KADOKAWA Technology Review
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【独占】マイクロソフト
サティア・ナデラCEO:
生成AIで開発はこう変わる
Microsoft
Behind Microsoft CEO Satya Nadella's push to get AI tools in developers' hands

【独占】マイクロソフト
サティア・ナデラCEO:
生成AIで開発はこう変わる

マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、開発者へのAIツール提供に注力している。本誌の独占インタビューで、開発者向けプラットフォームのシフトについての考えを語った。 by Mat Honan2023.11.17

サプライズゲストは、マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)を務めるサティア・ナデラだった。

ナデラCEOは先週、オープンAI(OpenAI)がサンフランシスコで開催した初の開発者向けカンファレンス「DevDay」で、オープンAIのサム・アルトマンCEOと共にステージに上がり、すでに熱を帯びていた会場をさらに盛り上げるのに一役買った。「皆さんは魔法のようなものを作り出してきました」。ナデラCEOは熱く語った。

2日後、別の会場で開かれた、別の開発者会議の別のステージで、ナデラCEOはその週2度目のサプライズ登場を果たした。「ギットハブ・ユニバース(GitHub Universe)」である。ギットハブのCEOを務めるトーマス・ドムケは、同社のAIプログラミングツール「コパイロット(Copilot)」の新バージョンを披露した。コパイロットは自然言語からコンピューター・コードを生成できるツールだ。ナデラCEOは大げさに「私もまたコードが書ける!」と叫んでみせた。

11月15日、ナデラCEOは開発者向けイベント「マイクロソフト・イグナイト(Microsoft Ignite)」でも講演する予定となっている(日本版注:この記事は11月15日のイベント直前に米国版に掲載された)。このイベントでマイクロソフトは、アジュールAIスタジオ(Azure AI Studio:開発者がメタ、オープンAI、ハギング・フェイス=Hugging Faceなどのモデルから使いたいものを選べるツール)をはじめとするさらなるAIベースの開発者ツールや、マイクロソフト365用にコパイロットをカスタマイズするための新たなツールを発表する予定だ。

ナデラCEOが開発者に夢中になっているように感じたとしたら、それは間違いではない。ナデラCEOはギットハブ・コパイロット(マイクロソフトはギットハブを2018年に買収した)やオープンAI(マイクロソフトは同社に130億ドルを投資していると報じられている)による一連の開発者ツールなど、AIを搭載した新世代ツールのさまざまな使い方を宣伝して回っているのだ。

ナデラCEOは先週、多忙なイベント登壇の合間を縫って20分間のMITテクノロジーレビューの取材に応じた。インタビューの中でナデラCEOは、マイクロソフトが長年にわたって開発者にフォーカスしてきたことを繰り返し強調したが、伝えたいメッセージもあった。それは、「ソフトウェア開発のあり方は根本的に変わろうとしている」ということだ。

ナデラCEOはプラットフォームのシフトが進行していると考えている。このシフトは、メインフレームからデスクトップへ、あるいはデスクトップからモバイルへのシフトと同じくらい重要なものになるという。今回は、自然言語AIツールへの移行である。ツールの中にはソフトウェア開発の参入障壁を下げ、既存の開発者の生産性を高め、究極的には創造性の新時代へと導くものもあるとナデラCEOは主張する。

以下に、ナデラCEO自身の言葉を紹介しよう。なお、発言は読みやすさを考慮して、一部編集・要約している。

オープンAIとの関係について

オープンAIへの批判のひとつに、同社のビジネスはマイクロソフトなしでは成り立たないというものがある。マイクロソフトはスタートアップ企業であるオープンAIに数十億ドルを投資し、計算集約型言語モデルに必要なリソースへのアクセスを提供している。だがマイクロソフトも、ギットハブ・コパイロット、ビング(Bing)、オフィス365といったサービスを運用するにあたって、オープンAIのテクノロジーに大きく依存している。オープンAIのアルトマンCEOは、このパートナーシップについて、壇上で冗談まで述べている。ナデラCEOに両社の関係について聞いてみた。

私は、マイクロソフトがプラットフォームおよびパートナー優先の企業であると常に感じてきました。オープンAIとの関係は、私たちにとって新しいことではないのです。私たちは実質的に共依存関係にあります。彼らは最高のシステムを作るために私たちに依存し、私たちは最高のモデルを開発するために彼らに依存する。そして私たちは共に市場に向かうのです。

開発者の前に立つ使命について

今回のプラットフォームのシフトは、マイクロソフトとして開発者にただツールを与えるだけでなく、同社が何を考えているのか、開発者はどのような形で共に歩んでいくことができるのか、明確なメッセージを伝えることが必要だと感じるほど、これまでとは違うものだという。

プラットフォームのシフトに際して必ず重要になるのが、さまざまな種類の新しいものを生み出そうとする開発者が、そのプラットフォームをユビキタスに利用できるようにすることです。ですから私たちにとって最も重要なタスクは、開発者ツール、開発者プラットフォームを広く利用できるようにすることです。

