誰がAI企業に待ったをかけるのか? 立法より裁判が先行する可能性
人工知能(AI)テック企業によって損害を被っているとする訴訟が急増している。AI利用に対する抑制や補償は、これから作られる法律ではなく、裁判の結果によってもたらされるかもしれない。 by Melissa Heikkilä2023.07.24
米国において、人工知能(AI)の開発と利用方法に関する制約を最初に決定するのは、政治家ではなく裁判所になるかもしれない。その可能性が、ますます現実味を帯びてきている。
米国連邦取引委員会(FTC)は7月中旬、人気のAIチャットボット「チャットGPT(ChatGPT)」を訓練するために人々のオンライン・データを収集し、消費者保護法に違反した疑いがあるとして、オープンAI(OpenAI)に対する調査を開始した。アーティストや作家、さらには画像会社ゲッティ(Getty)は、自分らの作品や著作物を使用することに対する謝意も支払いも一切ないまま、モデルの訓練に利用したことが著作権法違反にあたるとして、オープンAI(OpenAI)、スタビリティAI(Stability AI)、メタなどのAI企業を訴えている。
これら訴訟で原告側が勝訴すれば、オープンAI、メタ、マイクロソフトなどは、AIの構築、訓練、展開がより公平かつ衡平なものとなるように、方法の変更を余儀なくされる可能性がある。
さらに、ライセンスやロイヤルティ制度によって、アーティストや作家が、自分の作品をAIモデルの訓練用データとして使われることに対する補償を受け取るという新しい道筋が生まれる可能性もある。
生成AI(ジェネレーティブAI)ブームにより、AIに特化した法律を成立させようと、米国の政治家の熱意は再び高まっている。しかし、電子プライバシー情報センター(Electronic Privacy Information Center)のベン・ウィンターズ上級顧問は、議会の分裂とテック企業の激しいロビー活動を考えると、米国でAI規制法案が来年可決される可能性は低いと話す。AIに関する新しい規則の成立に向けた最も有名な試みと言えるチャック・シューマー上院議員の「SAFEイノベーション・フレームワーク」にさえ、具体的な政策提案は含まれていない。
研究機関であるAIナウ研究所(AI Now Institute)の執行役員であるサラ・マイヤーズ・ウエスト博士は、「AIルールブックを確立するより手っ取り早い方法は、既存の法律を起点とすることです」と言う。
それはつまり、訴訟を意味する。
見渡す限り訴訟だらけ
既存の法律は、AI企業によって自分たちの権利が侵害されていると主張する者たちに多くの攻撃材料を提供している。
過去1年間、AI企業は度重なる訴訟に見舞われており、最近ではコメディアンで作家のサラ・シルバーマンから提訴された。この訴訟で彼女は、オープンAIとメタが自社モデルの訓練を目的に、著作権で保護された素材をインターネットから違法に収集したと主張している。シルバーマンの主張は、人気の画像生成AIソフトウェアが著作権で保護された画像を同意なく使用したとする、別の集団訴訟におけるアーティストの主張と似たものである。マイクロソフトやオープンAI、そしてギットハブ(GitHub)のAIを活用したプログラミングツール「コパイロット(Copilot)」も、Webサイトから収集した既存のプログラミングコードを使って訓練をしていることから、「前例のない規模のソフトウェア著作権侵害」を伴う開発に依存しているとして、集団訴訟に直面している。
一方、FTCは、オープンAIのデータ・セキュリティとプライバシーの慣行が不公正で欺瞞的であるかどうか、また同社がAIモデルを訓練した際に、風評被害を含め、消費者に害をもたらしたかどうかを調査している。その懸念を裏付ける実際の証拠がある。オープンAIは今年、システムのバグによりユーザーのチャット履歴と支払い情報が漏洩するセキュリティ侵害を起こした。さらに、AI言語モデルは、不正確ででっち上げのコンテンツ(場合によっては人物に関するもの)を吐き出すことがよくある。
オープンAIは、少なくとも公の場ではFTCの調査に対して強気だ。同社にコメントを求めると、 …
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