中国テック事情:ツイッター利用禁止の中国で「なりすまし」が横行
利用が禁止されている中国で、ツイッター(X)のなりすましが増えている。実在の中国著名人を騙って政治批判を投稿し、数十万人のフォロワーを獲得しているようだ。 by Zeyi Yang2023.08.13
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
中国の知識人や有名人になりすまし、歯に衣着せぬ発言を投稿するツイッター・アカウントが増えている。中国政府を頻繁に批判するこうしたアカウントの投稿は、なりすましがバレる前に数十万人のフォロワーを集めることが多い。
中国では2009年にツイッターが禁止されているが、近年ではVPNを使ってツイッターにアクセスする中国人ユーザーも少なくない。その結果、ツイッターは昨年記事にした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する抗議運動のように、重要な情報ハブとなることもある一方で、スパムや詐欺、コンテンツ・ファームが蔓延する場所にもなっている。イーロン・マスクがツイッターのオーナーになってからは、コンテンツ・モデレーションの取り組みを縮小したこともあり、状況はさらに悪化している。
しかし、おそらくフォロワーを増やす目的で、ツイッターのアカウントを持っていない著名な中国人になりすますのは、今年の新たなトレンドなのだ。
2019年からツイッターで活動している中国系米国人ユーチューバー、エドガー・ルーが、最初にそうした状況に気づいたのは、2022年末のことだ。そのとき彼が目にしたのは、中国で刑法に関する講義において、国民的な支持を集めている法学教授、ルオ・シアンを自称する新しいアカウントだった。ルオ教授は、その知識と道徳的原則を信奉する人たちから敬愛されており、ソーシャルメディアではしばしば正義の象徴とみなされている。
ルオ教授の名を騙ったこのアカウントは、同教授の写真をアバターとし、しばしば彼が講義で論じるような話題についてコメントしていた。しかし、彼の大ファンであるルーにとって、このアカウントの反政府的な投稿は、どこか胡散臭かった。「数千万人のフォロワーに読まれ、影響力の大きい著名人であるルオ・シアン教授が、一体なぜ、ツイッターにそのような露骨な(反政府)発言を投稿できたのだろうか」とルーは疑問を呈する。「多くの人が当惑しました。なぜ彼は、警察から何の介入も受けることもなく、このような投稿ができのかと」。
12月に、ルオ教授の知人が、ルオ教授はツイッターのアカウントを持っていないと公言したことで、ルーの疑念は確信に変わった。
このような政治的に重い内容の書き込みは、ルオ教授と同様のなりすましアカウントの多くに見られる特徴だ。ルーはその理由の1つとして、中国政府に批判的なコンテンツは、他の種類のコンテンツよりも多くのトラフィックとフォロワーを集めるからではないかと指摘する。だからなりすましアカウントは、アクセス数を最大化にするため、その種の話題に力を入れているのだという。
その後、ルオ教授の偽アカウントは、アバターをローマ神話に出てくる正義の女神の像に変えたが、ユーザー名は今も同じままだ。このアカウントは9万6000人のフォロワーを獲得しており、その多くは、いまだに、教授自身が運営しているアカウントだと思っている。
同様に、中国系米国人アーティストで作家のチェン・ダンチンになりすました別のアカウントは、10万人以上のフォロワーを集めた。このアカウントは、中国の保安部のものとされるアカウントとのやり取りをでっち上げてツイートした後、5月になりすましがバレた。6月1日、突然、すべてのツイートを削除し、ユーザー名を変更した。その後はソフトコア・ポルノに変わっており、オンリーファン(OnlyFans、課金機能付きのSNS)のような課金コンテンツへ誘導するアカウントになっている。
これらのアカウントの最終的な動機を知ることは難しい。しかし、一晩で姿を変えた上記のような例から、少なくともこのようなコンテンツ・ファーミングの目的の1つは、アカウントの売却であることが分かる。有料広告を掲載したり、アカウントを丸ごと売却したりすれば、儲かるビジネスになるのかもしれない。
ある偽アカウントがフォロワーの獲得に失敗したら、新しい誰かを選ぶだけで、また別のなりすましを始められる。実際、3月に登録されたあるアカウントでそれは起こった。そのアカウントは最初、新型コロナウィルス感染症の初期に、その影響に関する情報を共有したことで3年間身柄を拘束された中国人、ファン・ビンを名乗っていた。しかし、5月までにフォロワーを8000人程度しか集められなかったため、ユーザー名を放棄し、他のいくつかのユーザー名(「反中国共産党ネットユーザー同盟」や「シンガポールのおいしい食べ物」など)で何度か同じことを試みた。そして最後は、ウェイボー(Weibo)で500万人近いフォロワーを持つ中国在住の謎の韓国系ブロガー、ツイ・チョンハオに落ち着いた。
