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マイクロソフトの脱炭素計画が足踏み、背景に生成AIブーム
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
AI is an energy hog. This is what it means for climate change.

マイクロソフトの脱炭素計画が足踏み、背景に生成AIブーム

膨大な電力を消費するとされる生成AIの気候への影響について、どの程度心配するべきだろうか。詳細に見ていくと、必ずしもAIによる電力消費だけを単純化して考えるべきではない理由が見えてくる。 by Casey Crownhart2024.05.30

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

大手テック企業が、私たちの生活のあらゆる側面に人工知能(AI)を導入する新たな方法を矢継ぎ早に提案している。AIは、私の検索エンジンの結果を支配し、グーグルとオープンAIが今月発表した新たなバーチャル・アシスタントは、世界を映画『her/世界でひとつの彼女』に不気味なほど近づけている。

AIが私たちの世界にますます溶け込むにつれ、気候担当記者である私は、電力需要の増加について多くの質問を受けるようになった。AIは小規模な国家と同じくらいの電力を消費するということや、化石燃料の復活を招くこと、すでに送電網に問題を引き起こしていることを明確に指摘するニュースの見出しを見たことがあるかもしれない。

では、AIの電力需要について私たちはどの程度心配すべきなのだろうか? これは複雑な問題だ。

ある特定の処理のためにAIを使用すると、かなりのエネルギー・コストがかかることがある。本誌のAI担当であるメリッサ・ヘイッキラ記者が12月の記事で説明したように、いくつかの高性能AIモデルは、画像の生成に携帯電話のフル充電と同じくらいのエネルギーを消費することがある。ヘイッキラ記者が話を聞いた研究者たちによれば、ステーブル・ディフュージョンXL(Stable Diffusion XL)のようなモデルで1000枚の画像を生成すると、ガソリン車でおよそ6.6キロメートルを運転するのと同じくらいの二酸化炭素を排出したことになるという。

ただ、生成画像は人目を引く例ではあるものの、それほどエネルギーを使わないAI処理もたくさんある。例えば、画像の生成はテキストの生成よりも何千倍もエネルギーを消費する。また、万能型の巨大な生成モデルではなく、特定のタスクに特化したより小規模なモデルを使用する方が、数十倍も効率が良いことがある。いずれにせよ、生成AIモデルにはエネルギーが必要で、私たちはそのようなモデルを多用している。

国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、データセンターやAI、暗号通貨が消費する電力量は、2026年までに2022年比で2倍に達する可能性があるという。これらの消費電力をすべて合計すると、2022年の世界の電力需要のおよそ2%に相当する。この数字は、AIの電力需要に限ったものではないことに注意してほしい。AIによる電力需要を明確にするのは難しいので、データセンターの電力需要に関する予測を見るときは、そのことを頭に入れておく必要がある。

IEAの予測には不確実なところがあり、普及のスピードやコンピューター処理の効率化といった要因によって数値は大きく変わる。最も控えめな予測では、この分野は2026年までに、新たにおよそ160テラワット時の電力が必要になる可能性がある。最も過激な予測では、この数字が590テラワット時になる恐れがある。IEAの報告書にあるとおり、AIやデータセンター、暗号通貨を合わせると、世界の電力需要に「少なくともスウェーデン1カ国分、多ければドイツ1カ国分」の需要が加わることになりそうだ。

IEAは、同期間に世界の電力需要が合計で約3500テラワット時も増加すると予測している。コンピューティングが需要逼迫要因の一部であることは確かだが、それがすべてではない。例えば欧州連合(EU)では、電気自動車と工業部門が、データセンターよりも大きな電力需要増加の要因になるだろう。

それでもなお、一部の大手テック企業は、AIが気候目標の妨げとなる可能性を示している。マイクロソフトは、10年間で温室効果ガスの排出量をゼロに(あるいはそれ以下に)すると、4年前に約束した。しかし、マイクロソフトの最近の持続可能性報告書は、反対に排出量がまだ増え続けていることを示している。その理由としてAIを挙げる幹部もいる。「2020年に私たちは、カーボン・ムーンショットと呼ぶ計画を発表しました。それは、AIが爆発的に普及する前のことでした」と、マイクロソフトのブラッド・スミス社長はブルームバーグ・グリーンに語った

しかし、私が興味深く感じたのは、マイクロソフトの排出量増加の要因が、少なくとも資料の上ではAIの電力需要ではないということだ。マイクロソフトは自社の(AIを含む)全サービスの電力需要を再生可能エネルギーで満たすため、再生可能エネルギー・クレジットを購入している(クレジットが実際にどれだけ役に立っているかは疑問だが、その話はまた別の機会に)。

代わりに、インフラの成長が排出量の増加に拍車をかけている可能性がある。ブルームバーグの記事によれば、マイクロソフトはAI製品の需要に対応するため、2023年7月から2024年6月の間に500億ドルを投じてデータセンターを拡張する計画だという。これらのデータセンターの建設には、鉄鋼やセメント、そしてもちろん半導体チップなど、炭素を大量に排出する恐れがある材料が必要だ。

AIのエネルギー需要をめぐるパニック的な状況において考慮すべきことは、確かにAIは新しいテクノロジーだが、この種の懸念は新しいものではないということだ。このことは、ヒートマップ(Heatmap)のロビンソン・マイヤー編集者が4月の記事で指摘している。

マイヤー編集者が指摘する1999年当時の見積もりでは、情報テクノロジーがすでに米国の電力需要の最大13%を占めており、PCとインターネットが10年以内に送電網の容量の半分を食い尽くす可能性があるとされていた。しかし、そのようなことは起こらなかった。そして当時も、コンピューティングは実際に電力需要の3%程度を占めていた。

AIのエネルギー需要に関する破滅的な予測が現実になるのだろうか。もう少し様子を見なければならないだろう。しかし、私が思うに、AIはおそらくもっとはるかに大きな話のごく一部になるだろう。結局のところAIによる電力需要の増加は、いくつかの点で、電気自動車やヒートポンプや工場の拡大による需要の増加と変わらない。本当に重要なのは、その需要をどのように満たすか、ということである。

電力需要の拡大に対応するためより多くの化石燃料発電所を建設すれば、気候に悪影響を及ぼすことになる。しかし、電力需要の増加をきっかけに、再生可能エネルギーやその他の低炭素電源への移行をより強化すれば、そしてAIの効率を向上させ、より少ないエネルギーでより多くのことをこなせるようにすれば、AIが私たちの生活において影響範囲を広げ続けても、送電網をゆっくりと浄化し続けることができる。

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本誌のヘイッキラ記者が昨年12月に公開した、AIのカーボン・フットプリントに関する記事はこちら


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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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