メタン漏出、予想以上に深刻=新研究で明らかに
航空機を使った新たな研究により、石油・ガス事業から漏出しているメタンの量は、これまでの推定値よりも大きいことが明らかになった。今後、人工衛星による調査や地上調査などと組み合わせて、様々なメタン排出源を見つけていく必要がある。 by Casey Crownhart2024.03.29
米国におけるメタン排出は、科学者たちのこれまでの推定より深刻であることが、新たな研究で明らかになった。
ネイチャー(Nature)誌に3月13日に掲載されたこの研究は、米国の石油・ガス産出地域からのメタン排出量に関する、これまでで最も包括的な調査の1つである。研究チームは航空機から測定したデータを用いて、調査対象地域の多くで、排出量が政府のこれまでの推定値よりもかなり多いことを発見した。過少な見積もりが明らかになったことで、強力な温室効果ガスであるメタンを追跡するためのより優れた新しい方法が、緊急に必要なことが浮き彫りになった。
メタンの排出は、地球温暖化全体の原因の3分の1近くを占める。メタンは湿地帯などの自然界に存在するが、加えて農業や化石燃料生産などの人間活動によって何百万トンものメタンが大気中に放出されてきた。メタンの濃度は、過去200年間で2倍以上に高まっている。しかし、メタンが正確にどこから排出されているのかについては、まだ不明確な部分が大きい。
これらの疑問に答えることは難しい課題だが、排出量を削減して気候変動に対処するためには、極めて重要な第一歩となる。そのため研究者らは、最近打ち上げられた「メタンSAT(Methane SAT)」のような人工衛星から、地上調査や航空調査まで、さまざまな手段を用いている。
米環境保護庁(EPA)は、生産された石油とガスのおよそ1%の量が、メタン汚染として大気中に漏れ出すことになると推定している。しかし、相次いで発表された調査(この調査やこの調査)は、公式発表されている数字がメタン問題の本当の大きさを低く見積もっている可能性を示している。
今回の新たな研究で調査が実施された場所については、「メタンの排出量が平均して政府の推定値よりも多いようです」と、スタンフォード大学の博士研究員で、分析を担当したローレンス・バークレー国立研究所の研究員、エヴァン・シャーウィン博士は言う。
シャーウィン博士が使用したデータは、米国の化石燃料生産地に関するこれまでで最大規模の調査で得られたものだ。2018年に始まったこの調査で、カイロス・エアロスペース(Kairos Aerospace)とカーボン・マッパー・プロジェクト(Carbon Mapper Project)は、6つの主要な石油・ガス生産地域のマッピングを実施した。対象となった地域全体で、陸上での石油生産の約50%、ガス生産の30%を占めている。調査では、特定の波長の光を利用してメタンを検出できる分光計を用いて、上空を飛行する航空機から坑井サイトを測定し、約100万件のデータを収集した。
ここからが面倒になる。石油・ガス生産におけるメタンの発生源は、形状や規模がさまざまだ。小規模な坑井の中には、1時間におよそ1キログラムの割合でゆっくりとガスが漏れるものもある。もっとはるかに大規模な発生源は、1時間に数百から数千キログラムの量を排出するが、そのような漏出は短期間しか続かない可能性がある。
これらの調査で使用された航空機では、主に、1時間あたりおよそ100キログラムを超えるような大規模な漏れを検知する(ただし、シャーウィン博士によれば、その10分の1程度の小規模な漏れを検知することもあるという)。それらの大規模な漏出場所の測定と、より小規模な発生源の漏出量の推定モデルを組み合わせることで、研究チームは排出量全体において、大規模な漏出が占める割合が非常に大きいと推定した。多くの場合、坑井サイト全体の1%程度で、メタン排出量全体の半分以上を占めている可能性があるとシャーウィン博士は述べている。
しかし、一部の科学者によれば、これらの研究には、まだ利用可能な測定ツールによる制限があるという。「現在の技術の限界を示しています」と、環境防衛基金(Environmental Defense Fund)の主任上級科学者、リテッシュ・ゴータム博士は話す。
この研究で研究チームは、航空測定を用いて大規模なメタン漏出を検出し、より小規模な発生源はモデル化に頼ったため、大規模な漏出の重要度を過大評価している可能性があるとゴータム博士は言う。同博士は、メタン排出量に対する小さな坑井の寄与がもっと大きいことを明らかにした最新の研究が、ほかにもいくつかあることを指摘した。
問題は、1つだけの測定装置を用いてそれらの異なるメタン発生源すべてを測定することは、基本的に不可能であるということだ。より明確な全体像を把握するためには、利用可能なすべての測定テクノロジーが必要になると、ゴータム博士は説明する。
タワーに取り付けられる地上ベースのツールは、1つの地域全体を常時監視し、小規模な排出源も検出できるが、一般的に広い地域を調査することができない。航空機を使った調査は、より広い範囲をカバーできるが、大規模な漏出のみを検出する傾向がある。また、航空調査はスナップショットであるため、一定期間のみメタンが漏れ出している発生源を見逃す可能性がある。
人工衛星というツールもある。3月には、グーグルとフランス電力(EDF)が打ち上げた人工衛星メタンSATが、地球を周回するメタン検出人工衛星群に加わった。既存の人工衛星の一部は広大な地域をマッピングするが、詳細な情報はキロメートル単位でしか得られない。もっとはるかに高解像度の人工衛星もあり、それらは数十メートル以内の詳細なメタン排出検出能力を持つ。
人工衛星は特に、米国ほど綿密な測定やマッピングが実施されていない世界中の多くの国々の状況をより詳しく知る上で役に立つだろうとゴータム博士は話す。
メタンの排出状況を理解することと、実際にそれに対処することは、別の問題である。漏出を確認した後、企業は欠陥のあるパイプラインやその他の設備を補修したり、日常的にメタンを大気中へ放出している排気口やフレアを閉鎖したりするなど、措置を講じる必要がある。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、石油・ガス生産から排出されるメタンのおよそ40%は、実質的にコストをかけずに削減できる。メタンの損失を防ぐことで節約できる金額が、排出削減のためのコストを十分に上回るためである。
2021年に100カ国以上がグローバル・メタン・プレッジ(Global Methane Pledge)に参加し、今後10年間でメタン排出量の2020年比30%減を達成するという目標を掲げている。バイデン政権が発表した石油・ガス生産者に対する新たなルールは、米国がこの目標を達成するのに役立つ可能性がある。2024年に入って米環境保護庁が、化石燃料企業に対するメタン料金案の詳細を発表した。その金額は、大気中に過剰に放出されるメタンの量を基に計算されることになる。
研究者たちは徐々に、メタン排出の実態をより良く把握しつつあるが、それに対処するのは容易なことではないだろう。シャーウィン博士が指摘するように、「道のりは長い」と言える。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。