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中国テック事情:地図まで「スーパー」化する中国のアプリ市場
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
This Chinese map app wants to be a super app for everything outdoors

中国テック事情:地図まで「スーパー」化する中国のアプリ市場

中国では1つのスマホアプリにあらゆる機能を盛り込んだ「スーパーアプリ」を目指す動きがますます活発だ。最近では地図アプリまでスーパーアプリを目指すようになった。ユーザーの望みに応えることができるのだろうか? by Zeyi Yang2023.12.14

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

家族が集まるときに楽しめるちょっとした面白いゲームを提案したい。デジタル時代ならではのかくれんぼだ。

数週間前、香港で、知らない人たち数十人と公園に行き、昔ながらのかくれんぼと現代のテクノロジーを組み合わせた「猫とネズミゲーム」をした。それぞれの隠れ場所を探す代わりに、グループで位置情報をリアルタイムで共有し、進路を監視し合いながら、「猫」と「ネズミ」が互いを捕まえたり逃げたりするゲームである。中国のインターネットで草の根から発明されたこのゲームは、今年の初めに一気に広まり、今では毎週数千人が集まるようになっている。

先日掲載した記事で、このゲームの仕組みと中国アリババのマップアプリ「エーマップ(Amap)」の使い方について書いた。その詳細(と私の勝敗)については、こちらの記事を読んでほしい。

私は運動は得意ではないが、参加した2度のかくれんぼは実に楽しかった。そのデジタル体験と現実の融合は自然で目新しく感じた。

ゲームをきっかけにマップ・アプリへの見方も変わった。私のスマホにはずっとグーグル・マップとアップル・マップが入っていたが、目的地への経路を示してくれるツールにすぎないと思っていた。ゲームはもちろん、現実世界で人と人をつなぐ手段だと考えたことはもちろんなかったわけだ。

それは、私だけではない。ゲームを始める前に、主催者からルールと技術的な設定について説明を受け、参加者は位置情報を共有するためにエーマップ上のグループに入るように言われる。

参加者のひとりが、「エーマップにグループ機能ができたんですか」と尋ねた。

「今どき、どんなアプリにもグループ機能はありますよ」と別の人が答えた。

それは単なる口癖のようなものだったが、中国のアプリのエコシステムの奇妙な特徴、そしておそらくは問題点をも完璧に捉えていた。中国では、どのアプリも今ある形とは別のものになろうとするのだ。

たとえばエーマップは、現在中国で広く使用されているマップ・ナビゲーション・アプリのひとつだ。だが、スマホでエーマップを開くと、欧米のマップ・アプリにはない機能が30種類以上も表示される。

その中には、直近で車にガソリンを入れたときの記録、ロードサービスの要請、配車サービスの料金比較など、マップアプリの使用時には欠かせないと感じるものもある。だが、マップとはかけ離れた機能も並ぶ。車の購入価格を確認してディーラーに問い合わせる機能や、エクササイズの目標を設定して進捗を記録する機能、さらには驚くことには不動産の物件をチェックする機能まで備わっている。つい先日も、エーマップはひそかに新機能を追加した。街の反対側に贈り物を届けるなど、雑用をこなす配達人を雇えるというものだ。

エーマップはかくれんぼの開発には関わっていないが、過去にゲームの開発を試みたこともある(ヒットには至らなかった)。そして現在、アリババはゲームの開催に便利な新機能をマップに追加し、デジタルかくれんぼの人気の波に乗っている。ユーザーは全国で毎週開催されるゲームを一覧し、チェックできるようにもなった。

私が見るに、これはすべて、地域情報とサービスのアグリゲーターになるというエーマップの目標に通じている。エーマップは確かに、自宅の外で何らかのサービスを必要としているあらゆる場面で選ばれるアプリになりたいようだ。実際、同社は2019年にナビゲーション・アプリから「国民的なお出かけプラットフォーム」への移行を宣言している(この記事のためにエーマップに取材を申し込んだが、応じられないと断られてしまった)。

エーマップで起こっていることは、あらゆる中国のアプリに共通する、スーパーアプリになることへの強い執着を示す好例だ。ウォレット・アプリはソーシャルネットワークになろうとする。ソーシャルネットワークは個人ローン・サービスを始めようとする。フード・デリバリー・アプリはティックトック(TikTok)の動画やライブ配信を表示する。マップ・アプリにはそのような野望に満ちあふれている。スマホには必ずと言っていいほどマップ・アプリがインストールされているので、その種のアプリが毎日受信するトラフィックの規模は、開発者(この場合はアリババ)が次々に提供するサービスのユーザーを増やす上できわめて貴重なものになる。

