電動自転車、街なかで電池交換 ニューヨークの新しい日常になるか
ニューヨーク市は、フードデリバリーなどの配達員を対象に、電動自転車の充電ソリューションを提供する取り組みを進めている。バッテリー交換ステーションの設置もその1つだ。 by Casey Crownhart2024.04.08
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
十分な時間を都市で過ごせば、その街特有の音風景を知ることになる。ニューヨーク市では、反響するカーステレオの音や、ゴミ収集車の深くうなるようなエンジン音が特徴的だ。そして最近増えているのが、電動自転車の甲高い運転音である。
電動自転車やスクーターは、ニューヨーク市の全区で必需品になりつつある。特に電動自転車は、街中を疾走する何万人もの配達員の間で人気がある。
曇り空のある日の午後、私は数十人の配達員たちと共に、マンハッタンで開かれたニューヨーク市の新たなプログラムへの登録イベントに参加した。このプログラムは、配達員たちと、新たな充電技術を結びつけることを目的とするものだ。この試験的なプログラムに登録すると、今後6カ月間にわたり、急速充電器またはバッテリー交換ステーションを利用できる。
この取り組みは、バッテリー火災のリスク低減を目指すニューヨーク市の取り組みの一環である。消防によると、バッテリー火災の一部は、集合住宅の建物内で充電していた電動自転車のバッテリーが発生原因になっているという。このプログラムと、それが火災対策にどのように役立つ可能性があるのかについては、こちらの記事をチェックしてほしい。一方この記事では、今回のキックオフイベントで配達員やスタートアップ企業から聞いたことを紹介しよう。
2月下旬の風が強い日、マンハッタンのクーパー・スクエアで開かれたイベントには大勢の配達員たちが集まって列を作っていた。私はその列を縫うようにして進んだ。自転車にまたがったまま一列に並んでいる人たちもいれば、自転車を支えながら固まっている人たちもいた。それらの自転車の荷台からは、さまざまな宅配サービスのロゴが入った色とりどりのバッグが顔をのぞかせていた。
テントの下のテーブルでは市の職員たちが配達員たちに対応し、この新しいプログラムで市と提携しているスタートアップ企業3社のうちの1社に割り当てていた。うち1社であるスウィフトマイル(Swiftmile)は、配達員用の急速充電ラックを構築中だ。ポップホイールズ(Popwheels)とスウォビー(Swobbee)の2社は、市内でバッテリー交換サービスを展開することを目指している。
バッテリー交換は、世界の一部地域では普及しつつある技術だが、米国では一般的ではない。そのため、バッテリー交換キャビネットの設置を進めてきた2社に対し、特に興味をそそられた。
スウォビーは、本拠地のドイツを含む世界中で、交換ステーションの小規模なネットワークを運営している。同社は自転車に改造を加え、自社のバッテリーを搭載できるようにしている。このバッテリーは、自転車の後部に取り付けられる。ポップホイールズは少し異なるアプローチをとっており、配達員たちが現在使用している大半の電動自転車と互換性のあるバッテリーを提供しており、大掛かりな改造は不要だ。
ポップホイールズのスタッフが新しく登録した数人の配達員に対し、同社のバッテリー交換ステーションを実現する様子を見守った。キャビネットは書棚のような大きさと形をしたもので、前面には番号が振られた16個の金属製扉がある。スマートフォンを数回タップすると、扉が開いた。中には、使用済みのバッテリーを差し込むスペースと、バッテリーに差し込むコードがあった。バッテリーをキャビネットに入れて扉を閉めると、別の扉が開き、満充電状態の電動自転車用バッテリーが現れた。配達員はそのバッテリーのコードを外し、外に取り出すことができた。あっという間だ。
すべてのプロセスにかかった時間は、わずか1~2分だった。バッテリーが充電されるのを待つよりずっと早い。マンションにある自動ロッカーから荷物を受け取るような感覚だ。
このイベントで私が過ごした2時間の間に、参加者は増え続けているようだった。列は歩道の端の方まで伸びていた。ポップホイールズのCEOで共同創業者のバルーク・ヘルツフェルドに、この人出について感想を述べた。「これくらい、どうということはありません」と、ヘルツフェルドは言った。「明日にはニューヨークで10万個のバッテリー需要が生まれていますよ」
実際、ニューヨーク市には約6万人の配達員がおり、その多くが電動自転車を使って動き回っている。また、通勤者や観光客も小型の電動化された乗り物に興味を持つかもしれない。そのような需要に対応するためには、もっとはるかに多くのキャビネットが必要になる。ポップホイールズの試算によると、1台のキャビネットで対応できるのは、最大でわずか50人の利用者にすぎないからだ。
登録を終え、バッテリー交換のデモを見た後、バッテリーを持ち帰る準備ができた配達員たちは、自分の自転車を移動させてポップホイールズの数人のスタッフがいるところまで行った。そしてスタッフの助けを借りて、自転車のシートの下のレールに少し手を加え、同社のバッテリーを滑り込ませた。一部の調整にはちょっとした苦労が必要だったが、見守っていた1人の配達員は、充電したばかりの新しいバッテリーを所定の位置に滑り込ませることができた。彼は自転車に飛び乗ると、自転車専用レーンに飛び出し、クルマの流れの中に飲み込まれていった。
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バッテリー交換に関するニューヨーク市の計画と、それがどのように火災のリスクを低減させるかについて、詳しくはこちらの記事を読んでほしい。
2023年度の「注目すべき気候テック企業15社」に入ったゴゴロ(gogoro)は、主にアジアにおいて電気スクーター向けバッテリー交換ステーションの巨大なネットワークを運営している。
一部の企業はバッテリー交換を、もっと大きな電気自動車でも採用可能な選択肢と考えている。この記事では、モジュール式の交換可能なバッテリーを使ってEVをもっと普及させることを目指す、あるスタートアップ企業の取り組みを紹介している。
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ハーバード大学が太陽地球工学実験を断念
ハーバード大学の研究者たちが、太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)実験の実施を目指す長期にわたる取り組みを断念した。
この手法の背後にあるアイデアは単純なものである。大気圏上層部に粒子をばら撒いて太陽光を散乱させ、地球温暖化を抑制しようというのだ。しかし、関連研究の取り組みが論争を引き起こしている。詳しくは、本誌のジェームス・テンプル編集者の記事で読むことができる。
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→ この記事で洋上風力発電の次の展開を解説している。(MITテクノロジーレビュー) - 英国にはヒートポンプの大規模な計画があるが、新たな報告書によれば、設置は十分と言えるようなペースでは進んでいない。目標のペースに追いつくためには、設置台数を10倍以上に増やす必要がある。(ガーディアン)
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。