KADOKAWA Technology Review
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Former Coal-Company CEO Seeks to Build the Clean-Energy Future

社員の皆さん、たった今、
会社は氷山に衝突しました

電力会社の事業転換中、NRGのデビッド・クレーン元CEOはなぜ株主と役員会の信頼を失い、解任されたのか。 by Richard Martin2016.05.23

NRGエナジーのデイビッド・クレーン元CEOは、12年間同社を経営し、老朽化した数カ所の発電所を所有するだけだった企業を米国最大級の独立系発電事業者に変えた。しかし、1年半に及ぶ株価下落もあってクレーン元CEOの戦略が失墜し、2015年12月に解任された。

NRGエナジーのデイビッド・クレーン元CEO

気候変動への懸念が増大する中、NRGの電力卸と小売事業は、石炭を燃やして大半の電力を供給している。クレーン元CEOは在職中、石炭・天然ガスといった従来型エネルギー企業に多額を投資したが、クリーンエネルギーにも幅広く手掛け、屋上ソーラーパネル敷設業者を買収したり、電気自動車用充電スタンドで米国最大のネットワークを構築したり、世界最大規模の炭素回収プロジェクトにも投資をした。クレーン元CEOは、これこそが企業がとるべき新しいエネルギーの未来への道だと語った。

環境に優しくすれば全てが上手くいくわけではない。たとえば、クレーン元CEOはSTNP(南テキサス原子力計画:NRG、サンアントニオ市、オースチン市による官民共同の発電事業体)の原子力発電所を拡大するために3億ドルを費やしたが、最終的に計画は中止に追い込まれた。さらにNRGは、世界最大の太陽熱発電所アイバンパ太陽光発電施設(カリフォルニア州モハビ砂漠)の主導的出資者にもなった。アイバンパは、地域の鳥類に有害だとして環境保護主義者に反対されているほか、契約電力量を供給できていないという批判もある。

しかし、クレーン元CEOにとっての大問題は、NRGの株価が暴落したことだ。2014年に株価が急落すると、クレーンCEO(当時)は会社組織を再編成し、2015年後半にはNRGのクリーンエネルギー関連設備をGreenCoという別会社に移した。

2015年12月までの19カ月間でNRGの株価は75%も下落し、株主や取締役たちの信頼は失われた。クレーンCEOは解雇されたが、離職時にNRG従業員に宛てた手紙で、再生可能エネルギーについて自身の意見を述べた。

「米国のエネルギー産業は、クリーンエネルギーなしには成長できません。時間はかかりますが、この道を進んでいくしかないのです」

クレーン元CEOは、MIT Technology Reviewのエネルギー担当編集者リチャード・マーティンとのインタビューに応じ、クレーン元CEOが直面した問題、間違い、次にとる行動について次のように語った。

NRGエナジーを12月に退職後、現在はどんな仕事を?

家族を養おうとしています。現在もNRGの競合禁止期間にあります。クリーンエネルギー部門は4月に競合禁止規定の対象でなくなり、従来型エネルギー部門は2017年1月に終了します。少し皮肉な状況です。今後携わるつもりのない分野で、より長い期間私を排除するのです。

太陽光については、そうだな、たとえば風力よりも強気でいけると思っています。ですから、今後重点的に取り組むのは太陽光です。

※4月、 未公開株の投資会社であるペガサス・キャピタル・アドバイザーズは、クレーン氏が上級経営幹部 として入社することを発表した。

取締役会の信用を失ったのはいつごろだと思いますか?

私が解雇されるきっかけは株価の暴落でしょう。ですが、株価が暴落したのは、特に天然ガスなど、一般的なエネルギー価格の下落が原因です。さらに、天然ガスが基準になってエネルギー価格が決まる状況で、石炭火力発電所の将来が暗いのも原因です。

私が解雇されたのは、率直で革新的な環境問題意識の高い人間だからです。それが、人々をいら立たせたのです。あるアナリストは「石炭火力発電に未来がないと考えている人物が石炭火力発電企業を経営すべきでない」といいました。私は、自分の仕事は電力会社の経営でだと思って仕事をしていました。成功を収めるべき分野で成功するべきで、その分野が再生可能エネルギーなのです。

解任される月まで、取締役会は私を支持していました。12月になっても、懐疑的なことを述べる人はいましたが、誰も一貫した代替戦略を提示しませんでした。

過去を振り返り、やり直せるならどうしますか?

