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中国テック事情:遺伝子治療競争、中国が難聴治療で欧米に先行
Stephanie Arnett/MITTR | Getty Images
China wants to win the gene therapy race—and it’ll spend millions

中国テック事情:遺伝子治療競争、中国が難聴治療で欧米に先行

上海の復旦大学の研究者らは、先天性難聴の子どもの遺伝子治療に成功したとの成果を10月下旬に発表した。中国は欧米諸国相手に遺伝子治療の分野で一つ勝ち星をあげたことになる。 by Zeyi Yang2023.12.10

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

最近、私は本誌のアントニオ・レガラード編集者(生物医学担当)と共同で、実に感動的で、正直なところやや荒唐無稽ともいえるニュースを伝えた。中国の科学者たちが遺伝子治療を応用し、生まれつき耳が聞こえない子どもたちの聴力を回復させたというニュースである。全文はこちらで読むことができる

10月27日、上海の復旦大学の外科医でもあるイーライ・シュウ教授は、子どもの患者の内耳の有毛細胞に、DNAを入れ替えたウイルスを注射した臨床試験の結果を公表した。試験後、試験参加者の5人のうち4人に聴覚の回復が認められたとのことである本誌は次のように報じている。「中国の科学者たちによれば、イーイーは、遺伝子療法の可能性を新たに示す画期的な研究において、自然な聴覚経路を初めて回復させた数人の聴覚障害児のうちの1人だ。これまでどのような種類の薬も聴力を改善できなかったため、この偉業はことさら注目に値する」。

これは、遺伝子治療を利用して人間の感覚を取り戻すという点で驚異的な進歩だ。レガラード編集者と私は、これが個人レベルでいかに重要であるかをシン・リシュエから聞いた。リズウの6歳の娘のイーイーは、この臨床試験に参加した3人目の患者である。小学1年生のイーイーは、寝ているときに人工内耳の接続が外れてしまうため、学校のお昼寝の時間には「ほかの子どもに起こしてもらう必要があった」という。しかし今では、「イーイーはお昼寝の時間の終わりを知らせる音楽を自分で聞くことができ、自分で起きられるようになった」とリシュエは話している。

しかしこの驚くべき結果は、遺伝子治療と伝統医学を含む、多くの医学的解決策を悩ませている同じ困難な計算に直面している。これらは非常に特殊で稀な疾患の治療に使われるため、市場の需要は、研究開発や大量生産にかける費用を正当化できないのだ。

この遺伝子治療は、聴覚信号を耳から脳に伝えるために生成されるタンパク質である「オトフェリン」の欠損が難聴の原因となっている場合にのみ効果がある。オトフェリンの欠損が原因で起こる先天性難聴の症例はわずか1%~5%ほどであるため、多くの難聴の子どもたちは、まだこの治療の恩恵を受けることができないのである。

イーイーが参加したような実験的な試験ではコストは問題にならないが、このテクノロジーが大衆市場に導入されれば、コストはより重要な問題になってくることだろう。

問題の解決の一助となりそうなのが、政府からの補助金だ。例えば、遺伝子治療産業における上海市の競争力を高めるために、上海市政府は新しい治療法を開発する地元企業に多額の補助金を提供している。企業は承認された遺伝子治療製品を市内で製造することで、年間で最大1300万ドルを受け取ることができるのだ。中国のほかの地方政府も同様の政策を打ち出しており、遺伝子治療分野にさらに多くの生物医学企業を誘致する可能性がある。

また、少なくともこの遺伝子治療の応用において、中国が西側諸国の競争相手よりも先を行っているという事実を考慮すると、中国当局はこの分野への支出により積極的になるかもしれない。現在、少なくとも2社の欧米の企業がまったく同じタイプの難聴の治療に取り組んでいるが、中国のチームほどの成果は出せていない。「私たちは競争しているのです。そして勝ったのは私たちです。聴力を取り戻した患者がいるのです!すでにレベルが全く違うのです」。マサチューセッツ眼科耳鼻科病院の准教授で、この研究の設計と立案に協力したジェンイー・チェンは話す。

それにもかかわらず、現在でも遺伝子治療は比較的高価で、使いにくい選択肢のままである。この遺伝子治療に関する中国の研究を資金面で支援している「上海リフレッシュジーン・セラピューティクス(Shanghai Refreshgene Therapeutics)」の創業者であるノバ・リューは、商業化されたら価格は12万5000ドルから25万ドルになる可能性があると見積もっている。これは現在利用可能なほかの遺伝子治療(がんを治療するCAR-T細胞療法にかかる費用は100万ドル以上)よりは安いが、人工内耳(中国では1万ドル強)よりはかなり高価だ。

レガラード編集者はこのように要約してくれた。「遺伝子治療に効果があると実証することは、現実世界の人々を助ける薬を開発することと同じではない。そのためには、企業は研究をさらに進め、承認を得て、最終的には製品を販売して利益を得る必要がある。そのどれもが簡単なことではない。特に、治療から恩恵を受けられる患者が数人しかいない稀な疾患ではなおさらだ」。

臨床試験で効果があることが示された過去の製品の中には、実際に市場投入前に立ち消えになってしまったものもある。これは、遺伝子治療が直面する次の戦いとも言える。

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