ネットの未来を左右する重要裁判で予想される4つのシナリオ
現在、米国の最高裁判所で争われている、通信品位法230条とコンテンツ・モデレーションに関する訴訟の行方を、4つのシナリオで予想する。結果は、おそらく夏まで待たなければ分からないだろう。 by Tate Ryan-Mosley2023.03.29
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
2月末、世間の関心は米国連邦最高裁判所に集まっていた。レコメンド・アルゴリズムとコンテンツ・モデレーションというインターネットの中核を成す、2つの仕組みの審理が始まったからだ。そして、通信品位法230条が米連邦最高裁判所で審理される初めての訴訟でもある。1996年に制定された通信品位法は、Web企業が適切と考えるコンテンツを(自社が責任を負うことなく)公開、管理できる根拠となっている。判決が下されるまでには数カ月はかかるだろうが、判断が示されれば、インターネットの未来にとって非常に大きな問題になるかもしれない。
口頭弁論については深読みするべきではなく、(おそらく夏までに)裁判所がどのような判決を下すかを示す確かな手がかりもない。もっとも、判事が尋ねる質問は、裁判所がこの訴訟をどのように捉えているかを示していると考えてよく、もう少し確信を持って今後の推測ができる。以下に、可能性の高いシナリオをいくつか紹介しよう。
その前に、簡単に背景を説明しておく。「ゴンザレス対グーグル」「ツイッター対タムネ」というこの2件の訴訟は、オンライン・プラットフォームがホストしているコンテンツの有害な影響について、プラットフォームに責任を問えるかが審理されている。どちらも、2015年と2017年のISIS(イスラム過激派組織)によるテロ攻撃で亡くなった人の遺族が訴えているものだ。双方はさまざまな点で異なるが、核心部分は共通している。グーグルとツイッターは、自社プラットフォーム上でテロリストの募集を支援したため、法律に違反したという主張だ。
ゴンザレス訴訟が最も注目を集めたのは、レコメンド・アルゴリズムが230条によって保護されるべきではないと主張したからだ。最高裁がレコメンド・アルゴリズムは230条に適用されると判断した場合、グーグルは法律違反を犯していないことになる。逆に、適用されないと判断した場合、グーグルは責任を問われる可能性がある。
問題の核心は、(230条で保護されている)コンテンツの提示は、コンテンツの推奨(レコメンド)とは異なるか否かだ(実際、なぜこの区別が極めて難しいのか、そして専門家が法的にその線引きすることによる意図しない結果を、なぜ非常に懸念しているのかについては以前、記事にしている)。
結論として、概して最高裁判事は230条の大幅な解釈変更にはためらいがあるように見える。しかし、コンテンツ・モデレーションについて、さらに綿密に精査される可能性はある。なぜなら、(これを問題にしている)ツイッター対タームネをどのように判断するかの見通しが、あまりはっきりしないからだ。
全体的に、今回の審理内容から考えると、230条の再解釈については予想されていたほど積極的ではない様子だった。最高裁はインターネットの仕組みに関する自らの理解について、健全な謙虚さを示したからだ。2月28日に開かれた審理でエレナ・ケイガン判事が「9人の判事は、インターネットに関して最高の専門家ではありません」という冗談を述べたことからも察することができる。
審理が始まる前まで、最高裁が本件に関する技術的な複雑さを理解する能力があるのか、と多くの専門家が極めて懐疑的だった。彼らは、判事が自らの知識の限界を認めたことで安堵したことだろう。
では、今後はどうなるのか。以下は、考え得るシナリオを順不同で紹介する。
シナリオ1:一方または両方の訴訟が却下または差し戻し
ゴンザレス訴訟は厳密には何を主張しているのか、また、なぜこの訴訟が最高裁まで持ち込まれたのかについて、複数の判事が戸惑いの声を上げている。原告側の弁護団は論拠の乏しい主張について批判を受けており、訴訟が却下されるのではないかという憶測もある。そうなると、最高裁は230条に関する判断をすべて回避し、この問題に対処するべきは議会であるという明確なシグナルを送ることができる。また、タームネ訴訟が下級裁判所に差し戻される可能性もある。
シナリオ2:ゴンザレス訴訟でグーグルは勝訴するものの、230条の解釈は変更
最高裁が判決を下す場合、それに対する意見書も出される。意見書は今後、下級裁判所が判決や法律の解釈をどのように変更するかの法的根拠を与えるものだ。したがって、たとえグーグルが勝訴したとしても、最高裁が230条の解釈を変更するような意見書を書かないとは限らない。