明確なのは、私の率直な物言いを和らげることです。公益企業が自社の利益のためにエネルギー政策を歪めてしまう前に、屋上(分散型)太陽光発電が選択肢の1つになる事実に、誰かが光を当てる必要がありました。理由があって率直に発言してきたのです。しかし、石炭火力発電が先細ることは、もう少し抑制すべきでした。

もうひとつは、クリーンエネルギー分野でNRGが成長しているとき、従来型の発電所も多く買収してしまったことです。解任された当時、NRGは米国内で最大か第2位の太陽光発電事業者であり、5番目に大きな再生可能エネルギー供給者でした。しかし、投資家から見れば、従来型発電の4万8000メガワットの発電量と比べると取るに足りない量だったのです。

簡潔にいえば、私の間違いは、再生可能エネルギーに傾いたことではなく、もっと重点的に再生可能エネルギーに取り組まなかったことです。

クリーンエネルギーに未来があり、クリーンエネルギーへの移行を怠る企業は取り残されることを、投資家にどう説明させますか。

そこに問題があります。投資家の観点では、21世紀になって米国内の石炭火力発電所に投資することは、企業の持つ資産とキャッシュフローに投資している(株主になることで既存の資産を間接的に所有し、配当金を得るために)のです。米国内の石炭火力発電所は、初期費用は支払い済みです。一方、太陽光発電では、(太陽光発電施設の建設や屋上ソーラーパネルの設置など)すべての経費は先行投資で賄われており、成長志向の(保有する株価が上昇することで、最終的には売却益を得たい)投資家には望ましい状態です。価値志向型投資家はNRGの主要事業における太陽光発電の成長は価値がなく評価しない一方で、成長志向型投資家とのズレが明らかになり、NRGの株価が急落し、打撃を受けたのです。

石炭火力発電と比べると、ソーラーパネルには道徳的側面があります。NRGは、資源の持続可能性を重視し、道徳的側面を評価する投資家を引き付けられませんでした。

解任される9カ月前、環境問題意識の高い投資家を引き付ける方法を検討するため、IRの専門会社と契約したのです。しかし、結局その会社は任務遂行を諦め「無理です。環境意識の高い投資家が、米国で4番目に環境を汚染する企業に投資するはずがない」といったのです。

考えてみてください。NRGの30倍もの規模がある、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP、エクソンモービルなどの大手石油会社が、保有する石油すべてを燃やすことを世界が許さないと確信し、事業を変更したいと思ったら、どうすればいいのでしょうか。事業を変更できるでしょうか。現在の大手石油会社の規模を維持できるような代替事業を構築する方法なんてあるわけないのです。

1990年代初頭、多くの会社が携帯電話の中継塔を建設し、結局、そうした事業はすべてつまずきました。そこに未公開株の投資会社がいくつか現れ、事態を収拾し、業界を立て直し、元金の40倍の金額を稼ぎました。太陽光発電業界でも同様のことが起こり得ると思います。

自分が率直に意見を述べた別の理由は、社内にいる聴衆(NRGの従業員や取締役)を相手にしていたからです。大企業の事業を変更するときは、未来の悲惨な実態を示す必要があります。「ここは確かにとても居心地のよいキャビンです。しかし、たった今、氷山に衝突しました」と告げなければなりません。

上手くいく戦略があったと思いますか?

2015年9月に、価値志向型投資家と成長志向型投資家の違いに対処するための計画を発表しました。環境に優しい事業を、より環境意識の高い人々の管理下に置きつつ、その事業を依然としてNRGと関連付けることで、企業が利益を得るようにする計画でした。

11月までに、GreenCoを分社化したタイミングが悪かったと気付きました。米国最大の太陽光発電サービス企業のソーラーシティが第3四半期の業績を発表し、株価が暴落したのです。太陽光発電会社への投資家を探すには最悪の時期です。

2015年12月以降株価が急落したサンエジソン社は2016年4月に破産申請しました。太陽光発電事業の基盤は弱いのでしょうか?

太陽光発電は、2つの分野に分けられます。発電所規模の巨大な太陽光と、家庭用の太陽光です。サンエジソンは大規模太陽光分野でNRGの最大のライバル企業でした。私の考えでは、サンエジソンは適切な領域に携わっていましたが、途方もなく積極的に借金を増やし、出費を惜しまずに他社を買収していました。サンエジソンの買収の多くについて確認すると、NRGの見積額の2倍も払っていたのです。それまで、我々はNRGの買収が大々的だと考えていました。サンエジソンの戦略は正しかったものの、買収はあまりにも積極的でした。

NRGでの経験から何を学びましたか?

残念ながら、導き出せる唯一の結論は、内部からの変革は非常に困難なことです。従来どおりの電力会社の経営者のほとんどは、NRGを見てこう思うでしょう。「編み物でもしながら、すぐにお迎えが来ないように祈りましょう」

グーグルのエリック・シュミット会長は、テクノロジーが変化するペースを考えると、あらゆる業界のあらゆる企業は、今後5〜10年の間に、企業存続に関わる何らかの脅威に直面するだろうと発言しました。株式市場のせいで大多数のCEOがその脅威を無視するだけでなく、脅威を無視することに対し、株式市場が報酬を与える様な状況に、私はあきれ返っています。

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