KADOKAWA Technology Review
×
中国テック事情:抗議活動の参加者が続々逮捕、潜入捜査の実態とは
AP Photo/Ng Han Guan
How Telegram groups can be used by police to find protesters

中国テック事情:抗議活動の参加者が続々逮捕、潜入捜査の実態とは

中国で「白紙運動」に参加した市民らが次々と逮捕されている。警察や政府の工作員はどのようにして身元を割り出しているのか。活動家に話を聞いた。 by Zeyi Yang2023.03.10

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

私が大きな関心を寄せているのが、中国警察に拘留されている多くの中国人たちだ。昨年末に北京市内でゼロコロナ政策に対して抗議活動を展開した多くの市民が逮捕されている。警察による市民の逮捕は中国のさまざまな都市で起きた。特に北京警察は次々と市民を逮捕し続けており、1月中旬にも逮捕者が出ている。抗議者たちの動きを伝えているツイッター・アカウントによれば、12月18日以降、北京では20人以上が拘留されており、そのうちの4人は「騒動挑発罪」で正式に起訴されているという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、逮捕者の多くは若い女性とのことだ。

昨年発生した抗議活動の波は、中国の若い世代に対して、市民的不服従を実践する初めての機会を提供することになった。しかし、抗議運動を組織したり、それに参加したりする若者たちの多くは、自分の身を守る方法に関する専門知識を欠いている。中国政府の監視能力が高まっていく中で、活動家たちは監視を逃れるためにテクノロジーの専門家とならざるを得なくなっている。これから活動家になる者は皆、テクノロジーに関する知識を絶えずアップデートしなければならないのだ。

この2か月で何が起きたのか、これから何が起きるのかをより理解するために、私はルー・ピン(吕频)に連絡を取った 。ルーはフェミニズム活動家および研究者であり、現在は米国に居住している。 ルーは現在中国で起きているフェミニズム運動においても特に強い影響力を持っている。そんなルーは現在でも、中国国内の活動家たちの取り組みや、抗議者と警察との長期にわたる膠着した争いへの関与を続けている。ルーと仲間の活動家たちによる活動は平和かつ合法的なものだが、ルーたちは自分たちのやり取りが中国政府によって傍受されている可能性をよく心配している。

ルーに取材し、「白紙運動」の余波について話を聞いた。ルーは、抗議者の身元がどのようにしてメッセージのやり取りから特定されてしまうのか、なぜ多くの中国人抗議者たちが「テレグラム(Telegram)」を使い続けるのか、中国の旧来的な警察や政府工作員らがグループチャットに侵入するために用いたさまざまな手段について説明してくれた。

以下のインタビューは中国語から翻訳したものだ。また、発言の主旨を明確にするため、編集されている。

——中国警察は抗議運動から1か月の間にどのようにして抗議者たちの身元を特定し、逮捕したのでしょうか?

警察はまず、テレグラムのグループへアクセスしたのではないでしょうか。それから、警察は(映像に写っている人々を特定するために)顔認識技術を用いた可能性があります。白紙運動に参加した多くの人は撮影されており、顔もはっきり見えるようになっていました。こうした映像で確認できる顔から、警察が今もさらに多くの抗議者の身元を特定しようとしている可能性はあります。

逮捕された人たちには身元が特定された原因が映像であると裏付ける術はありません。しかし、抗議者たちの友人たちは(顔認識が使用されたのではないかと考えており)、多くの人たちに警告しています。

——ルーさんのおっしゃるように、テレグラムのグループに一部の抗議者が参加していたことに関する情報を警察が 確かに持っていた、という報道がありました。一体テレグラムでは何が起きていたのでしょうか?

(北京の抗議者たち)がテレグラムのグループを使用することに決めた時、抗議運動に関する情報を保護する必要があることには気づいていませんでした。結局、抗議者たちのテレグラムグループは誰にでも見られるような状態になっていました。一部の抗議者はグループのスクリーンショットを撮り、「ウィーチャット(WeChat)」のタイムラインに投稿すらしていました。

亮馬河付近(北京で11月27日に抗議が行われた場所)の抗議運動の際ですら、このグループチャットはまだ使われていました。警察が抗議者たちを逮捕した時、抗議者たちには携帯電話からグループチャットを削除する時間が無かったのではないでしょうか。もし本当にそうであれば、(グループに関する情報)は全て安全に保てなくなったと言えるでしょう。

——そのテレグラムグループには警察が潜入していたという可能性はありますか?

テレグラムグループに政府の人間が紛れ込んでいたのは間違いないでしょう。私たちが中国国内でフェミニズム運動の組織をしていた時、(グループ内には)常に政府の工作員が潜入していました。工作員は偽物の身分を用いて、運動の指導者たちにコンタクトを取り、こう言うのです。私はフェミニズムに興味を持つ学生です。集会に出席し、ウィーチャットのグループに参加して、次の集会がいつなのかを知りたいです。工作員たちは数え切れないほどのウィーチャットのグループに参加し、集会を監視しようとしていたのです。侵入されるのはフェミニズム活動家のグループチャットだけではありません。工作員はありとあらゆる市民社会団体のグループチャットに参加するでしょう。その団体がLGBTQの権利や環境保護(を推進するもの)であってもです。

——こうしたグループチャットに工作員が侵入することの目的は何なのでしょうか?

