KADOKAWA Technology Review
×
脊髄性筋萎縮症のゼロ歳児が
RNA治療薬で
「奇跡」級の復活
PHOTOGRAPH BY LEIGH WEBBER
カバーストーリー 無料会員限定
How a Boy’s Lazarus-like Revival Points to a New Generation of Drugs

脊髄性筋萎縮症のゼロ歳児が
RNA治療薬で
「奇跡」級の復活

異常がある本人の遺伝子では作られないタンパク質を作れるようにするRNA医薬品で、脊髄性筋萎縮症の子どもが順調に成長している。ただし、一生薬の投与を受け続ける必要があり、注射代は年間75万ドルだ。 by Karen Weintraub2017.03.21

キャメロン・ハーディングくんが1カ月検診を受けてすぐのころ、母親のアリソンさんは息子が固まってしまったような異変に気付いた。産着を脱がせると、両腕は片方に固まったままの状態だった。足も首も動かなかった。

診断結果は「脊髄性筋萎縮症」。遺伝性の病気で、体の動きを制御する運動ニューロンが破壊され、罹患(りかん)した子どもは一般的に2歳になる前に亡くなる。キャメロンくんの症状は重く、1年生きられる見込みすらないと思われた。

しかし生後7週間後、両親は実験的薬剤の臨床試験志願者にキャメロンくんを登録した。2カ月後に撮影された映像でキャメロンくんは、首を動かしたりおもちゃに手を伸ばしたりしている。脊髄性筋萎縮症の同様の症状の子どもで、ここまで回復したことはなかった。

キャメロンくんに投与された薬「スピンラザ」(クリスマスの直前に米国で認可された、新種の医薬品)は、RNA治療薬(成分である遺伝子メッセンジャー分子にちなむ)で、初の大当たりになるかもしれない。

RNAで作られた医薬品の開発には20年の歴史がある。しかしキャメロンくんが奇跡的に回復したことで、すでに使われている医薬品用化学物質やバイオテクノロジー・タンパク質医薬品の一種として、次世代の優れた医薬品になる可能性がある、と推進派はいう。

カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のスティーブン・ダウディ教授は「現段階で、RNA治療薬こそが医学の未来です」という。ダウディ教授はRNA薬の推進派(教授の実験室ではRNAを研究中)だが、化学分野の進歩のおかげで、ようやくこの種の薬が提供できるようになったという。「まだ克服しなければならない課題はたくさんありますが、ものすごいことになりそうです」

同じ思いを抱く投資家もいる。非上場企業のモデルナ・セラピューティクスは、19億ドルの資金を調達し、RNAを利用し、体内で自ら薬を作り出す「プラットフォーム」を開発した。現在、RNAを利用した臨床試験は合計150件以上も進行中で、がんや感染症、ホルモン異常、神経疾患(ハンチントン病含む)を治療しようとしている。

人間の細胞内では、DNAのコードにある遺伝子がRNAのコピーに転写される。その後、コピーが細胞体の中に入り込み、タンパク質を作り出すひな形になる。市販薬のほとんどはタンパク質に直接作用し、通常は抑制する働きがある。一方で、遺伝子療法 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中!年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. Why handing over total control to AI agents would be a huge mistake 「AIがやりました」 便利すぎるエージェント丸投げが危うい理由
  2. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
  3. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る