ペロブスカイト太陽電池の商業化競争、鍵はシリコンとのタンデム
次世代太陽電池の材料として研究されてきたペロブスカイトは、扱いにくさがネックとなっていた。だが、シリコンと組み合わせて発電効率をより高めたタンデム型太陽電池として、年内にも商業化される見込みが出てきた。 by Emma Foehringer Merchant2024.01.18
太陽光発電のスタートアップ企業であるスイフト・ソーラー(Swift Solar)の研究室では、肘まである十数組以上のゴム手袋が、腕のように膨らんで水平に宙を舞っている。窒素ガスによって動くこれら手袋は、内部の繊細な太陽光材料を保護するために作業スペースの乾燥状態と気密性を保てるように設計された、腰の高さまであるガラス張りの囲いから突き出ている。
隅では、同社の技術者であるロジャー・トンプソンが一組に両手を滑りこませ、小さなスライドガラスを金属板にはめ込んでいる。はめ込みが終わった金属板はすぐに、ベルトコンベアーによって金属製のドアの向こうに運ばれ、ジョエル・ジーンCEO(最高経営責任者)が言うところの「ブラックボックス・マジック」によって、電流が流れるように設計された化学コーティングが施される。
シリコンバレーの閑静な工業地帯でこの施設を運営するスイフトは、次世代型ソーラー技術を実験する成長企業グループのひとつだ。同社は、従来のシリコンにペロブスカイトと呼ばれる材料を重ねた次世代太陽電池の製造・商品化を競っている企業の1社だ。
異なる波長域の太陽光を吸収するこれら2つの材料を重ねることで、太陽光パネルはより高い効率を達成し、パネル1枚あたりの発電量を増やすことができる。つまり、ペロブスカイト・タンデム太陽電池により、太陽光発電のコストを削減し、送電網における再生可能電力の量を増やせる可能性があるのだ。
その期待は大きい。ただ、企業や科学者たちは10年以上もこの技術の応用研究に取り組んできたが、商業的な展開には至っていない。太陽電池材料としてのペロブスカイトは扱いが難しく、水、熱、光の影響を受けやすい。研究者の中には、もう時間がないと警告する者もいる。
「今後2~3年の間にペロブスカイト製品が出なければ、このテクノロジーに対する市場の信頼は失墜するような気がします」。ノースウェスタン大学でペロブスカイト技術を研究しているビン・チェン助教授は言う。
スイフトをはじめとする新興企業や研究者は、ペロブスカイトの耐久性向上に関する最近の進展の後押しを受けて、こうした製品の開発に熱心に取り組んでいる。ここ数カ月の間に、世界最大手の太陽光企業も、試験的な製造ラインに投資したり、ペロブスカイトのスタートアップ企業を買収したりすることで、このテクノロジーにゴーサインを出している。
これらの企業は今、ペロブスカイトに長年付きまとっていた難しい課題を克服し、その一方で記録的な効率を発揮するパネルを何百万枚も生産できることを証明しなければならない。
シリコンの「裏側」
ペロブスカイトの成功の鍵は、実績のあるシリコン太陽電池技術とペロブスカイトを統合することにあると、これらの企業の多くは考えている。シリコン太陽電池と統合することで、同電池の安定性と、同電池が苦労して得た市場からの信頼を手に入れられる可能性がある。
「ペロブスカイトが市場に参入する主なポイントは、文字通りシリコンの裏側にあります」とプリンストン大学の電気・コンピューター工学教授であるバリー・ランドは言う。
現在、世界中で販売されてい …
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