慢性疼痛の「痛み」を脳波で測定、個別化治療の扉を開く
慢性疼痛の患者の脳波を測定した新研究によって、個々人に合った治療法の扉が開く可能性がある。 by Rhiannon Williams2023.05.26
脳の信号から、人がどの程度の痛みを感じているかを検知することができ、特定の慢性疼痛症状の治療方法を根本的に変える可能性があることが、新しい研究で示された。
5月22日にネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)誌に5月22日付けで掲載されたこの研究は、人間の慢性疼痛に関わる脳の信号が記録された初めてのものとなった。これは、最も深刻な痛みに対する個別化された治療法の開発に役立つ可能性がある。
慢性疼痛は3か月以上続く痛みと定義される。米国では最大5人に1人が悩まされており、糖尿病、高血圧、うつ病よりも多くなっている。脳卒中や手足の切断後に慢性疼痛に悩まされることもある。脳にどのような影響を与えるかはまだよくわかっていないため、その治療もまたとても困難となっている。生活の質にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、慢性疼痛を抱える4人の脳に電極を埋め込んだ。この4人の被験者は3~6か月間にわたって、1日に複数回、痛みの強さに関するアンケートに回答した。アンケートの記入を終えるたびに、電極が脳の活動を記録できるよう、被験者は30秒間静かに座った。これは、研究者が脳の信号パターンにおける慢性疼痛のバイオマーカーを特定する助けとなった。脳の信号パターンは、指紋と同じように個人に固有のものだった。
次に、研究者は機械学習を使って、アンケートの結果をモデル化した。その結果、被験者の脳の活動を調べることで、彼らが痛みの強さをどのように記録するかを予測することに成功したと、研究論文の共著者であるプラサド・シルヴァルカー准教授はいう。
「これら信号がどこに存在するのか、そしてどのような種類の信号を探すべきかがわかったので、実際に非侵襲的に信号を追跡できるようになることを期待しています」とシルヴァルカー准教授は語る。「より多くの被験者を集めて、脳の信号が人によってどのように異なるかをもっと特徴付けることができれば、それを診断に使えるかもしれません」。
研究チームはまた、被験者の慢性疼痛と、熱プローブを使って意図的に与えた急性疼痛とを区別できることも発見した。慢性疼痛の信号は、急性とは異なる脳の別の部分から出ており、単に急性疼痛が続いているものではなく、まったく別のものであることが示唆された。
痛みの感じ方は人それぞれであるため、痛みに対処するための画一的なアプローチはなく、従来の大きな課題となっていた。研究チームは、個人のバイオマーカーをマッピングすることで、脳電気刺激の治療的使用において、より適切に狙いを定めることができるようになると期待する。シルヴァルカー准教授は、サーモスタットのように痛みのオンとオフを切り替えるのだと、この治療法を例えている。
研究結果は、疼痛治療において大きな進歩となる可能性があり、特にコミュニケーションが困難な慢性疼痛患者の治療に役立てることができると、オックスフォード大学で臨床神経科学を専門とし、このプロジェクトには関与していないベン・セイモア教授は話す。
「今回の発見は、スマートペイン技術の新たな扉を開くもので、とても重要なエンジニアリング上のハードルをようやく乗り越えられたのだと私は思います」とセイモア教授はいう。
そして、今回の研究は、痛みの感じ方が本当に人それぞれであり、ゆえに一人一人にあった治療が大事であることを示していると、シルヴァルカー准教授付け加える。
「痛みはとても複雑であり、個々人もまた非常に複雑であることは明らかです。ですから、痛みを理解して診察する唯一の方法は、自ら痛みについて語ってもらうことです」と同氏は話した。
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- リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。