このような判決の場合、これまでとは異なる新しい混乱が生じるかもしれない。例えば、「中立的アルゴリズム」について口頭弁論で多くの議論がなされた。テクノロジーは、厄介で複雑な社会的問題から切り離せるという古くからある根拠の薄い社会的通念に踏み込んだのだ。アルゴリズムの中立性の正確な構成要素については不明であり、そして、人工知能(AI)が本質的に非中立的な性質であることについては多くの論文や記事が書かれている。
シナリオ3:タームネ判決が重要な関心の的に
タームネ訴訟の口頭弁論は、ゴンザレス訴訟より手応えがあるように思えた。判事は訴訟の概要や、反テロリズム法をどのように解釈するべきかに焦点を当てた質問をして、裁判を推し進めるように見えた。230条に関して口頭弁論では触れられなかったが、判決によっては、プラットフォームがコンテンツ・モデレーションに対してどのように責任を負うのかが変わる可能性がある。
タームネ訴訟の審理は、ISISがツイッターのプラットフォームをどのように使っていたのか、そして、同社の作為(または不作為)による行動がISISの人員勧誘につながったのかどうかについて、同社が何を承知していたかに重点が置かれた。もし裁判所が原告側(タームネ)の主張に同意した場合、プラットフォームは違法となり得るコンテンツに対して免責を主張するため、気づかないふりをする動機を提供してしまうかもしれない。そうなれば、インターネットの安全性が低下する可能性がある。一方、ツイッターは、テロリストのコンテンツについては政府当局からの通知に依存していたと述べているが、言論の自由に関する別の問題を投げかけるかもしれない。
シナリオ4:230条の廃止
この可能性は、現時点では低い。もし廃止されれば、少なくともテック企業の経営幹部たちの間では、混乱が生じるだろう。しかしながら、利点もある。プラットフォームが引き起こした損害について、プラットフォームに責任を負わせる包括的法案を通過させるよう、議会を後押しする可能性がある。
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他の気になるニュース
- 欧州連合(EU)が、職員のデバイス上でティックトック(TikTok)を禁止。これは中国のソーシャルメディア・アプリに対する相次ぐ政府による規制のうちで最新のものだ。米国の多くの州では、中国共産党によるスパイ活動や影響力を高める工作を懸念しており(米国連邦捜査局(FBI)も同様)、職員によるティックトック・アプリの使用を禁止している。バイデン政権は12月、連邦政府のデバイス上でのティックトック・アプリ使用の一時禁止を含む2023年度の歳出法案を可決した。
- ワイアード(Wired)に掲載されたヴァウヒニ・ヴァラの素晴らしい記事では、私たちが逃れようとしても、巨大テクノロジー・プラットフォームがいかに私たちの生活や経済を支配しているかについて論じている。同記事では、無料の物々交換により消費行動を制限しようとする「何も買わない(Buy Nothing)」運動が、フェイスブックを離れて独自のアプリを始めようとした経緯と、その結果生じた混乱の詳細が説明されている。
- バイデン大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年を迎える直前、サプライズで首都キーウを訪問した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のサブリナ・シッディキ記者が、この秘密の訪問がどのように準備されたのかを詳述している、この非常に面白い記者報告の一読をお勧めする。
最近分かったこと
若者は、政治に関するインフルエンサーの発言を信用している様子だ。それも、かなり。ペンシルバニア州立大学メディア効果研究所(Media Effects Research Lab)の研究者が、ソーシャルメディアのインフルエンサーが「政治運動の強力な戦力」になる可能性を示唆する新しい研究を発表した。なぜ強力な戦力になるかと言えば、インフルエンサーとフォロワー間にある信頼が、政治的意見にも引き継がれるからだ。
この研究には、約400人の米国の大学生を対象とした調査も含まれている。その結果、インフルエンサーからの政治的メッセージは、フォロワーの政治的意見に有意な影響を与えることが判明した。インフルエンサーが信頼できる、知識がある、あるいは魅力的な人物だと見られている場合は、特にそうであった。
国全体、あるいはある地域という両方でインフルエンサーは、政治運動において大きな存在となってきている。必ずしも、全面的に悪いことではない。それでも、懸念すべき点はある。他の研究者らは、インフルエンサーから誤情報を受け取るリスクに対して、人々は特に脆弱だと指摘している。
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- テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
- 新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。