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Climate Change Is Challenging the Time-Tested Assumptions Behind Insurance

気候変動のリスクに
保険業界が動き始めた

気候変動のリスクとコストに最初に気付いたのは保険業界だ。 by Nanette Byrnes2016.05.23

クリスマス直前の2013年、イングランの南部一帯に降り始めた雨は2014年1月末まで降り続き、この地域では100年間で最も雨の多い冬になった。数万人が停電に見舞われ、数百世帯が洪水で浸水した。

アヴィヴァ保険(本社ロンドン)の加入者は警告を受けていた。アヴィヴァは天気予報と不動産物件ごとに洪水リスクを見極めるデジタル地図ツールに基づき、テムズ川流域の2万人の顧客にメールを送り、洪水の危険に備えるよう通知し、同社の損害査定人は一部の家を直接訪問し、高価な物を持ち出しておくように警告した。

気象パターンの背後にある要因は複雑だが、2013〜14年冬の風雨に関するオックスフォード大学の研究者による最近の研究では、記録破りの降雨と気候変動には因果関係がある。アヴィヴァにとっては、投資先の判断材料に気候変動を注目してきたことが証明された格好だ。

保険業界のビジネスモデルは、リスクと対策コストを分析する能力にかかっている。だが、気候変動は従来よりもずっと重要な要因になっている。

世の中には起こりそうもないことを心配する人がいるものだ。保険会社も、気候変動を何十年も研究してきた。再保険(他の保険会社への保険を販売する会社)大手のミュンヘン再保険は、洪水に関する小冊子を1973年に発行し、地球温暖化のリスクを強調していた。

だが、保険業界の専門家は、どんな保険契約でも気候変動を単独の要因として分離できない、という。

気候変動を保険の適用除外にできない代わりに、保険会社は元からある基本ルールを利用している。明らかに問題がありそうな地域を指定し、保証対象外にするのだ。現在、太平洋諸島やカリブ海諸国など、海抜の低い島嶼地域やアフリカ諸国は、政府が保険プールを設立(再保険会社が出資する場合もある)し、異常気象の復興コストの一部を補償できるようにしたのだ。

リスクは頻繁に再評価され、保険契約は通常、毎年価格が見直され、変化しやすい気象などに対応している。ミュンヘン再保険で気候変動の研究チームを率いるピーター・ホップは、自然災害による自社の損失を分析した新しいデータや、異常気象のデータが、常にリスクモデルに算入しており、長期的トレンドから一度限りの現象を分離できる、としている。また、いくつかの予測モデルは長期的な気候トレンドに基づいて修正に着手しており、たとえばアメリカで発生した暴風雨による損失は、過去35年間で、不動産価格の上昇を考慮しても、明らかに増えているという。

近年では、保険会社はより的確にリスクを分散できるようになった。1992年にフロリダ州とルイジアナ州で265億ドルの被害を出したハリケーン・アンドリューの直後、保険会社はリスクの多様化にますます注目し、たとえば特定の街区の住宅を個別保証しなくなった。保険情報研究所のロバート・P・ハートウィグ代表によれば、ハリケーン・アンドリューの補償請求で、いくつかの保険会社がお手上げ状態になったのが原因だという。

そこで保険業界は災害のモデル化手法を改良し、大型暴風雨の確率とコストを理解しようとした。データ保存装置と計算コストは1990年代からの数十年で安くなり、保険会社が構築するモデルはかなり正確になった。2004年と2005年にはカトリーナなど、記録的なハリケーンが到来し、ニューオーリンズに上陸して大災害をもたらし、膨大な保険料支払いが発生したものの、保険各社はどこも大損失とはならなかった。

ヨーロッパの保険会社は現在、年平均損失、発生確率が20年に1度の損失、発生確率が200年に1度の、3つのタイプのリスクを評価・管理している。企業がさらされる気候リスクの評価に広く使えると、世界中の学界や政府指導者たちが提言したモデルだ。

アヴィヴァの持続可能性グループを率いるゼルダ・ベンサムは、少し前まで、保険会社は保険リスクを郵便番号単位で算出すればよかった、という。だがアヴィヴァはイギリス全土の地形データに基づいたデジタル洪水地図を開発し「同じ郵便番号に2つの不動産がある場合、一方が丘のふもとにあって川に面しており、もう一方が丘の頂上にあることがわかるかもしれません」とベンサムはいう。たびたびの豪雨を目にして、豪雨の後でどこに水が溜まったかを1.5mの精度で地図にする作業も始まった。

保険業界としては高精度な位置情報は、保険契約の料金を決めるとき、アヴィヴァが参照する30の要因の1つになった。イギリスで洪水が起きそうなとき、アヴィヴァが連絡した住宅所有者のリストも、このデータで作成したのだ。

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ナネット バーンズ [Nanette Byrnes]米国版 ビジネス担当上級編集者
ビジネス担当上級編集者として、テクノロジーが産業に与えるインパクトや私たちの働き方に関する記事作りを目指しています。イノベーションがどう育まれ、投資されるか、人々がテクノロジーとどう関わるか、社会的にどんな影響を与えるのか、といった領域にも関心があります。取材と記事の執筆に加えて、有能な部下やフリーライターが書いた記事や、気付きを得られて深く、重要なテーマを扱うデータ重視のコンテンツも編集します。MIT Technology Reviewへの参画し、エマージングテクノロジーの世界に飛び込む以前は、記者編集者としてビジネスウィーク誌やロイター通信、スマートマネーに所属して、役員会議室のもめ事から金融市場の崩壊まで取材していました。よい取材ネタは大歓迎です。nanette.byrnes@technologyreview.comまで知らせてください。
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