そのすべてのプロセスは、他のユーザーたちによって記録されている。アカウント固有のツイッターIDは、ユーザー名を変えても同じままなので、このなりすましの経過を追うことができたのだ。最後のユーザー名は以前のものよりも成功しており、現在、フォロワー数をさらに2万人増やしている。
ルオ・シアン教授のアカウントが偽物と確認された後、ルーは人々にフォローを解除して通報するよう呼びかけようとした。しかし、なりすましを通報するには、通常、ツイッター上に被害者が実在する必要がある。このようなケースの多くは、なりすまされた人が、なりすまされたと通報するためだけにツイッター・アカウントを登録することはなく、通報機能はほとんど働かない。ツイッター社にコメントを求めたが、今や定番となった「ウンコの絵文字」が返ってきただけだった。
ツイッターはこれまでも、英語以外のコンテンツについてはモデレーションが決して効果的ではなかった。イーロン・マスクによる買収後、モデレーション・チームが解雇されて以来、状況はさらに悪くなっているようだ。昨年、中国語のスパム・ボットが非常に広く出回り、中国政府の支援があるのではないかと疑われたが、実は金儲けをしようとするスパム業者によるものだった可能性が高い。
オーディエンスやなりすまされた本人にとっては、直接的には大きな脅威ではないものの、このようなコンテンツ・ファームが、中国語ソーシャルメディア・プラットフォームのエコシステムを混乱させているとルーは話す。フォロワーを獲得するためにクリックベイト(中国ではしばしば政治的なコンテンツが使われる)を用いることで、それらのなりすましアカウントは中国語での論議を二極化させているのだ。
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1.ウォール・ストリート・ジャーナル紙は6月第2週、キューバに盗聴施設を設置するため同国に数十億ドルを支出する中国の計画について興味深い記事を掲載した。(ウォール・ストリート・ジャーナル)
2.公衆の面前で女性に痴漢行為をし、それを撮影した動画をネットで販売して利益を得ている東アジアの犯罪ネットワークの背後には、日本に住む1人の中国人男性がいる。(BBC)
3.オランダの政府と各大学は今後、中国人留学生が中国政府の奨学金を受け取っている場合、安全保障上のリスクを審査する予定だ。(フィナンシャル・タイムズ )
4.香港の裁判所は現在、政府が抗議賛歌のネット配信を禁止できるかどうかの裁定を求められている。(ニューヨーク・タイムズ)
5. チェチェンの指導者が、中国製の装甲車を大げさに宣伝する動画をソーシャルメディアに投稿した。人々は今、中国がロシアに武器提供をしているのではないか、疑念を抱いている。(ウォール・ストリート・ジャーナル)
6. 中国が、国内に残る最後のインド人ジャーナリストに対し、国外退去を求めた。その前に、インドがすべての中国人ジャーナリストを追放している。(ブルームバーグ)
終わりの見えない香港デモ参加者
香港で民主化デモが勃発してから4年が経つが、まだ数千人のデモ参加者が、法的に曖昧な状態に置かれている。シンガポールの中国語メディア、ザ・イニティウム(端傳媒)が報じたように、香港の抗議活動で逮捕された1万279人のうち、これまでに6500人以上が保釈されたが事件は終結していない。そのため、デモ参加者たちは常に、警察によって召喚され、正式に起訴される恐怖に怯えながら生活している。海外旅行は許可されているものの、その曖昧な法的地位のため、国境でトラブルに巻き込まれる可能性を恐れている者も多い。
香港の抗議活動に対する国際的な関心が薄れるにつれ、収監されたデモ参加者のために結成された支援グループは徐々に解散し、デモ参加者に友好な人たちの多くも海外移住を検討している。しかし、デモ参加者自身には終わりが見えない。5月、香港の新行政長官は、捜査終結時期の明言を「非現実的」と拒否した。
あともう1つ
サッカー好きで知られる中国の習近平国家主席の70歳の誕生日である6月15日、北京でアルゼンチン代表とオーストラリア代表の親善試合が開催された。しかし、アルゼンチンのスター選手、リオネル・メッシでさえも、中国の国境管理について教訓を得なければならなかった。中国国営メディアによると、アルゼンチンとスペイン両方の国籍を持つメッシは、所持するパスポートを間違えたためビザが一致せず、空港に数時間、足止めされという。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。