フラッシュ2023年8月8日
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生物工学/医療
酵母によるアルコール発酵を調節、度数だけを変える新技術
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]奈良先端科学技術大学院大学の研究チームは、酵母によるアルコール発酵を調節し、アルコール度数のみを変える技術を開発した。アルコール発酵については、反応を触媒する酵素や、それらをコードする遺伝子もすべて解明されているが、自在に制御する方法は実現目処が立っておらず、温度や栄養源を管理して、酵母の生死のみを制御する昔ながらの方法しかなかった。
研究チームは清酒酵母を使った先行研究で、シグナル伝達因子「B55δ結合型プロテインフォスファターゼ2A」の活性化がアルコール発酵を調節する上で鍵となることを明らかにしている。今回の研究では、実験室酵母を使用して、このシグナル伝達因子がない状態でアルコール発酵すると、どのような遺伝子が発現するのかをRNAシーケンス解析で調べた。
その結果、B55δ結合型プロテインフォスファターゼ2Aの機能低下の要因として、転写因子「Msn2/4p」の活性化が考えられることが分かった。Msn2/4pが活性化すると、グルコースから酵母細胞壁の主要構成成分である「1,3-β-グルカン」を合成する経路に関連する遺伝子の発現が促進される。グルコースはアルコール発酵だけでなく、細胞壁の合成にも使用する。つまり、Msn2/4pが活性化して細胞壁合成が促進されると、アルコール発酵が阻害されると考えられる。
この仮説を実証するため、実験室酵母のB55δ結合型プロテインフォスファターゼ2A機能欠損株(アルコール発酵抑制株)とMsn2/4p機能欠損株(アルコール発酵促進株)をアルコール発酵環境に置き、それぞれの株の酵母細胞壁を、透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、アルコール発酵抑制株の細胞壁は顕著に肥厚し、アルコール発酵促進株の細胞壁は薄くなっていたという。
さらに、清酒酵母にランダムに変異を導入した株の中から、細胞壁合成阻害剤であるカスポファンジンが存在する環境でも活発に生育できる変異株を選んで特性を調べると、細胞壁の合成を阻害しても生育できる変異株は、親株よりも細胞壁合成能力が高いことが分かった。この変異株を使って清酒を醸造したところ、アルコール発酵の進行が親株に比べて顕著に遅くなり、出来上がった清酒のアルコール度数も有意に低い値となった。一方、清酒の味に影響する有機酸やアミノ酸、香りに影響するエステル類の量にはほぼ変化がなかった。
研究成果は7月21日、npjサイエンス・オブ・フード(npj Science of Food)誌にオンライン掲載された。酒類や発酵食品の製造だけでなく、アルコール発酵能力を高めてバイオエタノールの生産を効率化する際にも役立つという。
(笹田)
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