以上のアイフォーン(iPhone)をばらばらにできる。しかし、年間数億台が廃棄されていることを考えると、焼け石に水である。(テッククランチ
  • カナダは水力発電用ダム(の水量)が枯渇しそうになったため、米国から電力を輸入して不足分を埋めなければならなかった。これは、気象パターンの変化が気候変動対策を阻む場合があることを示す、もう1つの例である。(ニューヨーク・タイムズ
  • 氷結温度でも機能するバッテリーから、用水路の力を利用できるタービンまで、ハイテク・エネルギーの会議で紹介された5つのデモをチェックしよう。(IEEEスペクトラム
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る