KADOKAWA Technology Review
×
始めるならこの春から!年間サブスク20%オフのお得な【春割】実施中
顔認識の失敗で収入ゼロに、インドのウーバー・ドライバーの憂鬱
Selvaprakash Lakshmanan
人工知能(AI) 無料会員限定
Uber’s facial recognition is locking Indian drivers out of their accounts 

顔認識の失敗で収入ゼロに、インドのウーバー・ドライバーの憂鬱

ウーバーは今やインドの多くの人々の収入を支えている。だが、ドライバーの本人確認に使われているアプリによって、一瞬で収入源を失うドライバーもいる。 by Varsha Bansal2023.01.17

2021年2月のある夕方、ウーバー(Uber)のドライバー、ニラディ・スリカント(23歳)は、自分の中型セダンで新しいシフトに入る準備をしていた。南インドの都市ハイデラバード周辺で乗客を運んでいるスリカントは、本人確認のためにウーバーのアプリにログインしてスマートフォンでセルフィー(自撮り)を撮った。いつもなら簡単に終わる手続きなのに、その夕方はセルフィーが認識されなかった。

スリカントがその理由を思いつくのに時間はかからなかった。スリカントは、およそ560キロメートル離れたティルパティにあるヒンドゥー教の寺院を参拝し、剃髪して豊かな暮らしを祈願し、帰ってきたばかりだったのだ。

ウーバーのアプリが再試行を促したので、スリカントは数分待って、もう一度写真を撮った。また認識されなかった。

「予約のことが心配になりました。一定数の予約をこなしてインセンティブを得るという1日の目標があるからです」とスリカントは説明する。「時間を無駄にしたくないので、本人確認を終えて仕事を始めたいと思いました」。そこで彼は、もう一度試みた。今度は、2台目のスマートフォンを使って、寺院を訪れる前の自分の写真を撮影したが、ウーバーからアカウントがブロックされた。

これはスリカントに限ったことではない。MITテクノロジーレビューがインド国内のウーバー・ドライバー150人を対象にした調査では、約半数がセルフィーに問題があった結果、アカウントが一時的または永久に締め出された経験があると判明した。多くのドライバーは、ヒゲや剃髪した頭、散髪など、外見の変化が原因ではないかと疑っていた。また、別の4分の1のドライバーたちは、照明不足が原因だと考えていた。

スリカントは、2台目のスマートフォンに保存してある写真を撮るという一瞬の判断が、月500ドル以上の収入ある生計をゼロにしてしまったと考えている。その後、何カ月もかけてアカウントを復活しようと試みたが、無駄だった。結局、彼は故郷に戻らざるを得なくなった。いくつかの仕事を掛け持ちしているが、ウーバーで働いていた頃に比べれば、わずか10%程度の収入にしかならない。

インドで顔認識テクノロジーを使わなければならない労働者は、スリカントの他にもたくさんいる。インドにいる60万人のウーバー・ドライバーのほかにも、インドの配車プラットフォームのオーラ(Ola)、食品配達のスウィギー(Swiggy)やゾマト(Zomato)、美容師、セラピスト、配管工などの専門家を派遣するアーバン・カンパニー(Urban Company)といったスタートアップで働く人は多い。いずれも、労働者に自社プラットフォームへのログインと、本人確認のためのセルフィーのアップロードを求めている。

他の地域では、ギグワーカーが顔認識に反撃している。例えば英国では、少なくとも35人のウーバー・ドライバーが2021年、アカウントを不当に停止されたと訴えた。英国の独立系労組 IWGB(Independent Workers Union of Great Britain)は、「人種差別的アルゴリズム」と非難している。ウーバーはソフトウェアが原因で、英国で少なくとも2件の訴訟に直面している。 

一部の国や地域では、ギグワーカーに対する保護を強化する動きがある。欧州連合(EU)は2021年、労働条件を改善し、アルゴリズムの透明性を提供する指令を提案した。また同年9月、ギグワーカーをカリフォルニア州法で保護されている従業員給付の対象から除外するという州の「プロポジション22」は住民投票で可決されたが、カリフォルニア州の裁判所は州憲法に違反しているとして無効にした。このような規制は、アルゴリズムを使ったシステムが「労働者の権利に悪影響を与える」可能性を認識している、とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの博士研究員、ディビジ・ジョシ弁護士は話す。しかし彼によると、インドでは現在、ギグワーカーに対する法的保護がほとんどない。「インドでの政策や規制において、こうした透明性への取り組みは見られません」(ジョシ弁護士)。

問題が解決されず、保護手段が限られたままであれば、仕事だけにとどまらず非常に大きな範囲に影響 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中!年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #32 Plus 中国AIをテーマに、MITTR「生成AI革命4」開催のご案内
  2. AI companions are the final stage of digital addiction, and lawmakers are taking aim SNS超える中毒性、「AIコンパニオン」に安全対策求める声
  3. What is vibe coding, exactly? バイブコーディングとは何か? AIに「委ねる」プログラミング新手法
  4. Tariffs are bad news for batteries トランプ関税で米電池産業に大打撃、主要部品の大半は中国製
▼Promotion
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る