グーグル、AI搭載の新衛星でメタン漏洩地図を作成へ
グーグルと非営利団体の共同プロジェクトが打ち上げる人工衛星「メタンSAT」は、世界中のメタン漏洩場所を特定する包括的な地図を作成するという。 by James O'Donnell2024.02.21
3月に打ち上げ予定のメタン測定衛星は、グーグルの人工知能(AI)を使ってメタンの漏洩を定量化し、地図を作成することで、排出量を削減することを目的としている。非営利団体「環境防衛基金(EDF)」とグーグルの共同プロジェクトの一環であるこの取り組みによって、これまでで最も詳細なメタン排出量の実態を把握できるという。その結果は、メタン漏洩に関する最悪の場所を特定し、誰がその責任を追うべきか明らかにするのに役立つはずだ。
温室効果ガスによる温暖化の約3分の1はメタンが原因となっており、米国などの規制当局は、石油・ガス工場からの漏洩を抑制するための規制強化を推進している。
この衛星「メタンSAT(MethaneSAT)」は、世界中の石油・ガス事業から目に見えない形で噴出している「メタン・プルーム」を測定する。そして、グーグルとEDFは研究者、規制当局、一般の人々が使用できるようにメタンの漏洩をマッピングする。
「私たちは実質的に非常に高性能の眼鏡をかけているようなもので、これまでに見たことのない鮮明さで、地球とメタンの放出が見られるようになるのです」。EDFの首席科学者兼メタンSATプロジェクト・リーダーのスティーブ・ハンバーグは話す。
しかし、メタンの専門家らは漏洩を発見して企業に栓をしてもらうまでの道のりは困難であり、このプロジェクトだけでは解決できないだろうと述べている。
メタンSATが軌道上に到達すると、メタンを検出するためにさまざまな波長の光を測定するソフトウェアと分光計が、メタン・プルームの集中している場所と、ガスが拡散しているより広範な領域の両方を正確に特定する。またメタンSATは、グーグルの画像検出アルゴリズムを使用して、ポンプ・ジャッキや貯蔵タンクなど、最も漏洩が発生しやすい石油・ガス業界のインフラに関する初の包括的な世界地図を作成する。
グーグルで地理的持続可能性の取り組みを指揮しているヤエル・マグワイアは、「地図の準備ができたら、人々はメタン漏洩を最も促進している機械の種類を、よりよく理解できるようになるでしょう」と話す。
スタンフォード大学のロブ・ジャクソン教授(地球システム科学)によると、このツールはメタン研究者にとって大きな障害を解決できる可能性があるという。世界中には何百万もの石油・ガス事業あるが、その施設の多くがどこにあるかに関する情報は厳重に保護されており、入手できたとしてもアクセスするのには費用がかかる。一部の国では、研究者が自国のインフラを調査したり、排出量測定のために飛行機を低空飛行させたりすることを禁止している。しかし衛星によって、状況が変わる可能性がある。
宇宙からメタン・プルームを測定することで、地球上の石油・ガス産業の不透明性の多くを回避できるとして、ジャクソン教授は「AIはこの分野の未来だと思います。この分野では、あらゆる種類のインフラのデータベースを作成する必要があります」と述べている。「衛星が開くドアの1つは、あらゆる場所を監視できることです。いずれ、隠れる場所はどこにもなくなるでしょう」 。
メタンSATの共同プロジェクトは、世界各国の政府がメタン漏洩の削減により強い姿勢を示したタイミングで立ち上がった。2023年12月のCOP28の勢いに後押しされ、バイデン政権は12月にメタン漏洩の監視と修復の強化を義務付ける、新たな一連の規則を発表した。また米国政府は2024年1月に、過剰なメタンの排出に対して企業への罰金も提案したが、この規則はまだ最終決定されておらず、産業界が争っている。そして欧州連合(EU)も11月に、基準をより厳格にすることに合意している。
メタンSATの共同プロジェクトによりメタンの漏洩元が特定されると、EDFは国連の世界規模のメタン警報・対応システムを利用し、メタン漏洩に関するデータを政府や政策立案者に送信して対応を促すことになる。プロジェクトのリーダーでもあるEDFのハンバーグ首席科学者は、衛星からの最初のデータと画像が届くのは初夏頃になると話している。
ジャクソン教授は、グーグルとEDFからのより正確なデータが企業に圧力をかけるだろうと楽観視しているが、(メタン漏洩を)認識してから(それに栓をするという)行動に移すのは簡単ではないと警告している。まず、特定の石油・ガス事業が悪者として特定されたとしても、そのインフラを誰が所有しているのか、そして彼らに行動を起こさせるためにどのようなツールが利用可能なのかを解明するのは、簡単な作業ではないからだ。さらに、一部の地域や政府は他の地域に比べ、データへの反応が鈍くなる可能性がある。
「この情報を入手しただけで、企業や国が電気のスイッチのように、メタン漏洩を止めることができるかどうかは自信がありません」(ジャクソン教授)。
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- ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。