ディープマインドのAIが行列乗算で数学者の50年来の記録を破る
行列乗算はコンピューティングにおいて頻繁に使われ、コンピューターが日常的に実行する何千ものタスクに影響を及ぼしている。ディープマインドのAI「アルファゼロ」は、行列乗算をこれまでよりも高速に実行する方法を発見した。 by Will Douglas Heaven2022.10.17
ディープマインド(DeepMind)がボードゲームをプレイする人工知能(AI)、「アルファゼロ(AlphaZero)」を用いて、これまでより短い時間でコンピューター科学における根本的な数学の問題を解く方法を発見した。これにより、50年以上持続していた記録が打ち破られることになった。
その問題とは、行列乗算のことである。行列乗算は、画像を画面に表示したり、複雑な物理演算をしたりといったさまざまなアプリケーションにおいて、中心的な役割を果たす極めて重要な計算法である。また、行列乗算は機械学習自体にとっても基礎となるものである。行列乗算にかかる時間を短縮できれば、普段コンピューターが実行している何千ものタスクに大きな影響を与え、コスト削減やエネルギー節約にもつながる可能性がある。
「これは本当に素晴らしい結果です」と、名古屋大学の数学者、フランソワ・ルガル教授は言う(同教授はこの研究には参加していない)。「行列乗算はエンジニアリングのあらゆる場面で用いられています。数学的に解きたい問題があるなら、行列を使うのが一般的です」。
行列乗算は広く用いられているものだが、まだあまりよく理解されていないところもある。行列とは単に数字の行と列から成っているものであり、どんなものでも意味し得る。2つの行列を掛け合わせる際には、片方の行列の行と、もう片方の行列の列とを掛け合わせることが普通だ。行列乗算の問題を解くための基本的なテクニックは高校で教わる。「行列乗算はコンピューティングにおける基礎のようなものです」と、ディープマインドのAI科学応用チームのリーダーを務めるプシュミート・コーリ博士は言う。
しかし、より短い時間で問題を解くための方法を見つけようとすると、行列乗算はややこしいものとなる。「行列乗算の問題を解くための最適なアルゴリズムは知られていません」とルガル教授は言う。「行列乗算は、コンピューター科学における最大級の未解決問題の1つなのです」。
その理由は、2つの行列を掛け合わせる方法は、宇宙における原子の数よりも多いからである(研究者が調べた一部のケースにおいては、その方法の数は10の33乗にまで及ぶという)。「存在し得る計算法の数はほとんど無限と言ってもいいでしょう」と、ディープマインドのエンジニアであるトーマス・ヒューバートは言う。
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