スペースXに清華大OBが1000人?リンクインで横行する偽アカの狙い
リンクトイン(LinkedIn)を見ていると、学歴も職歴もよく似た複数のアカウントが存在する。これらは名門大学の卒業生や大手テック企業の社員を装って偽のつながりを作り、詐欺を働くグループの仕業だ。 by Zeyi Yang2022.10.05
リンクトイン(LinkedIn)のページだけを見たら、マイ・リンチェンのことを間違いなく一流のエンジニアだと思ってしまうだろう。中国の名門大学である清華大学で学士号、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で半導体製造の修士号を取得したマイは、インテルと宇宙技術企業のKBRでキャリアをスタートさせ、2013年にスペースXに入社した。以来8年9か月にわたって人類を宇宙へ送るための活動に従事してきた彼は、現在同社で上級技術者を務めている。
ところが、実際にはそうではなかった。
よく調べてみると、疑わしい痕跡が多数存在する。米国に18年間住んでいるにもかかわらず、マイの役職、学位、会社所在地は、すべて中国語で書かれている。経営学の学位を取得したことになっているが、清華大学では経営学の学位は学生アスリートにのみ授与される。マイは学生アスリートではない。プロフィール写真の男性は、マイが自称している年齢よりも若く見える。画像は、韓国人インフルエンサーのヤン・インモのインスタグラムから盗用されたものであることが判明した。実際のところ、このページの情報はどれも事実ではない。
「マイ・リンチェン」のプロフィールは、実際にはユーザーを詐欺に引っ掛けるためにリンクトインに設定された、何百万という悪意あるページの1つである。詐欺の多くは暗号通貨への投資絡みで、世界中の中国系の人々を標的にしている。マイのような詐欺師は、名門校や一流企業との結びつきを主張して自身の信用を高めてから、他のユーザーとつながり、関係を築き、金銭的な罠を仕掛ける。
こうした活動は、リンクトイン以外のソーシャルメディア・プラットフォームやマッチングアプリで何年も前から横行していたが、リンクトインでは昨年あたりからじわじわと増加している。同社のオスカー・ロドリゲス上級部長(信頼性・プライバシー・衡平性担当)によると、リンクトインは2021年下半期において、不正IDを理由に上半期よりも7%多くプロフィールを削除した。
「詐欺師はとても洗練されており、先回りして頻繁に戦術を変えてきます」とロドリゲス上級部長は言う。例えば、バイデン政権が学生ローンの返済免除計画を発表してから1週間後、リンクトインではこのニュースをスクリプトに組み込む詐欺師が見られるようになった。
リンクトインに端を発する詐欺被害者の被害額は、数百万ドルに達している。米国連邦捜査局 (FBI) はこの夏、これらの詐欺事件を捜査し、たとえ金銭的な損失を取り戻すことがほぼ不可能だとしても、被害者と協力のうえ詐欺師を特定し、その口座を凍結すると発表した。
FBIの特別捜査官で、サンフランシスコとサクラメントの地方局を担当するショーン・ラガンは6月、「詐欺師は人や企業をだますためのさまざまな方法を常に考えています」とCNBCに語っている。「そして詐欺師は、準備、目標と戦略の決定、使用するツールと戦術の選定に時間をかけているのです」。ラガン特別捜査官は、犯罪者の一連の手口を「重大な脅威」と呼んだ。
スペースX 「社員」からのアプローチ
7月のある時点で、「マイ・リンチェン」のように清華大学を卒業し、スペースXで働いていると主張するリンクトインの個人プロフィールは1000件以上存在した。この目を見張るような数は、愛国系中国人インフルエンサーが、国の頭脳流出を嘆き、中国の大学卒業生が国への忠誠心に欠けると非難するきっかけにもなった。
これに目を留めたのが、トロントを拠点とするテック系インフルエンサーで、フィナンシャル・タイムズ紙中国版のコラムニストでもあるジェフ・リーだ。リンクトインでスペースXの従業員を検索したところ、1004人の清華大学卒業生が見つかることを7月11日に報告した。清華大学がスペースXで最大の学閥ということになってしまう人数だ。しかし、彼が目にした多くのアカウントは、まったく同じ学歴と職歴を主張しており、何者かがプロフィールを大量に偽造している可能性が高い。
「プロフィールにあった人たちは、全員が清華大学を卒業し、南カリフォルニア大学またはそれに類する有名大学に進学していました」とリーは言う。「その上、彼らは皆、上海にある特定の企業で働いていました。明らかに、これらは生成された虚偽のデータだと思われます」。
MITテクノロジーレビューはスペースXに対し、同社で働く清華大学卒業生の人数を問い合わせたが、回答は得られなかった。
リーが偽のリンクトイン・アカウントと思われるものに気づいたのは、今回が初めてではない。2021年の終わり頃から、リンクトインの本物のユーザーには珍しい「つながり」が数十人未満のプロフィールが見られるようになった。プロフィール写真はどれも魅力的なルックスの男性と女性で、他のWebサイトから盗用された可能性が高いという。ほとんどが中国系で、米国またはカナダに住んでいることになっていた。
同じ頃、この現象は、「豚の屠殺詐欺(pig-butchering scams)」を追跡するボランティアグループ「グローバル詐欺撲滅団体 (GASO)」の広報担当者であるグレース・ユエンの目に …
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