2番目に私たちがやるべきことは、光を示すことです。それはオープンAIがチャットGPTを開発し、その上でイノベーションを起こすことかもしれませんし、私たちがコパイロットを開発し、その上でイノベーションを起こすことかもしれません。そのことを通じて、開発者には自らのアプリケーションを流通させるチャンスが生まれます。ですから、あらゆるプラットフォーム作りにおいて最も重要なのは、プラットフォームをあらゆる場所で利用できるようにすること、そして開発者が利用者にリーチするのを後押しすることです。

この2つが、さまざまなカンファレンスを通じて私たちが掲げている目標です。

プラットフォームのシフトと生産性について従来と異なる点

米国の生産性の伸びは、この15年以上鈍い状態が続いている。前回の大きなプラットフォームのシフトであるモバイルの登場は、広範囲な繁栄の実現にはほとんど寄与しなかった。今回は違うはずだとナデラCEOは言う。それは主として、AIへのシフトにより、コードをはじめとして新たな作品を誰でも簡単に生み出せるようになることで、クリエイティブ革命の原動力になるからだという。 

他方で、現在のコーディングは高い技能が求められる高収入の仕事だが、AIによってそれが実質的に自動化されてしまうのではないかという懸念もある。高い技能を持つプログラマーの需要は無くならないが、彼らの仕事は変わり、さらに多くの仕事が生まれるはずだとナデラCEOは主張する。10億人の開発者がそのプラットフォームで何かを生み出し、彼らの多くはそれまでにほとんど、あるいはまったくコーディングの経験がないという状況を想像しているという。

これほど破壊的なものが登場してきた場合は必ず、置き換えやその原因について考えなければなりません。それはスキルアップとリスキリング(学び直し)に尽きます。そして興味深いことに、それはワープロや表計算ソフトが登場してきた頃に起きたことと似ています。当然ながら、タイピストにとっては劇的な変化だったでしょう。しかし同時に、数十億人がワープロに文字を入力し、文書を作って共有できるようになったわけです。

プロの開発者の価値が今より低くなることはないと思います。ただ、開発者のグラデーションは非常に多彩なものになるでしょう。ビング・チャットやチャットGPTにプロンプトを入力する時、あなたは本質的にプログラミングをしています。その対話自体が、AIモデルを操っているわけです。

とてもたくさんの仕事、多数の新たな種類の知識労働、現場労働が生まれ、退屈な仕事は無くなるでしょう。

モバイル時代はすばらしいものだったと思います。ユビキタスなサービスの消費を実現させた時代でした。ただ、ユビキタスなサービスの創造には繋がりませんでした。

過去に、情報テクノロジーによって米国や世界各国で広範囲に生産性の向上が起きたのは、PCの登場によるものでした。実際、ノースウエスタン大学のロバート・ゴードンのように情報テクノロジーや生産性に批判的な人々でさえ、PCが仕事に導入され始めた頃は、広範囲に生産性の変化が起きたことを認めています。

今回のAIツールも同じ状況にあると私は考えています。デトロイトの新米ソフトウェアエンジニアが、コパイロットのようなツールを使ってコードを書けるわけです。自動車産業の生産性には本質的な変化が起きると思います。小売業界にも、現場労働にも、知識労働にも、同じことが起きるでしょう。

参入障壁は非常に低いのです。自然言語なので、その事業領域の専門家がアプリやワークフローを開発することができます。それがもっとも刺激的なことだと私は思います。これは単なる消費主導ではありません。エリートによる創造ではありません。民主化された創造なのです。はるかに広い範囲で生産性の向上が見られるようになると、私は大きな期待を寄せています。

開発者の保護について

米国の裁判所ではフェアユースを巡って、多数の知的財産訴訟や集団代表訴訟が起きている。少なくともそのうちの1件は、ギットハブ・コパイロットを対象にしたものだ。原告の主張は、マイクロソフトとオープンAIの生成ツールはオープンソースのコードで訓練されているため、ソフトウェアの著作権侵害に当たるというものだ。こうしたツールの利用者が、知的財産訴訟を起こされるのではないかという懸念がある。マイクロソフトは広範にわたる補償ポリシーにより、こうした問題に対処しようとしている。オープンAIも、同社のDevDayカンファレンスで独自の補償ポリシー、コピーライト・シールド(Copyright Shield))を発表した。 

根本的に、こうした大規模言語モデルはクローリングをしてコンテンツを取得し、そのコンテンツで訓練を実施しています。私たちのクローラーは非常に細かな管理ができるので、誰でもクローリングを止められるようになっています。実際、クローリングは検索のみを目的とし、大規模言語モデルの訓練は除外する、といったコントロールも可能です。これは現時点で利用可能です。ですから、自分のコンテンツが再訓練に使われないようにしたければ、誰でも現時点でそうすることができます。

第2に、これは当然のことですが、裁判所と立法のプロセスが何らかの形で連携して、何がフェアユースで何がフェアユースではないのか、定める必要があると考えます。

私たちはモデルの訓練のみを実施し、許可されているデータのみを用いて、法的な問題がないと思われるモデルの訓練のみ実施するようさまざまなコントロールをしています。

いざとなれば、法廷で争うことになるでしょう。私たちの製品のユーザーがその点を心配せずに済むよう、その責任は私たちが負います。それは単純な話で、ユーザーの法的責任が移譲され、私たちがその責任引き受けるということです。そして当然ながら、私たちは法律に違反しないよう、最新の注意を払っていくつもりです。

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マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
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