地球温暖化ガスの排出量削減など、「持続可能な社会作り」に資する技術の開発が盛んになっている。このような技術の多くは地球環境改善に役立ちはするが、結果としてさらなる生産と消費を伴うものになってしまいがちだ。
東北大学学際科学フロンティア研究所で助教を務める中安祐太(Yuta Nakayasu)は、真に「持続可能な社会」を作ることを目指している。そのために中安は大学で研究者・教員として働きながら、宮城県の中山間地域で暮らし、食糧、水、エネルギーの100%地産地消を目指した生活を送っている。これらの資源を地産地消することで、温室効果ガスの削減や、ライフラインの確保が実現できると考えてのことだ。中安が目指すのは、なるべく身近な資源で、人の手をかけて、なるべく長持ちして、土に還りやすく、ある程度便利なものを開発すること。そして、最先端の技術ばかりに頼るのではなく、昔ながらの知恵も組み合わせた生活を確立することだ。そのために薪ストーブで暖を取り、田畑を耕しながら暮らしている。
中安は、こうした生活スタイルを広く発信するために、2020年7月に百(もも)を共同で創業。杉林を購入し、メンバー自身の手で杉の木を伐倒し、自然乾燥させてから地域の大工が木材に加工し、伝統構法で宿泊施設を建設した。この宿泊施設は、太陽熱、太陽光、地中冷熱、薪を組み合わせてエネルギーを得ることで、エネルギーの地産地消を実現している。さらに、宿泊者には地産地消の食事を提供するなど、生活スタイルの発信拠点としている。
研究者としての中安もまた、地産地消の考え方を重視している。枯れて荒廃することを防ぐために伐採するナラの木から、蓄電池や燃料電池に使える炭素電極を開発しているのだ。材料を電極に加工する際に水熱炭化や超臨界含浸などの手法を活用して、より高性能な電極の開発に取り組み、特許出願や学術論文を発表している。また里山エンジニアリングを共同創業し、CTOとして研究成果をもとにした事業化にも取り組んでいる。中安は炭素電極の開発によって、エネルギーの有効利用だけでなく、健全な森林環境を保全することも目指している。
(笹田 仁)
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