過小評価されるメタン排出、なぜ追跡が難しいのか?
これまでの推定を大きく上回る量のメタンガスが漏出している可能性があることがわかった。メタン排出源を正確に特定することは、地球温暖化への理解を深める上で大きな課題だ。 by Casey Crownhart2024.04.04
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
気候やエネルギーに関する論文を長らく追いかけていると、いくつかのパターンに気づくはずだ。
最新の気候・エネルギー研究に目を通していると、基本的にいつも目にすることがいくつかある。ペロブスカイト型太陽電池の効率がさらに向上しているという研究結果や、気候変動が生態系に奇妙で予想外の形でダメージを与えているという研究結果などだ。そして、私たちがいまだにメタン排出量を過小評価していることを示す新しい論文も常に見かける。
メタン排出量について、このところ私はずっと考えてきた。というのも最近、米国の石油・ガス事業からのメタン漏出に関する新しい調査について記事を書いたからだ(そう、メタンガスは想像以上に排出されている。詳細はこちらの記事をお読みいただきたい)。 しかし、メタンガスが一貫して過小評価されていること以上に興味深いと思ったのは、このガスがなぜこれほどまでに追跡が困難なのかということだ。
メタンは大気中で2番目に多い温室効果ガスであり、これまでのところ地球温暖化のおよそ30%を引き起こしている。良いニュースは、メタンが大気中ですぐに分解されるということだ。悪いニュースは、メタンが大気中に浮遊している間は、二酸化炭素よりもはるかに強力な温室効果ガスであるということだ(どの程度強力なのかは、どの程度の時間スケールで語るのかによって異なる複雑な問題だ。詳細はこちらのQ&Aをお読みいただきたい)。
問題は、これらのメタンがどこから来ているのかをすべて解明するのが難しいことだ。大気中の総濃度を測定することは可能だが、人間活動によるメタンの排出があり、自然のメタン発生源があり、これらの排出の一部を吸収する生態系がある(これらはメタンの消滅と呼ばれる)。
具体的な発生源を絞り込むのは困難で、多くのメタン漏れが発生している石油・ガス産業では特にそうだ。あるものは小規模で、遠隔地にある古い設備から発生している。他の発生源はもっと大きく、大気中に大量の温室効果ガスを吐き出しているが、それはごく短時間である。
最近、メタンガスの追跡に関する多くのニュースが報じられているが、その主な理由としてメタン検出衛星「メタンSAT(MethaneSAT)」が3月に打ち上げられたことがある。この衛星は、光の反射や吸収を測定する分光計と呼ばれるツールを使ってメタンを追跡するように設計されている。
地球のメタン排出を監視している人工衛星はますます増えつつあり、メタンSATはそのうちの1つに過ぎない。ある衛星は幅広く監視し、どの地域からメタンが多く放出されているかを特定する。他の衛星は特定の発生源を探しており、数十メートル以内でどこからメタンが漏れているかを確認できる(なぜこれほど多くのメタン衛星があるのか、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事をおすすめする)。
しかし、メタンの追跡は単なる宇宙ゲームではない。ネイチャー(Nature)誌に掲載された新しい研究では、研究チームは石油・ガス産出地域の上空を飛行する飛行機から測定した100万件近くのデータを用いて、総排出量を推定した。
結果はかなり驚きだった。研究チームが調査した場所では、平均して石油・ガス生産量のおよそ3%がメタンガスとして排出されていることが判明した。これは、米環境保護庁が使用している政府の公式推計値の約3倍である。
私はこの研究の著者の1人で、スタンフォード大学で博士研究員として研究を完成させたエヴァン・シャーウィンに取材した。シャーウィン博士は、メタン漏れを理解することの難しさを、たとえ話「群盲象を評す」になぞらえた。パズルのピース(人工衛星、飛行機、地上からの検知)がたくさんあり、全体像を把握するには、それらをすべて組み合わせる必要がある。
「私たちは本当に象を見始めていると思います」とシャーウィン博士は語った。
メタンSATやその他の監視衛星がオンライン化され、研究者たちがデータを精査するようになれば、その姿はより鮮明になっていくだろう。そしてその理解は、世界中の政府がメタン排出削減の公約を守ろうと競い合う中で極めて重要になるだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
研究者らがどのようにメタン排出量の理解に取り組んでいるかについては、最新の記事をお読みいただきたい。
メタン検出衛星に関するニュースを見逃した方は、メタンSATに関する記事をご確認いただきたい。
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- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。