中国の各政府機関にはそれぞれ異なる職務があります。(潜入によって)情報を集めているのは主に国家安全部の人間です(編注:同機関は海外での諜報活動やスパイ防止活動を担っている)。国家安全部は長期的な目標に基づいて活動しているので、情報収集が主な仕事となります。集会を止めさせるという責務は負っていません。

一方、公安部(編注:同機関は一般的な警察組織である)の目的は、市民による集会を直ちに中止させることです。公安部はより短期的な目標に基づいて活動しています。私の経験から言えば、公安部のテクノロジーに関するノウハウは比較的(基礎的な)ものに留まっています。公安部は主にウィーチャットでの取り締まりを行っており、VPNは一切使用していません。また、公安部の職員はひとつの地域のみでしか職務を行わないので、職員の身分を知ることは簡単です。例えば、広州市の公安部職員は、広州市で起ころうとしていることにしか興味がありません。そのため、職員の正体が市民にばれるという可能性もあるのです。

——中国市民は 「李先生」 のようなツイッター・アカウントが正体を隠した警察によるものではないのかと疑っているようです。市民がそうした疑いを持つことに一理あるのでしょうか?

かつてはこんなにややこしくはなかったのです。かつて政府は検閲メカニズムを用いて中国国内での(人々の投稿)をコントロールしていました。ですので、(海外のプラットフォームにフィッシング用アカウントを作成する)必要などなかったのです。しかし、白紙運動の特徴の1つとして、海外のプラットフォームをこれまで以上に活用したということが挙げられます。

ただ、公開されている(ツイッター)のアカウントが政府のためにフィッシングで情報収集をしているという可能性は比較的低いと、私は考えています。政府による工作活動には必ずしも複雑な計画があるわけではありません。フィッシングをするとなれば、アカウントを作成し、一般ユーザーによるそのアカウントへのコメントを許可し、コメントを遠隔で監視し、一般ユーザーの活動を監視しなければなりません。(公開)アカウントを運営するというのは実に多くの労力が必要な作業なのです。フィッシング用アカウントを運営するぐらいなら、ウィーチャットやテレグラムのグループに潜入して情報を得た方がずっと効率的です。

ですが、市民がこのような不安を抱くのも無理のないことなのです。政府の情報工作ツールは急速に進化します。政府が運動やメンバーの情報を手に入れる度に、私たちはどのように情報が漏洩したのかを分析しようとします。以前はなぜ情報が漏洩したのかを突き止められることが多かったのです。ですが、最近ではどのように警察に見つかったのかを知ることはほとんどできません。つまり、政府によるデータ調査スキルが現代的なものになったのです。ですので、(フィッシング用アカウントが存在する)という疑いを持つことも理解できることです。

ここにはあるジレンマがあります。確かに私たちは警戒をしていなければなりません。一方で、私たちが恐怖に飲み込まれてしまえば、勝つのは中国政府です。現在、私たちはそうした状況に置かれているのです。

——ウィーチャットの代わりにテレグラムを使い始めたのはいつ頃ですか?

私が使い始めたのは2014年か2015年頃です。2015年に、私たちはテレグラムを通して、(中国政府によって拘留されていた5人のフェミニズム運動家)を救出するという運動を組織しました。それまで、ウィーチャットが安全ではないということを人々は知りませんでした(編注:ウィーチャット上のメッセージはエンドツーエンドの暗号化がされておらず、警察が刑事訴追のために使うことがある)。それ以降、安全にメッセージのやり取りをできるアプリとして、人々がまず選んだのがテレグラムでした。当時、テレグラムは中国国内でも安全かつ利用しやすいアプリでした。それから後になって、テレグラムは規制を受けるようになりましたが、(テレグラムを使用する)習慣は残っています。私はもうテレグラムは使用していませんけどね。

——テレグラムは、最も安全なアプリであるとは言い切れないにも関わらず、「抗議運動に最適なアプリ」という評判を獲得したように思えます。何故なのでしょうか?

小さな地下組織を運営しているだけなら、様々なソフトウェアを選んで使うことができるでしょう。ですが、より多くの人に組織へと参加してもらいたいのならば、人々がすでに知っていて、広く使用されるアプリでなければなりません。そこで、テレグラム選ばれるようになったのです。

すでにグレート・ファイアウォールの外側に抜け出そうとしているのなら、「シグナル(Signal)」や「ワッツアップ(WhatsApp)」などを使えばいいと私は思います。ただ、多くの中国人はワッツアップのことを知らないので、テレグラムを使い続けるのです。テレグラムを使用する人が多いのはそれが有名なアプリだからです。どんなソフトウェアでも、ユーザーを引き留めておけるかどうかという問題があります。新しいソフトウェアへと移行する度に、たくさんのユーザーが離れていくのです。それは深刻な問題です。

——では、中国の抗議者たちと連絡を取り合うために現在どのようなアプリを利用していますか?