それは、シリコンバレーの原罪である、限りないスケール・アップの追求なのかもしれない。あるいはアジアに、ウィーチャット(WeChat)とアリペイといった誰もが注目する成功例があるからなのかもしれない。中国のアプリのエコシステムは、どんなアプリでも、それがどんなにニッチなものでも、少しでも関連するサービスのプラットフォームになり得るし、なるべきだという独占的な考え方に動かされることが多い。結果として、どのアプリも取るに足らない機能の山と化す。その多くはストレージ容量を無駄使いするだけだ。それどころか、ユーザーがアプリを本来の用途に沿って使おうとするのを邪魔したり、妨げたりすることさえある。

スーパーアプリの夢を抱いているのは中国だけではない。イーロン・マスクは、今もX(旧Twitter)を欧米向けのオールインワン・アプリに変貌させることを目指しているとされる。しかし、中国のテック企業はすでにはるか先を行っている。そして残念ながら、中国企業の成功はスーパーアプリに伴うリスクも明らかにした。昨年記事にしたように、言論の自由を厳しく規制してしまう可能性などだ。

とはいえ、流行は廃るのも早い。私が参加したゲームは楽しかったが、かくれんぼの人気は今に下火になるだろう。今でも「ポケモンGO」を楽しんでいる人がどれだけいるだろうか。だが、デジタルかくれんぼの流行は、マップ・アプリに当初の目的とはまったく異なる用途に使える可能性があることを示す、良い例ではある。

エーマップは実際に次のスーパーアプリになれる条件を満たしているだろうか。私はそうは思わない。アパートや歩数の情報は、やはり他のアプリで取得したい。

中国関連の最新ニュース

1.中国は、合成オピオイドであるフェンタニルが国外の研究機関に流出するのを阻止するため、対策を強化すると述べた。(ワシントン・ポスト紙

2.11月15日のバイデン大統領と習主席の会談を受け、中国国営メディアは米国に対してきわめて友好的な論調で報じ始めている。近年では珍しい動きだ。(AP通信

3.米国の半導体装置最大手アプライド・マテリアルズが、中国の半導体製造業者であるSMICに輸出許可なしで製品を販売した可能性があるとして、米司法省の捜査を受けている。(ロイター通信

4. 中国は何十年も前から「世界の工場」だが、シーイン(Shein)やティームー(Temu)のような新たな電子商取引プラットフォームは世界中のショッピングを変えようとしている。(レスト・オブ・ワールド

5. 中国のトップ・スマホ・ブランドのひとつ、シャオミが、同社初の電気自動車モデルのデザインをついに公開した。(マッシャブル

6.テンセントは、エヌビディアのチップを「十分な量」備蓄しているため、米国のチップ規制の影響は受けないと説明している。(ロイター通信

たった3年で時代遅れ? スマホ化するEVにオーナーが悲鳴

中国のEV所有者にとっては、早起きが得とは限らない。11月8日、2020年に発売された中国のEVモデル「シャオペンP7(XPeng P7)」の所有者300人以上が同社にクレームを入れた。自動車購入時に最新のソフトウェア・アップグレードを取得するために追加料金を支払ったにもかかわらず、今年の最新のソフトウェア・アップデートのリリースに伴い、さらに料金がかかると言われたのだというのだ。

中国メディアのパワーハウス(Powerhouse)によると、ガソリン車モデルの開発サイクルは5年であるのに対し、EVの新型モデルの開発サイクルはわずか3年だという。開発ペースの加速は、ハイテク・ガジェット産業のペースに近く、第1世代のEVが瞬く間に時代遅れになることを意味する。半導体のテクノロジー、バッテリーの容量、自動運転機能は絶えずアップグレードされているため、世代を超えて既存の古いモデルにまでアップグレードを提供することは難しくなる。小鵬(シャオペン)、理想(リ・オート)、ジーカー、アイトなどの中国ブランドはいずれも、発売から2年以内で機能を廃止したり、第1世代モデルでは対応していない機能を第2世代に導入するなどの問題をめぐって論争になっている。

あともう1つ

全国人民代表大会の議員に選ばれる人は限られているが、杭州市の政治教育センターは、一般の人が実質現実(VR)で会議を体験できるように「全人代メタバース」を構築した。メタバースで驚くべきことが起こっている。マーク・ザッカーバーグにはぜひ注目してほしい。

https://twitter.com/whyyoutouzhele/status/1724005384074007000?s=20

 

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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