KADOKAWA Technology Review
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再エネ特需で熱視線、海底に眠る宝の山は誰のもの?
ROV KIEL 6000, GEOMAR via Wikipedia
These deep-sea “potatoes” could be the future of mining for renewable energy

再エネ特需で熱視線、海底に眠る宝の山は誰のもの?

ハワイからメキシコにかけて広がる海域の海底には、レアアースや銅を含有する多金属団塊が転がっている。この塊を採掘して材料を抽出して売り出そうとする企業が現れ始めたが、生態系を壊すなどの悪影響を懸念する声もある。 by Casey Crownhart2023.05.31

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

先日、私は大好きな場所の1つを、思いがけず訪れることができた。アトランタ州にあるジョージア水族館のジンベエザメの展示だ。

タンクは巨大で、およそ2万立方メートルの水が入る。ジンベエザメの成魚が6匹泳ぎ回り、マンタやほかの海の生き物もたくさんいる。学校の遠足で大展望窓の前に座り、この巨大な生物の隊列に魅了されたのを覚えている。しかし、海に比べれば、この巨大な展示窓も限りなく小さく、バケツの一滴にも満たない。

最近、水族館に行く前から、海についてよく考えている。深海での採掘のニュースが話題になっているからだ。

海底の特定の場所は、気候変動への対処で重要な役目を負う電池(バッテリー)や他のテクノロジーに必要な、数種類の金属の重要な供給源になり得る、と推進派は言う。しかし、商業的な取り組みを進めるべきかどうかについては議論が紛糾している。生態系に与える影響について不確実な部分が多くあり、また政治目的の行動も多く見られる。

国連のグループは3月下旬、こうした問題を整理する会議を開いた。この夏に始まる可能性がある、深海採掘に関するいくつかの重要な行動について知っておく必要があるかもしれない。今回は、採掘と海についてお伝えしよう。

なぜ海で採掘するのか

気候変動に対応する世界に移行するには、電池で使うリチウム、風力発電機で使うネオジムやジスプロシウムなどのレアアース(希土類元素)、それに銅など、基本的にはあらゆるものが必要だ。

これらの重要な材料は、厳密にいえば枯渇することはない。クリーンなエネルギー・インフラを構築するために必要な資源は地球上に豊富に存在するからだ。しかし、採掘は巨大で複雑な事業であり、必要なものを迅速かつ安価に入手できるかどうかが問題になる。

例えば、銅を見てみよう。エネルギー技術に使われる銅の需要だけでも、2050年頃までに年間100万トン以上になると見込まれている。採掘量を増やすために良い鉱山を見つけることは、ますます困難になってきている。濃度が高い銅を埋蔵している利用可能な鉱山はもう存在しないため、企業は濃度の低い銅を埋蔵している採掘場に手を出している。

海は、銅やその他の重要な材料の新しい供給源になる可能性がある。海底資源の採掘にはいくつか方法があるが、最近の注目の的は多金属団塊(ポリメタリック・ノジュール)と呼ばれるジャガイモ大の塊だ。特に、太平洋のハワイとメキシコの間にあるクラリオン・クリッパートン断裂帯には、この塊が海底に点在している場所がある。

多金属団塊は、海水中の微量元素が、骨片やサメの歯のような海底にある小さな物体に沈着し、ゆっくりと成長することで数百万年かけて自然に形成される。この塊には、現在の電気自動車の動力源であるリチウムイオン電池に必要なマンガン、コバルト、銅、ニッケルのほか、少量の鉄やチタン、微量のレアアースやリチウムが含まれている。

驚くほど多くの金属を含有していることから、1つ1つの塊を「岩石の中にある電池」と喩える企業もある。そのため、ここ10年ほどで、クラリオン・クリッパートン断裂帯を中心に、深海での商業採掘の可能性を探る企業が現れ始めた。

しかし、海をこのような形で利用することに、誰もが賛同するわけではない。この団塊地帯の周辺には、サンゴやナマコ、ワームやジュウモンジダコ、そしてまだ発見されていない小さな生き物まで、多くの生命が生息しているからだ。また、採掘作業によって堆積物が舞い上がると、土煙が野生生物の害となる可能性や、海底の下の自然な二酸化炭素貯留を乱す可能性すらあるとして、科学者たちは疑問を呈している。

決定権を持つのは誰か

国際水域の管理は、ややこしい仕事だ。深海の採掘については、1994年に設立された国際海底機構(ISA:International Seabed Authority)という国連機関(本部=ジャマイカ)がある。ISAは商業運用のための採掘規則の整備を進めているが、すぐに採掘に着手したいとの考えを持つ企業もある。

こうした状況に対応するため、「2年ルール」と呼ぶプロセスが導入されている。2年ルールでは、規則が導入される前に、加盟国がISAに採掘を開始したい旨を通知することができ、ISAはその後2年間のうちに規則を制定する。

ミクロネシアの小さな島国ナウルは、ちょうど2年前に2年ルールを発動し、その期限は2023年7月9日となっている。ISAの次回会合は7月10日からの予定なので、時間切れになりそうだ。

期限が過ぎたらどうなるのかは、はっきりしていない。1つの可能性として考えられるのは、企業が商業採掘を開始するための申請書を提出し、ISAがルールが未確立の状態で審査をすることだ。

ISAは3月下旬にジャマイカで2週間の会議を終え、代表者たちは制定の可能性がある規則や、規則制定までの間に商業採掘の試みをどう扱うかについて議論した。ブルームバーグが報じたように、加盟国と支持団体の双方から、規則ができるまでISAが申請を検討しないよう求める声が高まっている。また、海への影響についての研究実績が積み重なるまで、商業的な海洋採掘を一時的に停止するか、全面的に禁止するよう求める声もある。

深海採掘の潜在的な利益と害を比較することは、複雑な作業だ。陸上採掘との比較になるとさらに複雑になる。これは間違いなく現在進行中の話であり、今後、続報をお伝えすることになるだろう。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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