私たちが現在使っているアプリですか?それは秘密です(笑)。そもそも、テレグラムが監視と規制の対象となったのは、2015年に多くのメディアがテレグラムの利用法について取り上げたからなのですよ。

中国関連の最新ニュース

1.中国が気象観測用と称する気球が米国に流れ着いた一件により、アントニー・ブリンケン国務長官は予定されていた習近平主席との会談を延期せざるを得なくなった。(CNN

  • 中国が気球を飛ばした目的は具体的には分かっていないが、自動落下システムが正常に機能しなかったのだろうと専門家は述べている。(アーズ・テクニカ)
  • 気球が撃墜されて以降、米国の湾岸警備隊はその残骸を大西洋にて捜索している。気球の残骸から中国がどのような方法で諜報活動を行っていたかを知ることできるのではないかと米当局は考えている。(ロイター通信$
  • 気球自体に多くの安全保障上のリスクがあったとは限らない。ただし、今回の一件に関して米中の緊張が高まったことは、両国の軍当局が現在は十分に意思疎通できていないことを明らかにした。(ニューヨーク・タイムズ紙

2.ティックトック(TikTok)がようやくロサンゼルスに透明性センターを開設した。ティックトックがどのようにモデレーションしているかを検証できる場所を設けると最初に発表してから、3年が経過している。フォーブス誌の記者がセンター内部の見学を許可されたが、その評価は芳しくない。(フォーブス誌

3.検索エンジンおよび人工知能(AI)分野における有力な中国企業であるバイドゥ(百度)が、「チャットGPT(ChatGPT)」のような対話AIを3月に公開する予定だという。(ブルームバーグ

4.フォックスコンが経営する中国のアイフォーン製造工場にとって、この3か月間は最も忙しい時期であるはずだった。その代わりに、新型コロナウイルスの感染者が大量に発生したり、従業員が猛烈な抗議運動を実施したりしたことで、工場は混乱状態に陥った。(レスト・オブ・ワールド

5.新たな分散型ソーシャルメディアプラットフォームである「ダムス(Damus)」が中国で5分間(実際には2日間)の名声を得た。その後、国内のサイバーセキュリティ法に違反したとして、アップルはダムスを中国のアップストア(App Store)から除外した。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙

6. 台湾は2025年までにすべての原子力発電所を閉鎖すると決定した。しかし、台湾の再生可能エネルギー産業は原子力発電所の穴埋めをする態勢が整っておらず、現在はエネルギー供給を確実なものとするために新しい化石燃料発電所が建設されている。(ハフポスト

7. 匿名の情報提供者によれば、サンディエゴに本社を置く自動運転トラック開発企業のトゥーシンプル(TuSimple:北京图森互联科技)の経営者らが不当にテクノロジーを中国へと移転したと、米司法省が疑っているという。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

スマホレンタルが中国で人気

中国では、スマホを購入する代わりにレンタルすることが人気になりつつあると、中国語の情報媒体であるシェンラン・カイジン(Shenran Caijing)が伝えている。2021年にはスマホレンタルの売上が190億元(27.9億ドル)あり、中国ではニッチだが成長を続けている市場となっている。人々がスマホレンタルを利用する理由として多いのは、最新機種を持っていると自慢するためである。また、スマホが壊れ、新しいアイフォーンが発売されるのも数か月後であるなどといった場合に、その場しのぎとしてレンタルを利用する人も多い。

しかし、スマホレンタルでお金が節約できるわけではない。スマホのレンタル料は1日あたり1ドルから2ドルに過ぎないが、長期間借りればレンタル料も嵩む。また、多くのレンタル業者は最低レンタル期間を6か月と定めている。結局、すぐに新しいスマホを買った方がお金の節約になるだろう。

高いレンタル料と法規制の抜け穴を理由として、スマホレンタルの仕組みを悪用する者もいる。スマホレンタルを一種のキャッシュローンとして用いる者もいる。高性能スマホをレンタルし、すぐさま売却することで現金を得て、それから時間をかけてレンタル料および本体の買い取り代金を支払っていくのだ。また、他人の名義を利用してスマホをレンタルし、本体を手に入れたら姿を消してしまうという詐欺事件も発生している。

最後にもうひとつ

武漢市に生まれた私は、ギベリオブナのような淡水魚を食べて育ってきた。武漢の淡水魚は実に美味だが、人気のある淡水魚には小骨が海水魚よりもたくさんあることが多い。そのため、食べるのが大変でいらいらさせられることもある。先日、武漢市の水中生物学者チーム(淡水魚の研究と言えば武漢市に決まっている)がある発表をした。研究チームは遺伝子編集テクノロジーのクリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)を用いて、小骨を持たないギベリオブナの突然変異を創り出したのだ。正直に言って、これこそが私にとっての本物のイノベーションだ。

CT scans from the academic paper showing the original fish and the mutant version without small bones.
人気の記事ランキング
  1. Who’s to blame for climate change? It’s surprisingly complicated. CO2排出「責任論」、単一指標では語れない複雑な現実
  2. Who’s to blame for climate change? It’s surprisingly complicated. CO2排出「責任論」、単一指標では語れない複雑な現実
ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る