KADOKAWA Technology Review
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サッカー戦術にも生成AIアシスタント、グーグル・ディープマインド
Google DeepMind
Google DeepMind’s new AI assistant helps elite soccer coaches get even better

サッカー戦術にも生成AIアシスタント、グーグル・ディープマインド

グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)が開発した新しいAIアシスタントは、サッカーの試合におけるコーナーキックの結果を予測し、現実的で正確な戦術を提案する。 by Rhiannon Williams2024.03.21

サッカーチームは常にライバルに対する優位性を求めている。選手の怪我の傾向や敵チームの戦術の研究など、トップクラブは勝利への可能性を最大限に高めるために大量のデータと向き合っている。

そんな彼らとしては、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)が開発した新たな人工知能(AI)アシスタントを武器に加えたいと思うかもしれない。このAIアシスタントは、プロのサッカーチームのコーチが考案したものよりも優れたセットプレー戦術を提案できる。

「TacticAI(タクティックAI)」と呼ばれるこのシステムは、世界最大級のサッカーチームのひとつであるリバプールFCの選手が実行したコーナーキック7176本のデータセットを分析することで機能する。

コーナーキックは、守備側チームの選手に触れたボールがゴールラインを割った際に攻撃側のチームに与えられる。サッカーのように流動性が高く予測がつかないスポーツにおいて、コーナーキックはフリーキックやPKと並んで、チームがあらかじめ計画したプレーを実行できる稀な機会だ。

TacticAIは予測モデルおよび生成AI(ジェネレーティブAI)モデルを用いて各コーナーキックのシナリオ、具体的にはレシーバーがゴールを決める、あるいは相手のディフェンダーがボールをカットして自チームにボールを返した、などをグラフに変換し、各選手のデータをグラフ上のノードに変換した後、ノード同士の相互関係をモデリングする。このTacticAIに関する研究は、3月19日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌に掲載された。

同モデルはこのデータを用いて、たとえばコーナーキックの際にゴールの確率を最大限に高めるための選手の配置や、前線に送り込む選手のベストな組み合わせに関する推奨事項を提案する。また、シュートまで繋がるか、最初にボールに触れる可能性が最も高い選手は誰かといった、コーナーキックの結果も予測する。

予測モデルを専門とするスポーツデータ企業エマティック(Ematiq)のアナリスト、オンドジェイ・フバーチェクによると、このAIアシスタント最大の利点は、コーチの仕事量軽減にあるという(フバーチェクはこのプロジェクトには関わっていない)。「AIシステムはデータをすばやく分析し、チームの犯しているエラーを指摘できます。それがAIアシスタントから得られる付加価値だと思います」。

TacticAIの提案を評価するため、グーグル・ディープマインドはリバプールFCで勤務する5人のサッカー専門家(データ科学者3人、映像アナリスト1人、コーチングアシスタント1人)に提案を見てもらった。専門家たちはTacticAIの提案と実際の試合におけるプレーのシナリオを見分けるのに苦労しただけでなく、90%の確率で既存の戦術よりもTacticAIの戦術を好む結果となった。

今回のプロジェクトに関わったグーグル・ディープマインドのペタル・ヴェリチュコビッチ研究科学者によると、この結果はTacticAIの戦術が人間のコーチにとって実際の試合で役立つ可能性があることを示しているという。「トップクラブは常に優位性を求めており、私たちの今回の研究結果は、こういった手法がいずれは現代サッカーの一部になっていく可能性が高いことを示していると思います」。

TacticAIの予測能力はコーナーキックだけに留まらない。同じ手法を他のセットプレーや試合全体を通じたプレー全般、さらにはアメリカンフットボール、ホッケー、バスケットボールなど、他のスポーツにさえ容易に適用できる可能性があるとヴェリチュコビッチ科学者は言う。

「選手同士の関係をモデリングすることが有効だと考えられるチームスポーツで、データソースさえあれば適用可能です」。

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リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。
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