「クリエイター搾取しない」 業界の異端児、アドビの生成AI戦略
生成AIモデルを訓練するためにWeb上のコンテンツをスクレイピングすることにクリエイターが反発している。アドビの異なるアプローチは、クリエイターの権利を守ると同時に、誤情報の生成を防ぐものだ。 by Melissa Heikkilä2024.03.28
生成AI(ジェネレーティブAI)ブームが始まって以来、大規模な人工知能(AI)モデルの訓練方法をめぐって争いが起こっている。一方の陣営には、著作権で保護されたインターネット上のデータを収集することなくAIを訓練することは「不可能」だと主張するオープンAI(OpenAI)のようなテック企業がいる。そしてもう一方の陣営が、AI企業が同意も補償もなしに自分たちの知的財産を奪っていると主張するアーティストたちだ。
アドビは後者のグループに味方するという点で、めずらしい存在だ。 同社は、インターネット上から著作権で保護されたデータをスクレイピングすることなく生成AI製品を構築する方法の例として、際立ったアプローチを取っている。 1年前、アドビは自社の画像生成モデル「ファイアフライ(Firefly)」を発表した。ファイアフライは人気の写真編集ツール「フォトショップ(Photoshop)」にも組み込まれている。
MITテクノロジーレビューのインタビューで、アドビのAIリーダーたちは、これが前に進むための唯一の道だと断言している。危機に瀕しているのはクリエイターの生活だけでなく、私たちの情報エコシステム全体であるという。彼らは、責任ある技術を構築することが、ビジネスをする上で犠牲にならなくてもよい、ということを学んだのだ。
「私たちは、この業界、特にシリコンバレー企業が、立ち止まって『どうやって』あるいは『なぜ』を問おうとしないことを懸念しています。何かを作れるからといって、自分たちが生み出す影響を考慮せずに作っていいわけではありません」。アドビのデジタルメディア事業担当上級副社長であるデイビッド・ワドワーニは話す。
こうした問いが、ファイアフライが作られる際の指針となった。2022年に生成画像ブームが始まったとき、クリエイティブ・コミュニティからAIに対する大きな反発があった。多くの人が他のアーティストのスタイルで画像を作るための派生コンテンツ製造マシンとして生成AIモデルを使用し、著作権とフェアユースをめぐる法的闘争を巻き起こした。最新の生成AIテクノロジーでは、ディープフェイクや偽情報の作成も格段に容易になっている。
アドビは、クリエイターの功績を適切に認め、企業に法的な確実性を提供するためには、Webのデータをスクレイピングしてモデルを構築することはできないとすぐに分かった、とワドワーニ副社長は言う。
同社は生成AIのメリットを享受したいと考える一方で、「これらの技術は人間の労働の上に成り立っていることを認識しています。現在、そして将来にわたって、その労働に対して公正に補償する方法を考えなければなりません」(デジタルメディア担当最高技術責任者=CTOのイーライ・グリーンフィールド)との立場を取る。
スクレイピングすべきか否か
AIでは当たり前のオンライン・データのスクレイピングが、最近大きな議論を呼んでいる。オープンAI、スタビリティAI(Stability.AI)、メタ、グーグルなどのAI企業は、訓練用データをめぐる多くの訴訟に直面している。テック企業の主張は、一般に入手可能なデータは使用して問題ないというものだ。作家やアーティストは意見を異にしている。彼 …
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